電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第630回

ローム(株) 代表取締役社長 社長執行役員 東克己氏


改革で収益基盤立て直し
SiCは用途拡大で再成長

2025/6/13

ローム(株) 代表取締役社長 社長執行役員 東克己氏
 ローム(株)(京都市右京区)は、市況の悪化に伴う生産調整で2024年度に約400億円の営業損失を計上した。4月1日付で代表取締役社長 社長執行役員に就任した東克己氏は、収益性改善に向け拠点再編などの事業構造改革に着手している。改革の概要や今後の戦略について話を聞いた。

―― 社長就任の経緯から。
 東 松本功前社長が構造改革の実行を新経営体制に引き継ぐことを考え、役員指名協議会を通じて24年秋に後継の打診を受けた。スピード感を持って厳しい判断ができるというのが、後継に選ばれた理由だと認識している。代表取締役社長を務めていたローム・アポロ(株)での改革が軌道に乗るまで1年時間が欲しいという想いもあったが、全社レベルの改革の方がより重要と考え火中の栗を拾う心境で引き受けることにした。

―― 業績不振の要因は。
 東 当社は21、22年度に2年連続で過去最高売り上げを更新したが、当時はかつてないレベルで需要が急増した。あらゆる部材が逼迫していたため、機会損失を防ぐために装置や材料を先行手配していたが、その後、市況の風向きが大きく変わった際にブレーキを踏むのが遅れ、過剰な能力や在庫を抱えてしまった。

―― 能力・在庫の適正化に向けた対策は。
 東 すでに設備投資の抑制に着手しており、21~25年度の累計投資額を7000億円から約6100億円に引き下げた。在庫水準も需給を見極めつつ、緩やかに抑制していき、25年度中をめどに適正化させる。

―― 生産拠点の再編や価格適正化も進める。
 東 生産拠点の再編は2~3年かけて実施する方針で、25年度内をめどに方向性を示す。価格適正化に向けてもインフレコストの転嫁など顧客との話し合いを開始した。

―― 足元の需要動向は。
 東 4~6月期は想定を上回っているが、米国の関税政策による前倒し需要との見方もあり、7~9月期以降は不透明感が強い。アミューズメント向けは増産要請が来ているので、対応をしっかりしていく。

―― SiCは中長期の成長方針を維持する。
 東 一時的に成長鈍化しているが、将来的には拡大するとの見方に変わりはない。電気自動車の主機インバーター向けに加え、25年にプラグインハイブリッド、26年にハイブリッド向けの量産が始まる予定だ。また、AIサーバーでは低消費電力化のため、400Vから800Vにシフトする動きがあり、SiCとGaNデバイスの需要増が期待できる。SiC事業の25~27年度の累計設備投資額は2800億円から1500億円に削減するが、デバイスやモジュール開発は加速させて競争力を高める。

―― GaNデバイスは。
 東 サーバーメーカーから高速・大電流化が求められており、GaNの特性を活かせる。また、マツダ(株)と車載オンボードチャージャー向けを共同開発しており、自動車分野にも展開を図っていく。

―― その他の半導体材料への展開は。
 東 酸化ガリウムはコーポレートベンチャーキャピタルを通じ、出資しているほか、ダイヤモンドなども動向をウオッチしている。いずれも少し時間はかかると思うが、ゲームチェンジが起こる可能性もあるので注視していく。

―― シリコンデバイスの方針は。
 東 近年、車載や産業向けを強化してきたが、民生にも再度力を入れる。民生は技術革新が早く、キャッチアップに重要な領域とみている。

―― 4月1日付でマーケティング本部を設置した。
 東 事業部ごとに分散していた、マーケティング機能を統合した。これまで事業部ができるものしか作らない傾向に陥っていたが、市場の観点から売れるものに挑戦し、新市場を開拓する方向に転換させる。技術についても、新製品のために必要な開発に挑戦していく体制とする。

―― 東芝やデンソーとの協業について。
 東 東芝とは生産での連携を開始し、さらに踏み込んだ提携に向けた協議を進めている。デンソーとはアナログICを中心に開発での連携で合意し、より幅広い分野での協業も検討していく。中国の技術進歩に対抗するにはマスメリットが必要で、これらの協業は日本が勝つために必須と考えている。このほかにも様々な外部連携を検討していく。外部との連携の例ではチップレットもある。当社ファブで製造したパワー・アナログチップと外部ファンドリーの微細プロセスチップを貼り合わせ、新たな高付加価値ソリューションを実現できる。

―― 後工程では自動化の試みもある。
 東 ローム・アポロの広川工場で開発し、多品種少量ラインとして量産稼働している。順次、要素技術を量産工場に適用していく。

―― 今後の人材戦略は。
 東 現在の社員をよりハイレベル化し、リスキリングなど新たなことに挑戦できるようにしていく。新入社員も若いころから色々任せて一人前のエンジニアに育て、その道の第一人者になれるよう指導する。そのために、会社として仕組みづくりを進めたい。



(聞き手・副編集長 中村 剛)
本紙2025年6月12日号1面 掲載

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