米国との間で続けられていた関税をめぐる交渉が決着し、8月1日から発動するとされていた相互関税25%を15%に引き下げることで合意した。また、自動車については4月3日より25%の追加関税がかけられていたが、これを半分の12.5%に引き下げ、既存の2.5%と合わせた15%とすることで合意した。
スズキ(インド市場に注力)を除く主な日系自動車メーカーにとって米国市場は主戦場であり、販売の増減が収益に大きく影響する。今回の交渉の決着で、追加関税は半分に引き下げられたものの、日系自動車メーカー6社合計でみると、依然として年間で約1兆円もの収益を圧迫するとみられている。
また、気がかりとなるのが、日本からアメリカへ輸出されている133万台の行方だ。国内では2024年に約820万台が生産されており、米国への輸出はその約6分の1に上る。米国では「今回合意には至ったが、合意した項目の進捗を4四半期ごとに精査。日本の実行状況にトランプ大統領が不満であれば、再び25%に逆戻りする」としており、関税影響の長期化が懸念されるようであれば、自動車生産の米国へのシフトが進むと思われ、国内自動車産業にとって大きな打撃となる。
日系自動車メーカーの動向
25年5月のゴールデンウイーク明けから、日系自動車メーカー各社が24年度の業績結果ならびに25年度の業績見通し、追加関税影響(5月時点では25%で想定)を発表した。ホンダでは寄居工場で生産している一部車種の米国への早期移管を発表。トヨタも国内生産300万台は確実に維持するとしつつも、将来的には米国での現地開発・現地生産を強化していく方針を明らかにした。また、三菱自動車は「米国および米国への依存度が高い地域での景気後退が想定される」との懸念を示した。
■トヨタ自動車
トヨタ自動車の25年度の連結販売台数見通しは、980万台。不透明な市況下ではあるが、日本や北米をはじめとした全地域でプラス成長を見込む。
注目の北米市場は前年度から24万台増の294万台を計画している。「24年度に品質問題で4カ月間停止していたインディアナ工場の生産がフルで戻ってくるとともに、前年度のバックオーダーもあることから、プラス成長を見込んでいる」と宮崎副社長は語った。また、米国による追加関税の影響については、「まさに今、政府間で交渉しており、詳細は流動的で現段階で先を見通すのは難しく、発動されている25年4月ならびに5月分のみで1800億円の減益を織り込んだ」としている。
Toyota Battery Manufacturing, North Carolina(トヨタでは23年に米国での車載電池生産に80億ドルの追加投資を発表)
同社では、日本から米国向けに年間で約50万台の車両を輸出している。関税分の価格への転嫁については、場当たり的な対応はとらず、市況や他社の状況を見極めながら対応していくとしている。なお、中長期的には日本国内での300万台という生産台数を確実に維持しつつも、米国での現地開発・現地生産を一層強化していく方針も明らかにした。
■ホンダ
ホンダは、25年度通期の売上高が前年度比6%減の20兆3000億円、営業利益が同59%減の5000億円の見通しを示した。グループ販売台数は二輪事業で主にアジアでの増加を反映して同72.8万台増の2130万台、四輪事業では主に中国での減少により、同9.6万台減の362万台を計画する。
米国の関税影響については、四輪完成車で3000億円、四輪部材・原材料で2200億円。また、二輪車/パワープロダクツ関連でも1300億円の計6500億円の影響を想定している。
「社内努力として経費削減などは引き続き行っていくとともに、完成車のアロケーションを最適化していく。例えば、シビックの5ドアHEVは現在、寄居工場で生産しているが、部品が無くなり次第、米インディアナ工場へ移管。また、カナダで生産しているCR-Vを米工場へ集約していくなど短期的にできることがある。関税処置が長期となる場合には、現在2シフトで稼働している米工場を3シフトへの変更や土日の稼働など、増産の余地があり、その先に設備投資を考えていく」(三部社長)と述べた。
2025北米カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した北米向け「CIVIC HYBRID」
なお、四輪事業においては、EV市場の成長が当初想定した以上に鈍化していることから、24年に発表したカナダでの包括的バリューチェーン構築(年産24万台のEV工場、年産36GWhの車載LiB工場など)の計画のタイミングを見直し、総額150億カナダドルの投資を2年延期することを決定。再開時期などは、今後の市況を見極めながら判断する。
■日産自動車
日産自動車では、25年度通期のグローバル販売台数は、前年度比3%減の325万台を見込む。「この数字に米国関税の影響は含んでおらず、中国での大幅な販売減が主に影響。日本や北米、欧州の販売は前年並みで、ブラジルやインドなどのその他市場が前年から7%程度増加するとみている」とイヴァン・エスピノーサCEOは語った。
なお、米国の追加関税影響については、メキシコからの輸出が約30万台、日本からの輸出が約12万台で、25年度のグロスでの米国関税の影響は最大で4500億円と試算。一方で、米国内製造モデルの販売強化や米国生産能力の活用、戦略的な生産アロケーションの検討、さらなる米国内での現地化など、様々な軽減対策を講じていくことで25年4~6月期に想定される関税影響の約30%を緩和できる見通しを示した。
そのほか日産では、経営再建計画「Re:Nissan」で推進するグローバルな生産拠点の見直しの一環として、追浜工場(神奈川県横須賀市)における車両生産を27年度末に終了すると発表。同工場での車両生産は、日産自動車九州㈱へ移管・統合し、現在、追浜工場で生産しているモデルや今後生産を開始するモデルは、日産自動車九州で生産する予定。ただし、同地区にある総合研究所やGRANDRIVE、衝突試験場、追浜専用ふ頭などの機能は継続していく。
■スズキ
スズキは、25年度通期における四輪車の販売台数が前年度比3%増の332.4万台、生産台数が同5%増の345.4万台を計画している。
25年度の市場見通しについて鈴木社長は、「米国関税が当社に与える直接影響は少ないものの、グローバルに不景気の影響が広がるのではないかと懸念している。インドでは、安全装備の充実や規制の強化により新車の値段が上がり、なかなか一般のお客様の手が届かなくなっている状況のなか、インド政府として減税措置をどう取っていくかによって左右される。政策をしっかりと見極めながら対応していく。富裕層の中ではSUV化、大型化が進んでおり、当社は今期、SUVで新機種を投入していくため、SUVのシェア拡大も狙っていく」と語った。
■マツダ
マツダの24年度通期のグローバル販売台数は、前年度比5%増の130.3万台。日本をはじめ、欧州、中国、その他市場で軒並み前年割れとなったものの、北米で同20%増の61.7万台となり過去最高を記録した。米国では、CX-50とラージ商品群が牽引し、過去最高となる43.5万台(前年度比16%増)を販売した。
中国では、内燃機関車の需要減少により、販売台数は同23%減の7.4万台にとどまった。マツダでは24年10月から電動専用モデル(BEV/PHEVの2種類)を投入しテコ入れを図っている。
一方、25年度の業績予想については、米国関税政策など先行きが不透明な経営環境を受け未定とした。なお、米国関税への対応としては、①部門横断の対応チームを立ち上げ、取引先や販売店、顧客への影響を最小限に抑えることを原則として対応、②モデルミックスの改善により収益を最大化、③工場の安定操業に向けてグローバルでの販売機会を検討・最適化、④コスト低減活動を加速し、優先順位を見直し全社的な緊急の取り組みを実施の大きく4つを掲げ、影響の最小化を図っていく構えだ。
■三菱自動車
三菱自動車では、25年度通期の小売販売台数として、前年度比4%増の87.8万台を計画している。地域別では、日本市場はおおむね前年度並みの自動車需要を見込む。三菱自動車らしさを象徴する車種により、向上してきたブランド力を強化し、新型車をテコにしたさらなる販売拡大と、他の商品への波及効果の最大化を狙う。
北米では、関税リスク、金利高止まりの可能性、景気鈍化リスクなどにより非常に不透明な状況が続くとともに、市場競争の激化も懸念される。ASEAN各国の販売環境は全般的には厳しい状況が続くと予想。タイは家計債務比率が依然として高水準であり、マクロ経済の回復が見込めない。インドネシアでは、増税や新政権の分配政策による景気停滞が懸念され、ベトナムとマレーシアは、米国の相互関税の影響を受ける可能性がある一方、フィリピンは比較的好調な市場環境が続くことが見込まれる。
なお同社では米国の関税の影響について、米国および米国への依存度が高い地域での景気後退を想定し、その影響額を試算。関税の追加および卸売台数が減少することに対して、コスト削減を中心とした施策を実行することで、一定程度吸収し、影響額を25年度通期で400億円と見積もっている。
■SUBARU
SUBARUは、25年度通期の見通しとして生産・販売台数ともに90万台を計画。BEV生産に向けた工事に伴い、矢島工場にある2本の生産ラインのうち1本で生産制約が一時的に発生するが、他の生産ラインでの挽回で90万台を目指していく。
売上高・営業利益については米国関税政策の動向など不透明な状況が続いており、現時点では未定としたが、「販売台数の上積み、車種グレードミックス改善による台あたり収益の向上、販売奨励金の抑制、原価低減など様々な手を打ち、収益の創出を図る。営業利益1000億円を経営の意思として達成すべき最低水準と位置づけて、ここからさらに収益の積み上げを目指す」と大崎社長は語った。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水 聡