電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第616回

半導体などIT産業が集まるポーランド


売上高や雇用も拡大傾向に

2025/8/22

 5月に行われたポーランド・日本 貿易フォーラムに参加させていただいた。大阪・関西万博の開催に際し、ポーランドが強みを持ち、対日輸出拡大において最も重点を置くIT業界やゲーム産業などについて紹介された。紙面では、ポーランド全国電子通信商工会議所の副会頭兼デジタル・ポーランド財団 専務理事のピオトル・ミエチコフスキ氏に、IT業界を中心にポーランド市場の動向をお伺いしたインタビューを掲載した。今回は、紙面では取り上げなかったポーランド市場の背景や、関連産業の動向について紹介する。

大手IT企業の研究開発や技術開発拠点が集積

 ポーランドでは、多くのグローバル企業からの研究開発、技術拠点の投資が盛んに行われ、多くの研究開発拠点が立地している。例えば、グダニスクではインテルがヨーロッパ最大の研究開発センターを設置し、コンピューティング技術を開発している。そのほかワルシャワでは、NVIDIAがディープラーニングプラットフォームの開発を行っているほか、サムスンは韓国以外で最大となる研究開発センターを運営している。また、Googleは地域オフィスやAI R&Dエンジニアリングセンター、ヨーロッパ最大となるクラウド技術開発センターなどを立地している。

 大手企業とポーランド企業の協業事例としては、マイクロソフトはポーランドの幅広い規模の組織や企業との連携を30年近く続けており、6000社を超える現地パートナーネットワークを擁している。また、Googleはスタートアップ向けのGoogleキャンパスの1つを15年にワルシャワに設置した。

ポーランドの研究開発拠点の一例(デジタル・ポーランド財団の公開資料から作成)
ポーランドの研究開発拠点の一例(デジタル・ポーランド財団の公開資料から作成)

 このように大手IT企業が多数ポーランドに進出している点についてミエチコフスキ氏に伺うと、古くから投資企業に対し減税措置が存在していることに加えて地政学的なメリットも挙げ、国外からの投資を有効的に取り扱うことで、安全保障の強化にもつなげていると説明した。

 また生産面では、欧州のEMS業界に特化したドイツの調査会社であるin4maらの報告によると、欧州のEMS生産量のうち6.9~7.2%をポーランドが占め、欧州で5番目に大きなEMS生産拠点となっているそうだ。

 そのほか、自動車関連企業の拠点も多く設置されており、BMWの研究開発センターがクラクフに立地するほか、ZFもポーランド内に3つの研究部門と2つのPCBA工場を有している。また、日本精機(株)はグダニスクでヘッドアップディスプレー(HUD)を開発しており、ウッチ近郊の工場で生産を行っている。

 なお、直近ではポーランドへの主要な投資企業であったインテルが、ポーランドおよびドイツで計画していた新工場計画を中止した。インテルに代わる今後の大規模施設の誘致はポーランドにとって課題となっている。

データセンターの拡大が進む

 25年末までにポーランドのデータセンター利用可能スペースの総面積は約16万8000m²に達すると予測されている。また、25年のポーランドのデータセンター市場のIT負荷は441.8MWと推定されており、30年までに500MWに達すると予測されている。

 ポーランドのなかでも成長の大部分はワルシャワにあり、ポーランドの調査会社であるPMRによると、ワルシャワはポーランドの商用サーバースペース全体の57%を占め、増加傾向にあるという。また、今後計画されている投資を含めると、ワルシャワのシェアは引き続き拡大すると予想されているそうだ。データセンター市場への投資が活発である理由について、ミエチコフスキ氏は「ポーランドが未開発の土地を広く有しており、広大なデータセンターの建設費用を抑えられることが大きな理由だ」と述べていた。

マイクロソフト副社長兼社長のブラッド・スミス氏とドナルド・トゥスク首相
マイクロソフト副社長兼社長のブラッド・スミス氏とドナルド・トゥスク首相
 そのほかパブリッククラウド投資も盛んで、Google Cloudは21年に20億ドル規模のGoogle Cloud Data Hubをワルシャワに開設。ポーランドにおけるITインフラへの最大規模の投資となった。また、マイクロソフトはポーランドのデータセンターとサービスを含むクラウドリーションやAIインフラの拡張などに17億ドルを投資している。

 一方、データセンターへの電力供給が課題で、電力不足や送電網の負荷の課題など、送電網の最新化や拡大が急務となっている。また、地域の電力や水の価格が高騰しており、地域住民による建設に反対する動きも出てきているそうだ。

ゲーム産業も活況

 IT産業に関連し、ゲーム産業も活況だ。14年から20年にかけてポーランドのゲーム産業は急成長しており、ポーランドのゲーム開発企業は売り上げを大きく伸ばしているほか、雇用も拡大している。また、ゲームの生産量のうち約96%を輸出しておりグローバルな成長を見せている。「欧州におけるゲーム産業の中心になってきている。今後グローバルな市場にたどり着けるだろう」と、クリエイティブインダストリーズ開発センターのディレクターを務めるアレクサンドラ・シマンスカ氏は語っていた。

 ポーランドを代表するゲーム企業のほとんどは、ワルシャワ、クラクフ、ヴロツワフの3都市で開発および事業を展開している。基本的にはプラットフォームで配信されるパソコンゲーム開発に注力しており、ここで成功すればゲーム機でも展開されるという流れになっているそうだ。一方、ゲーム機にも力を入れており、ソニーのPlayStationや任天堂(株)のNintendo Switchなどとも大きく交流を持っているとのこと。ハードウエアの試作品の開発も進めている。

 ポーランドのゲーム産業は全体として日本を重点市場として捉えており、パートナーシップの構築などを模索していきたいとしている。例えば、ポーランドのゲーム開発企業「TEYON」が主体となり11年に設立したTeyon japanは、海外のビデオゲームを日本で販売している。そのほか日本向けのポーランド人開発者の育成や投資の加速のほか、ゲームの共同制作や、ポーランドのゲーム開発を支援する日本のファンドにも期待を寄せる。また、日本市場への進出機会として、インディーゲーム(少人数・低予算で開発されたゲームソフト)への関心の高まりを挙げ、Nintendo Switch向けポーランドゲームの拡大や技術協力の要請にも期待している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 日下千穂

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