商業施設新聞
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第503回

(株)上昇気流 代表取締役社長 笹田隆氏


開業支援が200店到達へ
賃借から物件取得にシフト

2025/11/4

(株)上昇気流 代表取締役社長 笹田隆氏
 「路地裏から世界を沸かそう」をビジョンに飲食店の開業を支援するのが、(株)上昇気流(東京都渋谷区)だ。出店希望者とシステム加盟契約し、物件取得や内装設備工事など、開店に必要なハード面に関する契約は同社が行い、出店希望者は毎月定額料金を同社に支払う仕組み。独立した経営者として共に店を作り上げていくもので、2004年の事業開始から開業支援した店舗は200店に達する見通し。大半が個人事業主で、コロナ禍以降も、業績は好調だという。代表取締役社長の笹田隆氏に聞いた。

―― コロナ禍以降で変化したことはありますか。
 笹田 コロナ禍ではソーシャルディスタンスやリモート、黙食が生まれたが、今はその反動で「会いたい」「おしゃべりしたい」「つながりたい」という欲求が高まっている。
 我々も働く場があって、働くことのすばらしさ、店にお客さんが来ることの価値を再認識した。お客さんと仲良くなれるし、そしてお店も繁盛する。当社は関連会社で直営店も運営するが、スタッフの独立機運も高まっている。
 当社が開業支援したパートナーの多くが個店の飲食店で、コロナ禍で耐えられるかと危惧したが、杞憂だった。もちろん、当社としてもシステム利用料を2カ月間半額にしたり、建物貸主に協力を仰ぎ、半数の貸主が家賃を3カ月30%減免したりしてくれた。こうしたこともあり、コロナ禍を乗り越えて大きく回復した。

―― 回復した店舗について、業態の特徴はありますか。
 笹田 賑わいやコミュニケーションができる店ほど好調だ。お客さんは食事も楽しむが、個性的で賑わいがあり、ほっとできて、そしてオーナーの“匂い”がする店、コミュニティの要素が強い店が選ばれている。特徴的なのは小さな店舗が好調で、坪あたりの売り上げが高い。

―― コロナ前との比較で変わった点は。
 笹田 当社関連直営店の代表的な店舗をコロナ前の19年と比較すると、来店客数が増え、注文メニュー数も増加している。一方で、来店客1組あたりの人数が3.6人から3.1人に減少している。2次会、3次会に行かずに、親しい人と気に入った店でゆっくり過ごす傾向にある。
 かつてはいわゆる「にっぱち」が不調で、12月はとにかく忙しく、月・火曜日、給料日前は客足がぱったりだったのだが、それが平準化し、今日ではほとんどその影響はない。この傾向は23年下期から顕著だが、コロナの一時期的な反動なのかまだわからない。

―― 注力していることは。
 笹田 ドミナント化を強化している。三軒茶屋エリアの店舗数は、当社決算期の25年9月末時点で26店ある。近隣の学芸大学エリアが16店、中目黒エリアが11店となる。渋谷エリアは41店で、三軒茶屋は50店を展開できるだろう。そしてどれも同じ業態は2つとしてない。コロナ直前で163店だったのが、創業21年目にあたる25年9月末で200店(取材時点)に達する見込みだ。
 また、最近は古民家の物件を取得している。池尻大橋や中目黒でも同様だ。改装して魅力ある店舗に開発する。我々には家賃収入が入るし、古民家は償却期間が短いので、財務体質の改善にもつながる。

―― 繁盛店になるまでに要する時間は。
 笹田 当社独自の50項目に及ぶ物件立地分析シートがある。路地裏の物件は目利きが難しいが、総合的な指標から判断する。良い物件ならば成功率は高くなるが、もうひとつのカギは人のスキル。色々なタイプの人がいるが、それを結びつけるのが業態。このトライアングルがうまくいけば8割は成功する。逆にこれを間違うと、どんなに能力があっても成功は難しい。その人の素養に合った物件を提供し、立地に合った業態、これを総合的にまとめることが成功のカギだ。

―― うまくいかない場合もありますか。
 笹田 もちろん失敗例もある。当社は単なる転貸屋ではなく、賃借物件でも内装設備は当社が投資する。それを利用していただくシステムなので、スタート時に、パートナーとリスクを共有する。だからお互い本気になる。パートナーが成功して輝くことが、我々の成長となる。うまくいかない場合は、パートナーの責任で清算していただくのが基本だが、我々もその結果に対して応分のリスクを負担して応援する場合もある。

―― 独立のタイミングは。
 笹田 例えば当社関連直営店で働いていると、次第にスタッフにファンがつき、「独立したら店に行くから」という声をもらえる。こういう人が50~100人に増えてくると独立する素地ができる。つまり店舗をオープンする前からファン=お客さんがいる。経験を積んで料理ができ、笑顔も作れ、原価計算・損益計算もできる。お客さんとの関係も良好だと成功率は高まる。
 サラリーマンをやっていた人がいきなり商売をやるのは難しい。マニュアルのあるFCチェーン店ならまだいいが、ましては路地裏で経験なしに始めるのはあまりにリスクが大きい。だが、我々は経験と情熱があれば成功をサポートし、ともに輝ける。



(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2617号(2025年10月14日)(8面)

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