経済産業省のロボット政策室では、人手不足の解消に向けてカギの1つとなるロボットの導入・普及に向けた様々な取り組みを支援している。また、新しいロボット戦略の策定などにも取り組んでおり、ロボット産業の発展に向けた施策を進めている。今回、ロボット政策室長の石曽根智昭氏に話を伺った。
―― まずはロボット分野の課題から伺います。
石曽根 人手不足が深刻な状況となるなか、ロボットに対する期待が年々高まっている。一方でロボットの活用事例が少ない業種、作業難易度が高いなど要求される項目が多い工程、市場が小さい分野など、いわゆるロングテール市場と呼ばれる領域ではロボットの普及が遅れている。一因として、従来型のロボットシステムでは、個々の現場においてロボットを作り込んでいるため、多種多様なニーズを持つロングテール市場に向けたロボット開発では価格面を含めて市場にマッチせず、結果として新規の開発者が参入しづらい状況を生んでいる。ロングテール市場向けには、ロボットの開発効率を上げなければロボットの普及が難しいと考えている。
―― そうした状況への対策は。
石曽根 こうした課題の解決には、ロボットシステムを構成する各機能をモジュール化し、その品質や性能を可視化するソフトウエアの検証技術や各種ツールをはじめ、ロボットシステムの開発を容易に行えるオープンな開発環境が必要と考えている。2024年度の補正予算で「ロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤構築事業」として103億円を計上し、8月にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤構築」で、オープンな開発プラットフォームを整備することとしており、産業技術総合研究所などのグループ、川崎重工業などのグループ、竹中工務店などのグループが進める研究開発テーマが採択された。
―― そのほかに実施されたことは。
石曽根 「全国ロボット・地域連携ネットワーク」、通称RING(リング)プロジェクトを6月に設立した。各地域の自治体、支援組織、ロボット関係機関らと連携し、ロボット導入支援の取り組みを加速させるための協議会で、各地域におけるロボット導入支援の取り組みをサポートする仕組みを整備している。RINGプロジェクトは、ロボットの利活用の普及啓発にとどまらず、中小製造業といったロングテール市場におけるロボットへのニーズなども集約して、先述した開発プラットフォームにフィードバックするといった新しいロボットの開発につながるような役割を持つことにも期待している。
―― ロボット分野におけるAIの重要性も増しています。
石曽根 AI技術の急速な進展により、エンボディドAIやフィジカルAIなどロボットと親和性が高い技術も現れ、ロボット開発におけるAI基盤を開発する動きが世界的に拡大している。先日、四足歩行ロボットの比較をする機会があったが、AI活用のアプローチの違いにより、ロボットの性能に大きな差が出ることが分かった。これはヒューマノイドタイプだけでなく産業用ロボットを含めたすべてのロボットに当てはまると考えている。日本においてもAIロボット協会(AIRoA)が24年12月に設立され、9月にはNEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ロボティクス分野の生成AI基盤モデルの開発に向けたデータプラットフォームに係る開発」の事業者にAIRoAが採択され、ロボティクス分野の生成AI基盤モデルの開発に有効なデータプラットフォームの研究開発を進めており、今後のAIの活用を戦略的に進める必要があると考えている。
―― ロボット政策室の取り組みを。
石曽根 6月に「経済財政運営と改革の基本方針2025」、いわゆる骨太の方針が閣議決定され、そのなかでAIや先端半導体の実装先となるロボットについて、25年度内に実装拡大・競争力強化に関する戦略を策定することが盛り込まれ、その戦略の策定をロボット政策室として取り組んでいる。今後のロボット市場を見据えた際に、既存の産業ロボットだけでなく、移動と作業を1台で行えるモバイルマニピュレーターやヒューマノイドロボットなど次世代ロボット産業の育成もより重要になってくるとみており、8月と9月に有識者によるAIロボティクス検討会を計3回開催し、次世代ロボットの活用に向けた課題なども整理した。さらに、米国や中国を中心にヒューマノイドロボットの開発が活発化するなかで、バックドライバビリティーが高いQDD(準ダイレクトドライブ)モーターなどアクチュエーターの開発も盛り上がっており、今後、アクチュエーターをはじめとした要素技術の開発を支援していくことも重要だと感じている。こうした内容も含めてどのような形が日本として強みを発揮できるかということをしっかりと精査し、新しいロボット戦略としてまとめていく。
―― 今後の方針や日本におけるロボット産業の可能性について。
石曽根 ロボットの開発を容易に行える開発環境が整備され、ロングテール市場をはじめ様々な領域で新たなロボットソリューションが提供されるような支援をさらに進めていく。また、AI技術の進化により、ロボット化が難しいとされていたものでも対応できる可能性が出てきており、AIロボティクスに関する動きにも注力していきたい。日本は、センサー、制御技術、駆動部品などロボットを開発するうえで必要なサプライチェーンが整っている世界有数の国であり、この総合力を活かして、ロボットを自動車に続くような日本の基幹産業になるように支援していきたい。そのなかでロボット分野へ新たに取り組んでいただける方を増やし、様々な企業や団体の力を結集することも不可欠であると考えており、ロボット産業の未来を創っていくためのアイデアや意見をぜひお聞かせいただきたい。
(聞き手・副編集長 浮島哲志)
本紙2025年11月6日号11面 掲載