三菱電機(株)が高周波光デバイス製作所(兵庫県伊丹市)で手がけるデータセンター(DC)向けEML(電界吸収型光変調器を集積した半導体レーザーダイオード)が好調だ。増加を続ける需要に対応するため、生産能力の増強を加速している。また、高周波デバイスも防衛・宇宙システム向けに拡大が見込まれている。高周波光デバイス製作所の所長である山内康寛氏に話を聞いた。
―― 製作所の概要から。
山内 当社の半導体事業はパワーデバイス製作所と高周波光デバイス製作所に大別でき、2024年度の売上比率は前者が8割、後者が2割だ。当製作所は1959年に開設され、DVD用赤色レーザーやGaNトランジスタ、光通信用DFBレーザーなどで実績を築いてきた。25年にはDC用EMLチップで累計1億個、5G基地局用GaNモジュールで累計300万個の出荷を達成した。
開発と前工程を当製作所で、後工程を子会社のメルコアドバンストデバイス(株)(長崎県諫早市)で行っている。また、兵庫県尼崎市の先端技術総合研究所とデバイス開発で、神奈川県鎌倉市の情報技術総合研究所と応用開発でそれぞれ連携している。
―― DC向けにEMLの需要が増大している。
山内 生成AI市場の拡大でDC投資が加速しているが、サーバー間の接続インターフェースである光トランシーバーにEMLやPDが搭載されている。当社のEMLは、放熱性に優れた埋込導波路構造のDFBレーザーと消光・応答特性に優れた光変調器を1チップ上に集積している。安定して量産することが難しく、これを実現したのが当社の優位性につながっている。世界のDC市場の大半を占める北米において、約50%のシェアを持つ。
―― 通信の高速化でさらにEMLの需要が伸びる。
山内 生成AIの本格化で、ボード間の光接続の通信速度が100Gbpsから200Gbpsに高速化される。従来のVCSEL(面発光型レーザー)では対応困難であり、EMLに適用拡大のチャンスがある。すでに対応製品を2年前から量産しており、アーリーユーザーで採用が始まっている。今後、量産拡大によるコスト競争力強化を図り、さらなる採用増を目指す。
―― 30年以降には光電融合の実用化が視野に入る。
山内 DCの通信速度は27~28年には1.6Tから3.2Tに移行が始まる見込みで、その際のEMLは400Gbpsになり、物理的な限界に到達する。それ以上の通信速度には、チャネル数の増加や位相変調(デジタルコヒーレント)が必要となる。そのため、生成AIのさらなる計算能力向上と消費電力の低減を両立するには、チップ間接続の光化が必要になる。当社もそれに向けてCPO(Co-Packaged Optics)、光電融合技術の研究開発を進めている。化合物半導体とシリコンフォトニクス双方の高密度集積技術を活かし、これらを融合したデバイスを実現する。
―― EMLの増強は。
山内 当製作所では20~24年度にかけて、EML生産能力を5倍に引き上げた。今後、28年度にかけて24年度比でさらに3倍にする。29年度の計画も上方修正し、24年度比でさらに4倍に引き上げる。これらを通じて29年度の生産能力は20年度比で20倍に拡大することになる。
能力拡大は、設備増強とウエハー大口径化の両輪で進める。EMLを生産するNVL棟の既存スペースを最大限に活用するとともに、高周波デバイス生産棟であるU棟で一部生産していたパワーデバイス製造設備を26年内に他拠点に移管し、27年にEML製造設備を導入する。同時にウエハーを3から4インチに大口径化し、新規ラインはもとより既存ラインも順次4インチ化していく。製造設備、InPウエハーの調達にはめどが立っており、人員も確保できるとみている。
―― 高周波デバイスは防衛・宇宙用でも需要増が見込まれる。
山内 レーダーや人工衛星などに、GaNデバイスが用いられる。当社は自社で防衛・宇宙事業を持ち、デバイスからシステムまで一貫で手がけられる特徴を持つ。30年以上の実績と高品質、高信頼性を量産レベルで実現できる製造力も強みで、安全保障ニーズの高まりに対応して社内外に供給を拡大させたい。
(聞き手・副編集長 中村剛)
本紙2026年3月26日号1面 掲載