電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第152回

TDK(株) 代表取締役 上釜健宏氏


半導体工場取得で薄膜製品群さらに強化
3500億円超の投資でフィルターや電池も増強

2016/1/8

TDK(株) 代表取締役 上釜健宏氏
 TDK(株)は、2014年度に売上高を1兆円に乗せた。15年度も好調に推移しており、今後3年間で3500億円超の設備投資を計画するなど、次の成長ステージへ向けた経営資源を投入している。15年は秋田地区に新工場2棟の建設を発表したほか、ルネサス エレクトロニクスから鶴岡東工場を取得。先ごろ磁気センサー大手のミクロナスセミコンダクターも買収(本取材後に発表)した。今後の事業計画を上釜健宏社長に伺った。

―― 16年の世界経済をどう予想していますか。
 上釜 中国経済の失速は気になるが、電子部品市場は堅実に成長するだろう。スマートフォン(スマホ)はLTE化がさらに進み、堅調な北米に加え、中国でのキャリアアグリゲーション普及やインドの4G立ち上げなどによる電子部品の需要増が期待される。自動車の電装化が加速度的に進化し、電子部品をさらに多用するようになる。米国の利上げで円安傾向が安定化しそうなことも日本にとってはプラスだ。

―― ルネサスから半導体工場を取得しましたね。
 上釜 当社のモノづくり文化が変わるかもしれない。当社は甲府や長野でHDD用薄膜磁気ヘッドやその技術を応用した薄膜製品を生産しているが、半導体製造プロセスとは少し文化が異なる。本格的なクリーンルームを備えた製造拠点を保有することになるが、半導体製造技術は間違いなく電子部品に活用できる。薄膜技術の経験者がどうしてもほしかった。

―― TMR(磁気)センサーの量産拠点として活用するのではと考えているのですが。
 上釜 詳細は検討中であり、まだ多くをお話しできる段階にはない。だが、TMRは、当社が持つセンサー群のなかで期待が大きい製品であることは確かだ。角度を高い精度で検知し、ゼロポジションを認識することができる点が高く評価されており、自動車や工作機械など40社以上から評価していただいているところだ。従来の角度センサーからの置き換えが期待でき、高い信頼性を確保しつつ素子を小型化できる。このTMRの性能を存分に引き出すには、アナログICとASICを最適に組み合わせる必要がある。プラットフォーム作りを進めたい。
 このTMR素子は現在、浅間テクノ工場で量産しているが、現有の生産能力で17~18年に想定される需要までは満たすことができると考えている。ただし、TMRがスマホなどの民生用にも普及しボリュームが求められるようになれば、話は別だ。生産体制を別途整備する必要がある。

―― 電子部品と半導体を組み合わせたプラットフォーム作りに注力されていますね。
 上釜 何年も前から力を入れてきた。当社としては半導体事業に進出するつもりはないが、半導体メーカーのリファレンスデザインに採用されるため、コラボレーションを重視した。当社が掲げる重点3分野「自動車」「ICT」「産業機器・エネルギー」と重点5事業「インダクティブデバイス」「高周波部品」「圧電材料部品」「HDDヘッド」「2次電池」にわたって、このプラットフォーム作りを推進している。すでにスマホ向けは採用が進んでおり、ここ1年はウエアラブルや自動車などIoTの世界を意識した取り組みを進めている。
 こうした取り組みを進めるにあたり、お客様の動向を常に注視してきた。と言うのも、かつてHDDヘッドの次世代技術がTMRかGMRかの分水嶺に差し掛かった際、お客様の方向性を読み解くことがヘッド技術で先行できた決定打になったという経験があるためだ。

―― 自動車向け部品の強化に余念がありません。
 上釜 14年度の売上高1700億円を、17年度までに3500億円に拡大を目指す。電装化比率のアップを確実に取り込み、現在承認中で17年ごろから量産に移行する製品があることを考えれば、不可能ではないだろう。
 製品群も充実させている。すでに拡販中である温度センサーや磁気センサーに加え、欧州では気圧センサーの生産・販売に力を入れている。磁気センサーはTMRだけでなくGMRもある。DC-DCコンバーターやオンボードチャージャー、非接触給電なども面白いと思っている。

―― 3年間で3500億円超の設備投資を計画しています。
 上釜 長期的に事業を評価したうえで必要な投資だ。前述の車載センサー群の強化はもちろん、BAWフィルターにおけるシリコン8インチ化、温度補償型SAWフィルターの大口径化などに充てていく。M&Aを実施するなら上ぶれもありうる。
 なかでもリチウムポリマー電池に力を入れる。スマホ向けに数量を追っていきたい。現在、正極材にはリン酸鉄を採用しているが、次世代技術を見極めていく必要がある。

―― IC内蔵基板「SESUB」ではASEと合弁会社を設立しました。
 上釜 厚さ300μmのLTCC(低温同時焼成セラミックス)基板に50μmまで薄型化したICを搭載できる技術であり、18年ごろから爆発的に数が出るようになる見込みだ。合弁会社には、当社から内製材料を含めて、製造ラインを供給する計画だ。ウエアラブル機器、ヘルスケアなどに用途が広がっていくと期待している。


(聞き手・本紙編集部)
(本紙2016年1月7日号1面 掲載)

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