電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第239回

「企業変革を担う人は理想を語ることが何よりも大切」


~事業構想大学院大学学長 田中里沙氏の語る言葉の気づき~

2017/6/23

 「イノベーションとは、非連続の変化のことをいいます。従来の方法で事業計画をいくら積み上げても、社会の激しい変化にはついていけません。企業内にあって変革を考える人や新たな事業を起こそうとする人にとっては、あるべき理想の姿を語ることが何よりも大切なのです」

JPCAショーで講演する田中里沙学長
JPCAショーで講演する田中里沙学長
 こう語るのは事業構想大学院大学(東京都港区南青山3-13-16、Tel.03-3478-8411)にあって学長の重責を担う田中里沙氏である。いうところの才媛である田中氏は、三重県立津高校を出て学習院大学に進み英文科で学んだ。米作家のウィリアム・フォークナーの研究に明け暮れたという。広告・IRの会社を経て宣伝会議に入社し、何と2年で編集長に就任することになる。宣伝会議は実にすばらしい会社で、知のインフラが集積し、オープンイノベーション、ブレインストーミングを先取りし、「みんなでものを考える工場」になっていたというのだ。

 田中氏は宣伝会議にあっては現在も取締役の任にあるが、今後の教育機関はMBA(経営管理)ではなく、MPD(事業構想)が重要だという考え方に賛同し、事業構想大学院大学に教授として入り、2016年4月に3代目の学長に選出されたのだ。

 「答えの用意された、システム化した教育やケーススタディだけでは、新しい事業を生み出す人材を輩出できません。今日のIoT時代にあって時代変化を鋭く読み取り、次の未来形ビジネスを考える人たちにとって、本学はかなりの貢献ができると信じています。特に日本のモノづくり文化を伝承し発展させるためのアイデア、地域も楽しく、面白くする気づきが必要なのです」(田中学長)

 確かにいつもの場所でいつもと同じ人に会い、いつもの仕事をしていると、いつもの考え方しかできなくなることは事実だろう。1つの場所にいて思考まで閉じ込めてしまってはいけない、と田中学長はひたすらアジテートするのだ。また一方で、最近の傾向として活躍している人はマルチタスクであることが多いが、何でもできる人は何もできない人と同じ、になってしまうきらいがあるともいう。

 事業構想大学院大学を率いる田中女史は、日本の企業の中にはすばらしい経営資源が眠っていることに気がつかない人が多い、とも指摘する。この資源を気づきに昇華すれば、多くの新産業創出につながるという説は、筆者も支持するところである。ところで、このユニークな大学院大学は、素晴らしい教授陣をラインアップしている。

 「各界を代表する事業家、グローバルに活躍するクリエーター、ベンチャー企業家として活躍する人たちなど、とにかくユニークなゲスト講師がおり、何と年間150人以上が講義を行っているのです。ファッションデザイナーのコシノジュンコさん、伊藤忠商事の前会長の丹羽宇一郎さん、クレディセゾン社長の林野宏さん、サイバーエージェント社長の藤田晋さん、さらには政治家の石破茂さんなどのすばらしいメンバーが講義されています。学生たちはこれらの前線で戦う人たちと近い距離で議論できるわけですから、構想の構築につながる多くの気づきがあるはずです」(田中学長)

 確かに日本の多くの優良企業にあっても「この製品はすごくインパクトがあるので必ず売れる」という独りよがりの思想で勝負する人が数多い。しかして、田中学長の言うように「その製品は本当に世の中を変えるのか」「今や正しいか正しくないかではなく、好きか嫌いかで判断する」「もし、自分ならばその製品を本当に買ってみようと思うか」という考え方が今こそ必要なのだろう。

 そしてまた、どんな時代にあっても魅力的なスローガンのリーダーに人は集まるのだ。商品寿命が極端に短くなってきた現在および未来において、いつでもイノベーション、という姿勢があらゆる企業に求められている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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