電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第274回

「台湾はどこまでいっても日本の友人、半導体でも深いつながりが続く」


~TAITRAの東京事務所長、呉俊澤氏は3nmプロセス突入を高らかに宣言~

2018/3/2

 「台湾は今や世界第2位の半導体生産王国になりました。この間に装置、材料、デバイスのすべての分野で日本には大変お世話になりました。もちろんこれからも私たちのパートナーシップは続いていくわけであり、友人としてお互いにさらなる努力を続けていきましょう」

TAITRA東京事務所長 呉俊澤氏
TAITRA東京事務所長 呉俊澤氏
 にこやかな笑顔でこう語るのは台湾貿易センター(TAITRA)東京事務所の呉俊澤所長である。2月22日夜、半導体産業人協会が設立20周年を記念して開催した祝賀会における来賓挨拶の談話である。

 それにしても外国からの来賓挨拶が米国でもなく、韓国でもなく、ましてや中国でもなく、台湾であることには多くの意味があるのだろう。よく知られているように台湾はとんでもない親日派であり、台北を訪れた折にはかなりの年配の方から日本語で話しかけられることに驚く。また日本人がよく行く歓楽街のナイトクラブでは、流暢な日本語で話すお姉さまたちが待ち受けている。

 それはさておき、筆者は1990年代の初めから勃興し始めた台湾半導体を取材しによく出かけた。半導体工場が集積する新竹エリアには、まともなホテルがなく、もっぱらカップルの方が使うホテルで何泊も過ごし、頭がおかしくなりそうなこともままあった。ただ、そうした環境で取材しながらもすでに予感していたのは、台湾はいずれ半導体王国を築くであろうということであった。米国に留学した若手たちがみな台湾にUターンし、次々とベンチャーとも言うべき半導体企業を立ち上げていく。その勢いは容色に衰えの見えてきた日本半導体とは全く違う姿であった。

 1面トップで「昇竜台湾、怒涛の巨大設備投資」という記事を書いて、多くの反響をいただいたこともよく覚えている。あれから多くの年月が流れ去り、日本は世界チャンピオンの座から滑り落ち、後退を続けていくなかで、台湾半導体産業は巨大化していった。いまや半導体ファンドリーの世界最大手である台湾TSMCは、まさに我が世の春を迎えている。

 「TSMCは世界最先端の3nmプロセスの新工場建設に200億ドルを投入するアクティブなプランを打ち出しました。2022年には稼働させるといいます。また量産向けの7nmプロセスは韓国に先行し、本格的なウエハー投入の時期を迎えました。こうした最先端半導体の製造装置やシリコンウエハーなどの主要材料は、その多くを日本企業から調達しています。とてもお世話になっているのです」(呉所長)

 ここに来て、30年に1回とも言うべき半導体の技術革新が始まろうとしている。すなわち露光機がこれまでのステッパーからEUV(極端紫外線露光)に移行しようとしているのだ。まずはロジックの7nm世代から投入される。TSMCは今や世界チャンピオンとなったサムスンに先駆けて、2017年後半からすでにEUVの量産プロセスを立ち上げている。時代は変わったのだなという感が強い。つまりは世界で最先行するプロセスは米国でも日本でも韓国でもなく、台湾が先頭を切っていくという展開になっているのだ。

 「お蔭様で台湾の教育水準もこの間に大きく引き上がりました。もう若い人たちはアメリカに留学しなくてもよくなりました。でも1つだけ残念なことがあります。台湾で育った優秀な人材が高額報酬を求めて、アメリカに行ってしまうのです。人材流出が今や最大の悩みです」(呉所長)

 自分がかつて書いたとおりに「昇竜台湾」は今や半導体のトップリーダーになったのだな、との思いが強くなった。それに比べてニッポン半導体は一部は頑張っているものの、全体としてかつての80年代のようなウルトラパワーはどこにもないのね、と思いながらパーティー会場でわびしく赤ワインを飲んでいたら、にこやかに話しかけてきた人がいた。

 その人こそ日本人で5人目のロバート・ノイス賞を受賞した牧本次生氏であった。牧本氏は日立製作所およびソニーにおいて、半導体のトップリーダーを務め、すさまじい活躍をされた人だ。受賞理由は、CMOSメモリーおよびマイコンの技術発展と経営手法を評価されたものだという。その牧本氏は嬉しそうな顔をしながら、筆者に話しかけた。

 「栄えある賞をいただいて本当に嬉しいと思っている。しかしながら、もっともっと若い人がこうした賞を取るようにならなければいけない。現在においても東北大学などには画期的な成果を上げた先生たちが多い。私が在籍したソニーにおいても、世界を席巻する技術を確立したエンジニアもたくさんいる。ニッポンはまだ捨てたものではないよ」

 牧本氏にこう言われて、筆者は苦くて酸っぱい赤ワインを飲みほしながら、なぜか嬉しい思いが甘い果実のように胸の中に広がってくる感覚を覚えた。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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