電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第295回

「北上川流域を世界的な半導体革命のゾーンにする」


~いわて半導体アカデミー開校式には東芝メモリ岩手の米倉社長も出席~

2018/7/27

 「北上川流域に第4次産業革命の波が一気に押し寄せてきた。東芝メモリ岩手、デンソー岩手、東京エレクトロンテクノロジーソリューションズはいずれも新工場計画を進めている。まさに半導体の新たな一大集積ゾーンがこの岩手に形成されようとしているのだ」

 これは岩手県庁にあって商工観光労働部の部長を務める戸舘弘幸氏が、「いわて半導体アカデミー」開校式の場で力強く語った言葉である。2018年7月17日、盛岡市内のホテルでこの開校式は行われ、岩手県知事、岩手大学学長など様々な方が挨拶をされた。また東芝メモリ岩手の代表取締役社長である米倉明道氏、デンソー岩手の取締役社長である伊藤秀一氏もこのアカデミーの発足を祝いに来場されていたのだ。ちなみに筆者はこのいわて半導体アカデミー開校の記念講座を受け持ち、「半導体が切り拓く未来社会と岩手への期待」と題して、講演をさせていただいた。

 岩手における半導体関連産業の歴史は、45年間にわたるものがある。1973年に岩手東芝エレクトロニクスが操業を開始し、パワートランジスタの後工程生産を設けたことがその始まりであった。これを契機に1980年には富士通マイクロエレクトロニクス、1985年には東京エレクトロン東北が進出することになる。

 最近になってからの動きは、2008年にいわて半導体関連産業集積促進協議会が設立。2012年には富士通セミコンダクターからの事業譲渡を受けて、自動車向け半導体大手であるデンソーが岩手に進出した。2016年にはジャパンセミコンダクターが操業を開始。何よりもエポックメーキングなことは2017年、東芝メモリが北上市に新たな量産拠点設置を決定したのだ。

 よく知られているとおり、ニッポン半導体の盟主である東芝はサムスンに次ぐNANDフラッシュメモリーの量産メーカーとして、三重県四日市市に生産を集中してきた。しかし今後のリスクヘッジ、労働力の確保、さらには産官学連携などを狙いに、かねて知縁のあった岩手県での巨大半導体工場建設を実行することになったのだ。

 北上に建設する第1期棟は東芝メモリ岩手のK1棟と言われるものであり、近々に着工し来春までに稼働に持ち込むというスピード立ち上げとなる。建屋の延べ床面積は20万m²と超大型であり、まずは1次分として1兆円以上の設備投資が断行されることになるだろう。作るものは96層以上の3D-NANDフラッシュメモリーであり、将来は200層まで想定し、K1からK4までの4棟を北上に立ち上げるという壮大なスケールの投資計画となるのだ。

 時を同じくして、デンソー岩手も2017年に新工場建設を決定し、現在最終立ち上げ段階に入っている。そしてまた同時多発的な出来事ともなるのが、東京エレクトロンテクノロジーソリューションズの新棟建設決定であり、北上を中心とする岩手の半導体関連産業はにわかに活気づき始めたのだ。

 筆者はこのメモリアルなイベントの講演をやらせていただくことになったが、まず気が付いたことは会場に岩手大学や一関高専、さらには北上コンピュータ・アカデミーなどの学生さんたちが多く出席されていたことだ。そして東北では珍しいことであるが、その若者たちの目はぎらぎらと輝き、岩手県に最先端の半導体ゾーンが形成され、世界のIoT革命を担うことになる事態にかなり興奮しているという様子であった。そしてまた県下に存在する半導体関連産業の方々も多く出席されており、その熱気はかなりのものがあったのだ。

 いわて半導体アカデミーは岩手大学のものづくり技術研究センターが中核となり、生産技術研究センター(花巻サテライト)、金型技術研究センター(北上サテライト)、鋳造技術研究センター(水沢サテライト)の3カ所で形成される。もちろん岩手県庁をはじめ、行政機関、産業界も全面支援の体制を決めている。半導体基礎講座は大学生コースが8月1日から、社会人コースは9月1日からスタートする。その他にも公開講座や出前講座も設け、半導体に特化した講座をフルラインアップし、人材育成に全力を挙げていく体制をとっている。

 ちなみに岩手県の工業出荷額は2016年段階で2兆3670億円だが、半導体関連産業はこのうち13%を占めており、3505億円となっている。やはり一番多いのは自動車関連産業であり、5467億円を占めている。しかしてこの10年間を展望すれば半導体関連産業が一気に伸びてくることは誰の目にも明白なことであり、いわば岩手の経済の中核を占めることになってくる。

挨拶する東芝メモリ岩手の代表取締役社長 米倉明道氏
挨拶する東芝メモリ岩手の
代表取締役社長 米倉明道氏
 半導体集積という点では九州シリコンアイランドが世界的にも有名であるが、東北においては、ソニーのCMOSイメージセンサーの量産拠点が山形にあり、東京エレクトロンの一大量産工場が宮城にあり、またトヨタ自動車の大型工場が宮城および岩手に立地している。ある意味で自動車と半導体のクロスオーバーという現象は九州において起きたわけだが、これが東北に伝播し拡大していく可能性も十分に出てきた。開校式のあとに開かれた懇親会の締めには、東芝メモリ岩手の米倉社長が挨拶をされた。それは次のようなものであった。

「いわて半導体アカデミーの立ち上げは全国でも稀有なものであると言えるだろう。今回ご縁があり、新生東芝メモリの一大量産拠点が北上で展開されることになったが、身の引き締まる思いである。頑張らなければと思う。岩手のためにも、このニッポンのためにも」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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