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第303回

進展するがんゲノム医療、医療の適正化と創薬に期待


がん遺伝子検査システムが保険適用

2019/6/14

 日本では、2018年3月に閣議決定した第3期がん対策推進基本計画において、最重点テーマの1つにゲノムがん医療が挙げられた。がんゲノム医療提供体制の構築のため、厚生労働省は18年2月、がんゲノム医療を牽引する高度な機能を有する医療機関「がんゲノム医療中核拠点病院」の11病院を指定。続いて同年3月、その中核拠点病院と連携してがんゲノム医療が適切に提供されるよう、がんゲノム医療連携病院132病院(重複含む)を指定した。

 この6月1日には、がん細胞の遺伝子検査システムが医療保険の適用を受けた。固形がんを解析対象とした腫瘍組織の包括的ながんゲノムプロファイルを取得することで、患者のがん固有の遺伝子異常を解析し、正確な診断や抗がん剤の選定など治療方針決定に有用な情報を提供する検査に用いる。保険適用を受けたシステムは、シスメックスが国立がん研究センターと開発した「NCCオンコパネル システム」と、中外製薬が扱う「FoundationOne CDx」で、検査1回の価格はいずれも56万円。

 日本においては、15年から16年にかけて、京都大学医学部附属病院、北海道大学、岡山大学病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院などが相次いで、がん患者のがん検体の遺伝子変異の情報を解析し、患者に最適な治療薬情報を提供する「キャンサーパネル」と呼ばれる検査を先行して開始している。

遺伝子解析で医療の適正化と創薬へ

 がんの薬物療法は古典的な殺細胞効果薬剤から始まり、現在は分子標的薬、さらには18年のノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑氏による「オプジーボ」に代表される免疫チェックポイント阻害薬と、様々な作用機序を持つ新薬が開発されて急速な発展を遂げ、医療現場が大きく変わりつつある。

 がんは遺伝子に生じた「異常」、遺伝子の配列が変化する構造変異や遺伝子産物であるたんぱく質が過剰に発現していることなどが原因で発生するが、近年は、これら遺伝子の異常を標的として、その機能を制御する「分子標的薬」が次々と開発されている。これらの分子標的薬は、異常があるがんに対してのみ効果が見られるため、個々の患者のがん細胞にどのような異常が生じているかを詳細に調べる必要がある。また、がんが免疫細胞に対してブレーキをかけて免疫細胞の攻撃を阻止するが、このがんが免疫細胞に対してかけているブレーキを解除するのが、免疫チェックポイント阻害薬だ。いずれの薬剤も、患者個人のがん関連遺伝子の分析、情報を知ることが治療を進めるうえで重要となっている。

 イレッサでも、オプジーボでも、効果がある人とない人がある。効果がない人に対しては、不必要な出費や無駄な時間を課し、副作用も受け、また社会にも負担がかかる。がんゲノム医療は、効果の可否を投薬した結果で判断するのではなく、可能な限り事前に解析することで、無駄を排除し、適正な医療を施す。さらに、データの積み重ねが多くの患者を救い、また解析結果により新たな分子標的薬の創出につながる。

「京」が薬剤有効性を高精度に予測

 慶應義塾大学医学部内科学(呼吸器)教室の安田浩之専任講師、肺がん病態制御寄附講座浜本純子特任助教、腫瘍センターの池村辰之介助教、臨床研究推進センターの副島研造教授と、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻の鎌田真由美准教授、荒木望嗣特定准教授、奥野恭史教授、国立がん研究センター先端医療開発センターの土原一哉トランスレーショナルインフォマティクス分野長、小林進ゲノムトランスレーショナルリサーチ分野長、同東病院の後藤功一呼吸器内科長、松本慎吾医長、同研究所の河野隆志ゲノム生物学研究分野長らのグループは、LC-SCRUM-Japanで構築した日本最大のがん臨床ゲノムデータを活用し、スーパーコンピューター「京」を用いた予測システムにより、肺がんの遺伝子変異に対する薬剤有効性が高精度に予測可能なことを確認したと5月7日に発表した。

 がんゲノム医療の普及により、様々な遺伝子の変異が同定され、治療薬(分子標的薬)の効果が予測されているが、稀な遺伝子変異に対しては投薬効果の予測が難しく、薬剤を選ぶ上で大きな障害となっていた。

 今回、研究グループでは、日本人の肺がんで最も多く変異の見られるEGFR遺伝子に注目し、約2000例の肺がんの遺伝子変異を分析した。その結果、稀なEGFR遺伝子変異をもつ肺がんに対して、治療効果の高い抗がん剤をスーパーコンピューター「京」を用いて高精度に予測することができた。超高速・高性能な計算機を用いたこのシステムを実用化することで、より多くの肺がん患者に迅速に、有効性が高い治療薬を選ぶことが可能になると期待が高まっている。

 また、21年に稼働予定のポスト「京」では、より高速に大規模な計算が可能となるため、さらに多くの変異を対象とした網羅的な薬剤有効性予測を行うことが可能となり、他の多くの遺伝子にも適応を拡大することで、がんゲノム医療の進歩に大きく貢献すると予想されている。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

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