電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第349回

上期の半導体企業ランキングTOP15、プラス成長はソニー1社で「ひとり勝ち」


~黄金武器のCMOSイメージセンサーが爆裂し、2019年度通期では国内首位に躍り出る~

2019/9/6

 ソニーの黄金武器とも言うべきCMOSイメージセンサーの勢いが止まらない。主要アプリであるスマホの台数ベースでの伸び悩みがあるというのに、デュアルカメラモデルやトリプルカメラモデルによる搭載個数増加が、成長の最大要因であると思われる。

 人間の眼にあたる半導体であるCMOSイメージセンサーの世界は、数量・金額ともにソニーがトップシェアを獲得し、まさに爆裂成長モードに入っている。ソニー半導体は、2015年度段階で6824億円の生産額であったが、この3年後の2018年度にはなんと約2000億円も上乗せし、8793億円まで押し上げてきた。IoT時代にあって、センサーは中核デバイスと言われているが、それを地で行くのがソニーであると言えるだろう。

 2019年通期のスマートフォンの販売台数は、前年比横ばいの15億台が予想されていたが、現状ではとてもではないがそこまでは行かない。有機ELモデルの投入で活性化を図る向きもあったが、残念ながら不発に終わっている。そしてまた、米中貿易戦争の影響を大きく受けて、中国におけるスマホの販売が2桁以上のマイナスを記録している。

 こうなれば、2020年以降に期待がかかるのは、なんと言っても5Gによる高速通信の流れであり、これが実現すれば、ここ数年間スマホを買い換えなかった人たちもモデルチェンジに走ることは間違いないだろう。ちなみに筆者が使っているのは6年前のiPhoneであり、現段階で買い換えるつもりは全くないほどに困ってはいない。

 さて、スマホ自体の台数はどうあってもマイナス成長の機運が晴れない状況であるが、カメラ部分に使われるCMOSイメージセンサーは決して苦戦はしていない。スマホにおけるCMOSイメージセンサー2個使いのデュアルカメラモデルは、2018年で5億台までいっていると見られ、2019年についてはさらに急上昇の状況となっている。

 中国のファーウェイや韓国サムスンなどはすでに3個使いのトリプルカメラになっている。アップルは少しく遅れていたが、3個使いの新タイプがいよいよ今秋登場するのではと言われている。それにしても驚くのはファーウェイであり、表と裏で7個のCMOSイメージセンサーを乗っけるというウルトラタイプも用意されているという。

 つまりは、スマホにおける部品搭載比率としては、カメラモジュールが一番コストのかかる分野となっており、こうした流れがCMOSイメージセンサー世界トップのソニーの半導体を押し上げていると言えるのだ。

 さて、2019年上期の半導体ランキングトップ15を概観してみれば、なんとプラス成長は世界すべてでソニー1社のみであることに驚かざるを得ない。トップ15の上期売上高合計は、前年同期比で18%減であるが、ソニーだけが15社中唯一のプラス成長を達成している。しかも驚くべきことに、13%増という2桁成長を遂げているのだ。IoT時代を迎えて、半導体の産業構造が変わってきたことの証左であるとも言えるだろう。ちなみに、上期半導体はインテルが世界首位に返り咲いており、サムスンはメモリーバブル崩壊とともに深く沈んでしまった。

 こういう展開になってくると、2019年度通期の国内半導体生産額の結果が気になって仕方がない。首位を行く東芝メモリ(キオクシアとは呼びたくない)の2018年度実績は1兆2639億円であったが、2019年度通期についてはこのままの展開が続けば、一気に落ち込んでくる。すなわち、前年度比23.3%減の9700億円になるか、またはさらにこれを下回る可能性もあるのだ。これに対して、ソニー半導体の2019年度通期の計画は前年度比12.6%増の9900億円であり、さらに上昇ムードが高まっている。

 さあ、こうなれば信じがたいことが起きるのだ。十数年以上にわたって国内半導体のトップに君臨してきた東芝は、その首位の座をソニーに譲ることになる。ソニーは悲願の半導体日本一のチャンピオンベルトを巻くことになる公算が大きい。あな恐ろしやとはこのことである(ちなみに、東芝本体の半導体生産は2018年度で3549億円があるわけであり、これを東芝メモリと足せば、相変わらず東芝グループとして日本一だとは言えるわけではあるが)。

ソニー半導体の量産拠点は熊本がヘッドクォーター
ソニー半導体の量産拠点は熊本がヘッドクォーター
 思えば、半導体の草創期であった昭和20年代後半に、世界初の量産型トランジスタラジオを出して世界をあっと言わせたのは東京通信工業(後のソニー)なのである。その頃を考えれば、ソニーが現時点で東芝を破って国内半導体首位の座を獲得したとしても、そんなに不思議なことではない、とは言えるだろう。しかして、草葉の陰でソニー創業者の井深大さんは、ソニー半導体首位躍進のニュースを聞いて、涙を流しているのかもしれない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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