電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第367回

トヨタはやはり徹底的に燃料電池車「MIRAI」にこだわっている


~中国は新車販売減速もエコカー補助金は充実の方向~

2020/1/24

 2020年正月のテレビドラマ『教場』はなかなか見ごたえのあるものであった。あのキムタクが白髪姿で、しかも片目に義眼をはめた出で立ちで登場したのだ。筆者は胸の中で「ああ、かつてのアイドルスターであったキムタクもこんなお姿になってしまうのね」と少し薄ら寒い気持ちになったのだが、中高年としてのキムタクも渋くて、かつ熱情あふるる真情さが見られる名演技であった。ちなみに、このドラマを見て、10代~20代の女性たちが「あのオヤジは素敵だわ!!」としびれてしまい、一気にキムタクファンが増えたという。さようまことにキムタクは永遠不滅のスターなのである。

 それはともかく、このドラマ『教場』は視聴率16%以上を叩き出すという好成績に終わったわけだが、繰り返し放映されるトヨタのコマーシャルには別の意味でまいってしまった。豊田章男社長が自らハンドルを握って運転するCMであるが、驚くなかれ、このコアに据えたのが燃料電池車「MIRAI」であった。世界を挙げてのEV(電気自動車)ブームの中で、ワールドワイドの頂点に立つと言われるトヨタの燃料電池に関するこだわりはすさまじく強い。

燃料電池車普及には何といっても水素ステーションの整備が重要
燃料電池車普及には何といっても
水素ステーションの整備が重要
 トヨタは2014年12月に世界で初の燃料電池量産車「MIRAI」を発売した。価格は670万円と当然のことながら高い。鳴り物入りで発売されたが、販売台数は数千台にとどまっているという。しかし、米カリフォルニア州での販売台数は、2018年段階で3000台を突破している。

 燃料電池車の普及が進まない最大の理由は、水素ステーションのインフラ整備が進まないことである。何しろ普通に作れば数億円はかかってしまうというわけであるから、ガソリンスタンドも導入をためらってしまうのは当然のことなのだ。やはり公共による大型補助金が各国で加速する以外に、一気普及は難しいと見てよいだろう。

 燃料電池車の6人乗り高級車と燃料電池バスの試作車は業界の間でもかなり評判になっている。この高級車はたった3分程度の水素充電で約1000kmもの走行が可能であるというからして、EVに比べて圧倒的な優位性を持っている。そしてまた、トヨタの高級車ブランド「レクサス」においても燃料電池車モデルを発表し、より多くのユーザーニーズに応えようとしている。

 トヨタは燃料電池車の開発を20年以上続けており、多くの成果を積み重ねてきた。構成部材の性能を大幅に向上させているし、水素の貯蔵性能も20%向上させている。ガソリン車のエンジンに相当するFCスタックも従来タイプに比べて出力を2倍以上にしている。こうした車の開発に加えて、燃料となる水素の生成技術にも取り組んでおり、たとえば下水汚泥から水素を取り出す試みも進んでいるのだ。

 一方、トヨタ自動車は、中国での販売を絶好調で伸ばしており、2019年は前年比1割近く伸びて好調であった。中国での販売台数が初めて日本を追い抜いたのだ。ちなみに、競合する米GMは前年比15%減、同じく米フォードについてはなんと前年比50%減という惨々たる有様であった。

 しかして問題は、中国における新車販売が伸びていないことだ。それどころか、3年連続マイナスというかたちになりそうなのである。2019年の中国の新車販売台数は前年比8.2%減の2576万9000台であった。減少幅は2018年の2.8%から一気に拡大している。そしてまた、2020年についても前年比2%減と予測しており、世界全体の約30%を占める最大市場の中国の厳しい状況はなお続いていくことになる。

 中国政府には、全体の新車販売台数が3年連続で減速していっても環境問題を考えて、エコカーは何としても加速するとの方針がある。ところが、言うところのエコカー減税や補助金などを手厚く用意して一気に加速した感じはあったが、補助金打ち切りをやった途端に伸びなくなった。これは当たり前のことなのだ。そこで2020年については、エコカー補助金をきちんとやる、という方向性を出している。それにしても、2020年には200万台をエコカーにするという方針は達成できないだろう。

 その中国は、一時期ひたすらにEVが大本命と言い続けた。しかしながら、コストパフォーマンスの問題、安全性の問題、さらには部品調達の難しさなどもあって、思ったようにEVで置き換えられないと考え始めたのだ。それゆえに、プラグインハイブリッドを前提として、ハイレベルのハイブリッド車であればエコカーに認定すると言い始めた。これはトヨタにとって非常に追い風となる方向性だ。

 よく知られているとおり、トヨタの「プリウス」は世界すべてで圧倒的に普及しているエコタイプのハイブリッドカーであり、これをベースにプラグインハイブリッドの開発を加速しており、欧州や中国の言う環境規制に十分対応できると自信を深めている。なおかつ、中国における車の販売も加速しているわけであり、中国政府の中枢にも深く食い込み始めた。そして、トヨタが究極のエコカーと考える燃料電池車「MIRAI」の超低コスト版の改良車の開発を急ピッチで進めている。

 これが出てくれば、EV陣営はかなり動揺するだろう。そしてまた、燃料電池車は水素によって動くのであるからして、地球上に存在する無限のエネルギーを使うという点で圧倒的にエコなのである。EV自体は決して動くためのエネルギーを作ってくれない。結局は火力発電所や原発に頼ることになる。燃料電池車であれば、中長期的に見て完全なゼロエミッションを実現する社会をもたらすことになる。

 中国政府がここに来て、エコカーはEVだけではなく、ハイブリッド車も含まれると言い始め、なおかつ燃料電池車も採用したい、と言っている言葉の裏には、まともに燃料電池車を作れるメーカーがトヨタとホンダ以外にないことを意味している。中国の場合、これまで欧米との付き合いが非常に多かったが、ハイブリッド車や燃料電池車という日本の得意技に注目し始めており、最大市場の中国におけるエコカーの将来構造はハイブリッド車中心に燃料電池車およびEVを使いわける、というかたちになっていくと予想される。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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