電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第40回

君はハイテク国家「イスラエル」の実像を知っているか


~国民1人あたりのベンチャー投資額は米国の2.5倍、欧州の30倍~

2013/4/26

 「イスラエル」と聞けば、「遅れてる中近東エリアの一国だろう」という彼は相当に認識が甘い。「おっかないところだよね」という彼女は第2のシリコンバレーこそイスラエルだ、という実態がまったく分かっていない。インテルも、グーグルも、マイクロソフトも最も重要な開発拠点を置いている国、それがイスラエルなのだ。

 イスラエルの面積は日本でいえば四国程度の大きさしかなく、人口はたったの800万人。しかしながら、民間研究開発投資のGDPに占める割合は、何と4.5%であり、世界一を誇っている(ちなみに、第2位はわが国ニッポンであり、3.2%)。国民1人あたりのベンチャー投資額は2008年段階で250USドルを超え、これまた断然の世界No.1なのだ。この数字は実に米国の2.5倍であり、欧州の30倍にも達している。

 イスラエル北部のハイテククラスターは、第2のシリコンバレーまたは中東のシリコンバレーとも呼ばれている。大手ハイテク企業が集積するだけでなく、スタートアップ企業も数多い。つまりはベンチャー輩出では群を抜いているところなのだ。これを証明するように、2009年のNASDAQ上場企業数を見れば、米国以外ではイスラエルがトップであり63社にものぼっている。次いでカナダ48社、日本6社、アイルランド5社と続いている。

 イスラエル発の医療ベンチャーとして知られるギブン・イメージングは、カプセル内視鏡で圧倒的なシェアを持ち、売り上げ200億円、累積出荷数は180万個にまで達している。この日本法人の社長である河上正三氏はソニー出身であるが、イスラエルのすごさについてこう語っている。

 「イスラエル人の強烈な個性、そして頭の良さ、自己主張の強さはまさにベンチャー企業向きなのだ。資源小国であるがゆえに、人が宝物と考えており、特に軍事技術の民間転用であっという間にハイテク大国になった」

 日本人はよく「水と安全」はただ、と考えていると言われるが、イスラエルにおいては周辺国との軍事的対立で危機感が常に国民全体に共有されている。テロ対策を考えることが重要であり、軍需技術はこうした状況下で飛躍的に発達していった。軍需で培った技術は横展開され、医療機器、半導体、環境技術を切り開いていく基礎となったのだ。

 「とにかく人のマネはいや、というのがイスラエル人の特徴だ。その代わりに、いうところの“空気が読めない”という欠点がある。意外な点をいえば、忠誠心は米国よりはるかに高い。ひとりひとりの個性は強いが、一方で自国の価値観を押しつけない。自国の市場が小さいがゆえに他国とあわせて行くしかないからだ。また、公的規制・技術基準には素直に対応する。これは、軍事技術の習慣を忠実に守っているからだ」(河上社長)

 今や世界のITのトップリーダーにのし上がりつつあるサムスンは、このイスラエルの持つ力に早くから注目し、1999年に現地カンパニーを設立している。2004年にはサムスンテレコムのR&D拠点を設けており、2007年にTVネットと半導体関連の2つのスタートアップ企業を買収している。

 こうした動きに対し、日本勢が遅れをとっていることは否定できない。イスラエルには、HP、グーグル、GM、サムスン、IBM、フィリップス、アプライドマテリアルズ、インテル、インフィニオン、マイクロソフト、ナショナルセミコンダクターなどのグローバルカンパニーが多く集積している。しかして、日本企業のイスラエル活用の動きは、とにもかくにものろい、のろすぎるのだ。

 「しかしながら、イスラエル人にも苦手なことがある。それは地道な改善、改良、量産であり、みんなで協力という体制が作りにくい。品質管理も決して強いとはいえない。基礎的技術開発の幅広さがない。これでお分かりであろう。イスラエルの苦手なことは、すべて日本人の得意なことなのだ。つまりは、イスラエルは0から1を作り上げることは強い。しかし、1から100に持っていくことは超苦手なのだ。これゆえに日本人または日本企業とマッチングすれば、すばらしいことが起きるだろう」(河上社長)

イスラエルのすべてを知りたいならこの本!!(ダイヤモンド社刊)
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 (イスラエルに対する認識を高めたい方は『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』(ダイヤモンド社刊)をお読みになることをおすすめします=筆者)







泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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