電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第46回

電力需要は2030年に約3倍増の50兆kWhまで増大、省エネが重要課題だ!!


~パワー半導体を駆使し、エアコン、冷蔵庫などのインバーター化が急務~

2013/6/14

 「電力消費量の増大は、もはや地球的な問題だ。現段階の世界の電力消費量は17兆kWhであり、1980年当時に比べれば約3倍増となっている。今後の人口増大や未発展国の経済成長を考え合わせれば、2030年には最大で2012年比3倍増の50兆kWhまで拡大することになる。要するに発電所が圧倒的に足りない。このまま行けば、とんでもないことになるのだ」


 いつもいつもため息をつくのが大好きな南川明氏は、またも深いため息をついてこう語るのである。南川氏は半導体産業の古参アナリストとして名高く、現在はIHSグループに所属している。南川氏によれば、とんでもない人口増大はなんと言ってもインド、中国、東南アジアをはじめとするアジア全域の人口が爆発的に増えることが最大の要因であるという。とりわけインドの人口増はすさまじく、現状で推定12億7000万人と見られる。早ければ来年にも中国の13億人を抜いて世界一の人口国となってしまうのだ。

 また、アフリカも現在は10億人程度であるが、最後に残る経済発展の宝庫として注目を集めており、ここ数十年で20億人まで拡大するといわれている。少子高齢化で人口減に苦しむ国は世界でもまれであり、その代表格がわが国ニッポンである。しかして、世界全体は赤ん坊と若者達の塊となりつつある。ジジババ大国ニッポンは高度医療への展開などを進める以外に成長戦略はないのかもしれない。

 アベノミクスで有名人となったわが国のトップ、安倍ちゃんは頭の良い人だから成長戦略の第3の矢を次々と繰り出しているが、ここに来て世界最高水準の日本の医療産業を世界ステージに持っていく戦略を推進するとしている。けだし、大正解であろう。また、イケメンの安倍ちゃんは、アフリカへの経済援助を通じて、わが国の製品輸出、インフラ輸出にもつなげようとしているようだ。

 それはさておき、世界の電力需要は2020年ごろに多くのショーテージの問題が発生してくることは間違いない。ときあたかも、100年に1回、または200年に1回とも言われるシェールガス革命がアメリカを主役に進められている。これは大いに期待できるものの、爆発的な電力消費増大をカバーできるかというと、さあどうかと怪しむ向きも多いのだ。

 ちなみに世界の電力需要の約55%は何とモーターを駆動するために使われている。工場内では6割がモーター駆動に使われており、この省エネ化を図らないことにはお話にならない。
 「現状においてモーターの2割にしかインバーターは搭載されていない。増大する電力需要をなんとしても抑え込むためには、インバーター化による省エネがどうしても必要なのだ。インバーター化にもっとも必要な半導体は何か、といえばいうまでもない。IGBTを筆頭格とする最先端パワー半導体の採用が今こそ必須事項となってきたのだ」(南川氏)

 身近な例で言えば、インバーターエアコンは世界中でできるだけ早期に普及させなければならない。ところがどっこい、である。北米830万台のエアコンのインバーター搭載率は驚くなかれゼロなのである。エコな考え、もったいない精神はアメリカ人にはもっとも似合わないものなのだ。中南米も同じくエアコンのインバーター化率はゼロで、こちらは380万台がある。欧州はさすがに意識が高く、750万台のうち25%がインバーターエアコンとなっている。環境問題で世界中から攻撃されている中国ですら、2100万台のうちエアコンのインバーター化率は一応7%あるのだ。

 こうした状況下で米国エリアのインバーター化率ゼロは、もっと環境会議などで徹底的に糾弾して良いことなのだ。ところが、やっぱし世界最強国に逆らうのは怖いわ、とばかりにあまり議題にならない。一方で、世界で唯一エアコンのインバーター化率100%を達成している国がある。それは他ならぬ我が国ニッポンであり、740万台すべてが省エネ対応となっている。実にすばらしい。このことはもっと世界に誇って良いことなのだ。

 エアコン以外の製品を見ても、インバーター化率はまだまだなのだ。2012年段階においては冷蔵庫は10%未満、クッキングヒーターは15%未満、洗濯機は25%未満となっている。シェールガス革命でエネルギーがふんだんに使える状況が出てきたとはいえ、やはり世界的な問題としてインバーター化による省エネを進めなければならない。

 インバーターに使われるもっとも重要な半導体はIGBTであり、現状で三菱電機が世界チャンピオン、これに富士電機、東芝、日立、ルネサスなどが続いており、実に日本勢の世界シェアは70%以上となっている。2012年についてはIGBT需要は中国の公共投資下降などを主因として減速した。しかしここに来て、再び受注活発化の動きが出てきた。

 ピュアシリコンによるIGBTに加え、SiC、GaN、酸化ガリウムなどの化合物系の開発も加速しており、この分野の先端開発はやはり日本勢が最先行している。世界の電力需要増大に大きくストップをかける日本勢の活躍に、心からエールを送ろうではないか。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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