電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第418回

テスラがロボット開発を開始


現代自動車もロボットの取り組みを強化

2021/9/10

 8月、EV(電気自動車)大手のテスラが技術説明会「AI day」を開催し、そのなかで人型ロボット「Tesla Bot」(テスラボット)の開発に乗り出すことを明らかにした。製品化などの時期は未定だが、2022年にプロトタイプモデルを公開する予定だ。

Tesla Botのイメージ図(テスラの発表動画より)
Tesla Botのイメージ図(テスラの発表動画より)
現代自動車はボストン・ダイナミクスをグループ化
現代自動車はボストン・ダイナミクスをグループ化
 テスラボットは、身長173cm、重さ57kgの人型ロボットで、開発にはAI、センサー、バッテリーなど、クルマの自動運転で培った技術を活用。アクチュエーターを40個(腕12個、首2個、胴体2個、手12個、足12個)搭載する。また、頭部に情報表示用のスクリーンのほか、ニューラルネットワークで制御されるマルチカメラ8個を装備。胸部に独自の高性能コンピューター「Dojo」を搭載し、カメラ映像を機械学習で処理し、自律動作を実現するという。

 発表内容によると、可搬重量20kgで、時速8kmで移動可能。軽量素材を使用し、手の動きは人間レベルを実現するという。危険作業、繰り返し作業、単純作業を代替することを目的としており、一例として、工具を使ってクルマにボルトを取り付けたり、店舗から食料品を受け取ることなどを挙げた。

 現在、テスラなどが手がける自動運転システム搭載のEVはロボットカーとも呼ばれる。そのため、イーロン・マスクCEOは「我々が自動車で行っていることを考えると、テスラは世界最大のロボット企業だ。なぜなら、我々のクルマは車輪の上に半感覚的なロボットを搭載しているようなものだからだ」とした。そして、こういったロボットが「労働力不足を解消して経済に大きな影響を与える」とも語り、長期的な視点では、政府などがすべての国民に対して、無条件で一定の現金を定期的に支給する「ベーシックインカム」が必要になるとの見解を示した。

 現状では、公開されたのはCGによるイメージなどに限られ、未知数の部分が多いことは確かだが、テスラがロボット開発に取り組むということだけでも非常に大きなインパクトがあるといえるだろう。

現代自動車はロボ企業を買収

 自動車メーカーでは、韓国最大手の現代自動車もロボット分野の取り組みを強化している。その1つとして、20年12月に、ソフトバンクグループ(SBG)傘下のボストン・ダイナミクス(BD、米マサチューセッツ州)を買収すると発表し、6月に買収作業が完了した。

 BDは1992年設立のロボットベンチャーで、2足歩行ロボット「アトラス」や4足歩行ロボットの「ビッグドッグ」など、米国防総省向けの軍事用ロボットを複数設計した実績を持つ。2013年12月から米グーグル社傘下となり事業を進めていたが、18年にSBG傘下になった。

 BDの製品面の取り組みとしては3月に物流施設向けのロボットシステム「Stretch」を発表した。Stretchは、小型で全方向に移動可能な移動型ロボットの上に、7自由度を持つ垂直多関節ロボットを搭載したシステムで、トラックからの荷降ろしやパレタイジングなど、物流施設・倉庫内における荷物ケースの移動作業を自動化できるロボットだ。

 現代自動車はモビリティー分野のノウハウに、BDが持つロボティクス分野の技術を融合し、自動運転車、アーバンエアモビリティー(都市航空交通)、スマートファクトリーなどへの技術展開も見込んでいる。また、病院での患者介護など高度なサービスを提供するヒューマノイドロボットなどの開発も目指している。

配達ロボの開発なども実施

 これ以外にも、現代自動車は、グループにおけるロボットの開発体制も強化しており、その1つとして人型ロボット「DAL-e」を1月に発表した。高さ116cm、重さ80kgのロボットで、顔認識を行う最先端のAIや、言語理解プラットフォームをベースとした自動コミュニケーションシステムなどを搭載。高い認識能力と移動機能を備えており、接客ロボットとして、韓国・ソウル市南部にある現代自動車ショールームで試験運用を進めている。

 DAL-eは、来店者がマスクを着用せずに入店した場合、マスクの着用を促すことなどができるほか、会場内の大型ディスプレーとワイヤレスで接続して車両や技術を説明したり、来場者の写真を撮影したり、可動アームを使ってジェスチャーでフィードバックすることもできるなど、優れたエンターテインメント性も有する。そのほか、2月にロボット技術を活用した無人走行車「TIGER」も発表した。四輪駆動車と4足歩行ロボットを融合した設計を採用しており、荒地での走行や360°の方向転換などにも対応できる。

 3月にはWoowa Brothers(韓国・ソウル市)と配達ロボットを開発に関してMOUを締結。Woowaは、韓国の食品配達アプリでトップシェアを誇る「配達の民族」を運営する企業で、IT企業と連携して配達ロボットの開発も進めている。現代自動車はロボットや車両に関するノウハウを活用して、マンションなどで使用する屋内用だけでなく、屋外用の配達ロボットを開発していき、管理システムなども含めた配達ロボットプラットフォームとして提供することを目指している。

日本でもトヨタなどが開発

 日本の自動車メーカーでは、トヨタ自動車がロボットの開発を進めており、東京オリンピックでもハンマーを回収する作業に、トヨタ製の移動型ロボット「FSR」が活用された。また、バスケットボール会場ではハーフタイムにトヨタ製の人型ロボット「CUE」が登場。フリースローや3ポイントシュートを決め、会場にいた記者などを驚かせ、SNSなどを通じて海外でも反響を呼んだ。ただ、これらはエンターテインメント要素が強い。トヨタでは実用性の高いロボットも複数開発しているが、本格的に市場展開しているのは、リハビリテーション用ロボットシステムの「ウェルウォーク」など一部に限られる。

 日本の大手自動車メーカーでは、本田技研工業(ホンダ)も、ロボット関連の研究開発を長年実施しているが、その代表格であったヒューマノイドロボット「ASIMO」(アシモ)は現在、開発を終了。世界最大級の家電見本市「CES」などで新たなロボットを複数発表しているが、実用化には至っておらず、ロボティクス関連で製品化されているのは、脚力が低下した人の歩行をサポートする「Honda歩行アシスト」など一部に限られる。

 現在、自動車業界はCASEなど「100年に一度の変革期」にあり、かつ新型コロナウイルス感染症からの回復が重要テーマとなっているため、ロボットなど自動車以外の領域に経営資源を充てることは難しい状況にある。しかし、「自動車メーカーにとってロボットは自動車開発で培った技術を活かせる領域である。そして、ロボットで開発された技術が自動車開発に活かされた事例なども出てきている」(自動車メーカー関係者)というように、自動車とロボットは親和性が高い領域であり、テスラや現代自動車などの海外企業がロボットの取り組みを強化していることをきちんと把握しておく必要があるだろう。

電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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