電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第450回

パチンコとストリップが花開いた時代が懐かしい


国内ファブレス半導体の草分け、アクセルは脱パチ、AI開拓に進行

2021/9/24

 大自然というものが大キライなのである。大海原も山林原野も、はたまた風光明媚な島々などには、全くと言ってよいほど関心がない。仕事であってもプライベートであっても、どこかに出かけることがあれば直ちに調べるのが、パチンコ、キャバレー、ストリップのある場所なのである。

 何しろ横浜のド下町に生まれ、昭和30年代初めまでは赤線の街であるエリアで子供の頃から遊び歩いていたわけだから、どうにもならない。生まれ育ちの卑しさなのである。しかして、パチンコは斜陽産業になりつつあり、キャバレーは壊滅状態。そしてストリップシアターも劇的に少なくなってしまった。筆者は戦後の昭和の良き時代を駆け抜けてきただけに、こうした文化が衰退していくことについては、身体がワナワナとするほどに哀しいのだ。

九州唯一のストリップ小屋である「A級小倉劇場」の存続は嬉しい
九州唯一のストリップ小屋である
「A級小倉劇場」の存続は嬉しい
 九州唯一のストリップ劇場である「A級小倉劇場」が、ついに閉館してしまうという情報を聞きつけた時には、あまりの哀しさに声を上げて泣いた。小倉駅前にある昭和30~40年代のレトロな街並みの中に、そのストリップ小屋があり、随分と通ったものである。ところが、2021年の5月頃になって、「ストリップの灯絶やさぬ」というファンたちの応援でこの小屋の存続が決まった。まさに快哉である。

 一方、パチンコ産業の方もとんでもないことになっている。1995年には1万8244店のピークを数えたパチンコ店は、その後一気に減り続けた。不況に強いと言われたパチンコも、ファンの老齢化が進んでおり、若者たちを惹きつける魅力がなくなってきた。それにしても、1円パチンコで1000円を使うこともためらう若者たちが、ゲーム機を買うと言ったら数万円をためらいなく使うのである。エンターテインメントの主役がパチンコからゲームに移ってきたことは、もはや間違いのないところである。

 かつてパチンコ産業は30兆円の巨大産業と言われた。なんと、国内の外食産業の規模に匹敵するスケールであった。しかして、2021年4月末には全国のパチンコ店の数はついに8000店まで落ち込んだのであるからして、もはや市場も20兆円を大きく割り込み、売り上げ減に歯止めがかからない状態だ。

 さて、振るわなくなってきたパチンコ・パチスロ産業の世界で、気を吐く半導体企業がある。それがアクセルである。この会社は1996年2月に設立され、独自のシステムLSI技術を活かして、パチンコ・パチスロを中心とするアミューズメント向けグラフィックスLSIで圧倒的なマーケットシェアを握ったのだ。創業者の佐々木譲氏(故人)は、東海大学工学部電子工学に学び、卒業後はアバールデータ社に入社する。その後、縁あって新日本製鐵(現在の日本製鉄)の新規事業に関わることになり、ASICの展開に参画する。そして満を持して独立半導体ベンチャーへの道を決意するのだ。

 「創業者の佐々木さんが路線を引いたパチンコ・パチスロ機向けLSIおよびメモリーモジュール、組み込み機器向けは、現在においても圧倒的な主力事業である。しかし、20年度レベルで言えば、パチンコ・パチスロ機の年間販売台数は19年度の175万台から120万台程度まで落ち込んだ。こうなれば、新規事業関連を強化していくことは焦眉の急となっている」

 こう語るのは、アクセルにあって現社長の任にある松浦一教氏である。松浦氏によれば、新規事業としての最大の柱は機械学習/AI領域の分野であるという。いわばパチンコなどで培った様々なソフトやハードが横展開できる分野なのであろう。

 最近のトピックスとしては、パチンコ・パチスロ機向け次世代メモリーの開発・販売を目的とする子会社「エイムレイジ」を設立したことだ。アクセルが70%出資し、残り30%は富士通デバイス(現NVデバイス)が出資し、20年11月10日付でテイクオフしたのだ。さらには、セキュリティー対策に関連する新製品も上市している。パチンコ産業が斜陽になりつつある現状にあって、アクセルもまた、新しい時代に対応した事業戦略を迫られているのだと言えよう。

 それはともかく、筆者のストリップ通いを揶揄して、女性たちは目を吊り上げてこうのたまうのだ。「いやらしい。けがらわしい。とんでもない好き者。そんな人間とは思わなかった」

 お言葉を返すようであるが、西洋絵画の世界を見てほしい。アングルの傑作である「オダリスク」は全裸の女性を見事に描いたものだ。印象派の中核にいたドガは、踊り子たちの姿をリアルに、かつ美しく描いて見せた。太古の昔から、女性の全裸は芸術家たちを惹きつけて止まなかったのだ。

 劇作家の唐十郎氏が言う「特権的肉体論の世界」がそこにはあるのである。口角泡を飛ばしてストリップのすばらしさを説くのであるが、かの女性たちは全く耳を貸さない。あなたのようなゲスな人間が、ヌードは芸術なのだと言っても、ほとんど誰も信用しない、と指摘されてしまうのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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