電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第422回

半導体パッケージ基板の供給不足続く、最大30%の需給ギャップも


チップレット化で大型化・高多層化が進展

2021/10/8

 半導体市場の拡大などに伴い、マザーボードとチップの中継基板(インターポーザー)としての役割を担うパッケージ基板の供給不足が深刻化している。基板各社は、大型の設備投資を敢行して需要増に対応しているが、それでも需給逼迫は解消できず、専門家によれば2024~25年ごろには最大30%の需給ギャップが発生する可能性があると指摘する。工場単位で言えば、8工場程度足りなくなる見通しで、供給問題解消に向けた道筋はまだまだ見えていない実情だ。

「Substrate」ワードが13回

 半導体市場の拡大に伴い、組立・テストなど後工程分野の部材にも逼迫感が強まっている。代表的なところでは封止材料、リードフレーム、そして半導体パッケージ基板の名前が必ずといっていいほど上がる。半導体パッケージ基板を中心に市場の調査・コンサルティングを手がけるAZ Supply Chain Solutionsの亀和田忠司氏も9月16日に開催された弊社主催セミナー「半導体パッケージはどうなる2021」での講演時に指摘していたが、2021年7月に行われたインテルの第2四半期決算カンファレンスで「Substrate」のワードが13回も出てきたと指摘。供給問題が深刻化していることを表現するために、異例ともいえる「Substrate」ワードの連発が起こったとも見られる。

 そもそも、ここまでどうしてパッケージ基板が不足するのか。パソコンなど電子機器の需要増に伴う半導体市場そのものの拡大に加えて、亀和田氏は半導体のダイコストの上昇が大きく関係していると指摘する。サーバーなどHPC分野ではダイサイズが肥大化しており、例えば同じ歩留まり状況下でも、600mm²サイズのチップと150mm²サイズのチップでは取れ数に大きな違いが生まれてくる。これがダイコストの急激な上昇を生んでいる。

 その解決策の1つとして現在注目を集めているのがチップレットだ。もともと1つのダイで構成されていたものをダイ分割して、サブストレート上で機能統合することでウエハーあたりの歩留まり向上を実現。いち早くチップレットに乗り出していたAMDはこれで飛躍的なコスト低減を実現したと見られている。

パッケージ基板への負担増大

 一方で、このチップレット化の波を受けて負荷が増大しているのがパッケージ基板だ。複数ダイを搭載することによる物理的なスペースの増加、複数のダイ間でのデータ転送による処理量の増加により、パッケージ基板サイズの大型化ならびに高多層化が一気に進展。同氏は19~25年でサーバー・パッケージ基板面積は2~3倍に増加していると予測しており、この大型化はパッケージ基板の歩留まり低下にも影響している。

イビデンは岐阜県揖斐郡大野町に新工場用地を取得する(写真は締結式の様子)
イビデンは岐阜県揖斐郡大野町に新工場用地を取得する(写真は締結式の様子)
 当然、こうした急激な需要増に対応すべく、供給各社も積極的な設備投資を実施している。国内ではイビデンが主力の大垣中央事業場で総額1300億円の設備投資を敢行したのに続き、新たに河間事業場での新棟建設(総額1800億円)計画を発表。さらに河間新棟竣工後を見据えて、新たに用地取得を進めるなど、従来と比べ物にならない投資スケールとなっている。同じく国内大手の新光電気工業も高丘工場を中心に能力増強を図っているほか、凸版印刷や京セラも積極的な投資姿勢に転じている。海外企業でもAT&Sがマレーシアに新工場を建設するなどしており、亀和田氏は、FCBGAサブストレートの生産能力(個数ベース)は、26年までに21年比で2.1倍に増加すると予測する。

 ただ、それより需要が供給能力を上回る展開は今後も続くと見ており、実際の運用上のキャパシティーと今後の需要を比較すると、24~25年ごろには最大30%の需給ギャップが生まれると指摘する。

MSAP工法もアイデアの1つに浮上

 このギャップ解消に向けて様々な施策が検討されている。まずは新規参入メーカーの存在だ。CSP基板メーカーやPCBメーカーの一部でFCBGA分野に参入する動きがあるが、いずれも規模が小さい。具体的には大徳電子やコリアサーキットなどが投資計画を発表しており、ZDTグループの中国法人である「Avary」も市場参入の機会をうかがっている。深南(Shennan)電路も参入を計画している。ただ、既存のFCBGAメーカーと新規参入組では技術力に大きな差があると見られており、需給問題解消の一助になるかどうかは未知数なところもありそうだ。

 また、パッケージ構造そのものを見直すことで、状況を改善するプランもある。具体的にはRDL(再配線)技術などを使った有機インターポーザーが候補に上がるが、まだまだ発展途上の状況であることは否めない。さらにCSP基板や一部PCBで用いられているMSAP(Modified SAP)工法を用いたパッケージ基板の展開も、可能性の1つとして期待される。現状、MSAPラインはSAPラインに比べて、稼働はそこまで逼迫していないと考えられており、ファインピッチをそれほど必要としないローエンドのパッケージ基板分野ではある程度ニーズが合致すると見られている。

 いずれにせよ、現状で抜本的な改善が見当たらないのが実情で、需給環境はしばらく逼迫した状況が続くという。さらに今後は、投資規模が大きくなっていくことで、供給各社の投資リスクをどうヘッジしていくのか。顧客企業の資金的なサポートも含めて必要になってくるとみられており、パッケージ基板業界を取り巻く環境はここ2~3年で一気に変わった印象だ。

電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉雅巳

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