電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第428回

米中デカップリングに悩む韓国


対中貿易維持も、米国には工場建設の「二刀流戦略」

2021/11/19

 米中のデカップリングに悩む韓国。一時、小康状態であった米中の貿易摩擦が再燃しつつある。特に、2018年に勃発した関税戦争に続いて、米国中心のサプライチェーンの再編により、対中依存度が高い韓国の立場は、まるで綱渡りのような対米中外交を強いられている。

対中半導体輸出額は450億ドルの見通し

 韓国産業通商資源省(日本の経済産業省)の資料によれば、韓国の対中半導体輸出額は、21年10月に前年同月比41.5%増の36億7000万ドル(約4147億円)となり、過去最高を記録した。また、21年1~10月累計の対中半導体輸出額は390億ドル。これは20年通年の対中半導体輸出額(399億ドル)に迫る数値である。21年通年の対中半導体輸出額は450億ドル(約5兆850億円)を上回ると、韓国半導体業界筋では見通す。

 このように半導体市場における中国は、韓国の大口取引先であることは否定できない事実だ。20年度の韓国全体半導体輸出規模のうち、中国が占める割合は40%。特に、香港向けまで含めると、実際の対中半導体輸出割合は60%と推定されている。


 さらに、半導体に加えて、FPDパネルやスマートフォン、PCなどといった情報通信技術(ICT)の全分野における中国に対する高い依存度も軽視できない。ICTの輸出額のうち、対中輸出割合は21年9月基準で47.7%。全体品目を基準にした場合、韓国全体輸出額の25%が中国向けとなっている。

 こうした高い対中依存度により、米中のデカップリングがエスカレートするなかで、韓国経済への悪影響は避けられない見通しだ。

韓国系半導体企業に直接的な被害

 韓国対外経済政策研究院(KIEP、世宗特別自治市)は、最近の報告書に「ジョー・バイデン政権になり、米中の貿易葛藤はさらに深化する」と見通した。KIEPは、米中の相互追加関税の賦課により、すでに韓国の産業生産に1.9兆~3.58兆ウォンの被害が発生したと推定。実際、トランプ前政権の時、米中の関税戦争だけで韓国は4兆ウォン(約3883億円)程度の直接的な被害が発生した。

 関税で高くなった価格のため製品購買が目減りして、中間財の供給や中国現地工場運営中の韓国企業が被害を被ったためだ。特に、中国に進出した韓国系の半導体・FPDパネルメーカーは、直接的な打撃を受けた。

 KIEPでは「韓国は今後、米中のデカップリングに対するさらなる厳しい選択を強いられる」と警告している。米中の貿易摩擦が長期化かつ常態化する過程において、韓国経済と企業に対する実質的な被害を触発し、事案によっては米国寄りか中国寄りかの選択を求められる可能性がある。

安米経米は避けられないか

 輸出主導型の韓国経済において、中国依存度を低下させる抜本的な対策が求められている。1992年の中韓国交樹立当時、3.5%に過ぎなかった対中輸出割合は、00年の10.7%から20年には全体の25.8%と急増している。

中国輸出向けサムスン製の最先端DRAMモジュール(写真:サムスン電子)
中国輸出向けサムスン製の最先端DRAMモジュール(写真:サムスン電子)
 韓国の対中輸出は、日中韓のサプライチェーンとも深い関係がある。例えば半導体の場合、日本から半導体向け装置・材料を輸入した韓国は、DRAMやNANDフラッシュといったメモリーを中国に輸出。中国は韓国製のメモリーを採用し、PCや家電、玩具などの完成品を作り、世界中に輸出する。いわば日中韓のトライアングル産業構図が30年間近く続いてきた。

 しかし、バイデン政権が力強く進める対中牽制策は、そうした日中韓の経済図式に対する亀裂を意味する。韓国は従来の対中輸出を維持しつつ、米国における現地工場建設という「二刀流戦略」で臨む。サムスンやLGグループなど韓国大手財閥グループは、米国に半導体とリチウムイオン2電池(LiB)向けの大規模な工場建設を打ち出しているものの、米国が目論む対中戦略は、中韓の現状維持は望ましくないと圧迫する可能性が高い。

 つまりは、いくら韓国が「米寄りかつ中寄り」というぎりぎりの外交を駆使するといっても、結果的には「安米経米(朝鮮半島の安保と経済は米国頼り)」は避けられないのが、韓国の抱えるジレンマなのかも知れない。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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