電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第435回

電子デバイス業界 2021年10大ニュース延長線


個人的見解第1位は?

2022/1/14

 本紙電子デバイス産業新聞では、2021年の最終号となる12月23日号で毎年恒例となっている「電子デバイス業界 2021年10大ニュース」を取り上げた。20年に続き、21年も電子デバイス業界にとって激動の一年となった。

 新型コロナの影響によって、サプライチェーンの混乱は続き、年初から半導体の供給不足が深刻化。米中摩擦などの地政学的リスクの増大も影響して、国家レベルで半導体産業を支援する動きが広がった。社会や世間での半導体に対する認識も大きく変わった年になったのではないかと感じている。

 紙面の都合上、10大ニュースでは第1~6位まで詳述したが、本稿では書ききれなかった7~10位についても触れてみたいと思う。また、最後に「個人的見解」の第1位のニュースについても取り上げたい。

第7位 ルネサス那珂工場が火災

 21年3月にルネサスの主力拠点である那珂工場の300mmライン「N3」で火災が発生。年初から車載用半導体の供給不足が深刻化するなかで、それに拍車をかけるかたちとなり、大きな混乱に陥った。当初は全面復旧に3~4カ月かかるとされていたが、同社従業員はもとより、サプライヤー企業または顧客企業の応援もあり、6月下旬に生産レベルで100%の水準に回復。出荷ベースでも8月には完全に復旧するなど想定以上のスピードで工場再開にこぎつけた。

 国内では旭化成の延岡工場の火災など、ここ数年大きな工場火災が相次いでいる。東日本大震災の時もそうだったが、改めて工場内での安全対策や代替生産を含めたBCPに対する対応が問われる一年となった。

第8位 PKG基板各社が大型投資

 チップレットパッケージの本格化などにより、パッケージ基板の大型化ならびに高多層化が急速に進展。これによりパッケージ基板各社の大型投資が相次いでいる。国内大手のイビデンや新光電気工業も既存工場での増産投資に加えて、新工場立地によって需要増に対応しようとしているが、まだまだ需要に追い付いていない状況だ。海外企業でも積極的な増産投資が行われているほか、韓国LGイノテックのようなFCBGA市場に新規参入する動きも広がった。

イビデンは岐阜県揖斐郡大野町に新工場を建設へ
イビデンは岐阜県揖斐郡大野町に
新工場を建設へ
 パッケージ基板(特にFCBGA)ではこれまでインテルが需要の多くを担っていたが、近年はAMDやエヌビディアなど他のプロセッサー向けの需要も拡大、または多様化している印象だ。要求も高度化しており、さらなる薄型化や細線化が求められ、装置・材料メーカーにとっても大きな商機が到来している。

第9位 米中デカップリングが加速

 米中摩擦に代表される地政学的なリスクは、ますます深刻化している。これまで半導体業界はグローバルに洗練されたサプライチェーンが構築されていたが、いまそれに逆行するかたちで再構築・分断する動きが広がっている。中国ファーウェイへの禁輸措置に始まり、21年は自国内や域内でサプライチェーンを完結できるような動きが広がっている。米国は国内での先端工場誘致に邁進し、TSMCやサムスン電子などの外資系企業が新工場建設を表明。中国もファンドリー・OSATの能力増強が非常に目立った。

 気になるのは韓国企業の動向。サムスン電子は西安に、SKハイニックスは無錫に大型工場を有しているが、米中デカップリングの加速で板挟みの状況にもなっているとみられ、先端プロセスへの投資が暗礁に乗り上げている。DRAMを生産するSKハイニックスの無錫工場では、今後最先端プロセスではEUVリソグラフィー装置が必要になってくるが、米国の規制強化によりハードルが高まっている。

第10位 サムスンが米国に新工場

 第9位のニュースに関連して、サムスンがテキサス州テイラー市にロジック/ファンドリーの新工場建設を決めた。同社はもともと、同じ州内のオースティンに工場を構えており、テイラー新工場は米国国内では2ヶ所目となる工場。米中摩擦に伴う新工場立地の動きといえるが、サムスンにとっては非メモリー事業強化のためにも重要な拠点となりそうだ。

新工場は24年下期の本格稼働開始の予定
新工場は24年下期の本格稼働開始の予定
 周知のとおり、ファンドリー業界では台湾TSMCがシェア50%以上を獲得し、業界をリードする。サムスンも長年ファンドリー事業の拡大を掲げているが、思うように顧客層を広げられておらず苦戦している。21年10月に開催された「Samsung Foundry Forum 2021」では、22年前半にGAA(Gate All Around)プロセスを適用した3nm世代の生産を始めるとしており、先端プロセス分野を中心に今後も積極的な設備投資が展開される見込み。

「個人的見解」第1位は?

 最後に個人的見解の第1位も紹介したいと思う。あくまでも私見が多分に入っているが、業界的には非常にインパクトのあるニュースでもあり、今後の動向にも非常に注視していきたい。

 JSRが21年9月に発表したInpria Corporation(インプリア)の買収だ。JSRは半導体用フォトレジストで業界トップシェアを握り、最先端のEUVフォトレジストでも存在感を示す。一方、インプリアは、従来の化学増幅型レジスト(CAR)とは全く異なるメタルオキサイドレジスト(MOR)を開発・製造する米国企業だ。

 MORは高解像度化に適しているほか、エッチング時のパターン転写性能が高く、2nm以降に導入が見込まれる高NA世代での適用が検討されている。一方で、メタルコンタミに対する懸念やシビアな感度調整が必要などの課題もあり、業界内には懐疑的な見方もあったが、JSRの買収によって、その様相が変わりつつある。

 実際に、大手半導体メーカーの3nmプロセスに数レイヤー採用される見通しであることも今回明らかになってきた。JSRは1nm以降のEUV適用レイヤーのうち、半分弱がMORで占められると予想。従来、CARがその多くを担うとされていたレイヤーをMORが置き換えることになれば、レジストメーカーの勢力図に加えて、原材料サプライチェーンへのインパクトも少なからず出てくると予想される。

 EUVレジストは向こう5年間で年率40~50%程度の成長が見込まれており、25年には400億~500億円の市場規模を形成する可能性を持っている。今後はその成長ポテンシャルに加えて、CARとMORの競合状況についても配慮していく必要がありそうだ。

 長年、レジスト分野を取材している筆者にとって、MORは「穴馬」的な存在だった。レジストメーカーからも「MORの量産適用はハードルが高い」という認識が一般的だったためだ。ただ、21年に入ってMORの可能性について議論がなされる機会が自分の身近にも増え、取材テーマに「MORのポテンシャル」を盛り込もうとしている最中でのJSRの買収発表だった。

 EUVもそうだったが、長年燻っていた技術において一気に量産適用に向けた道筋が切り開かれるのは、半導体業界では過去にも多くの事例がある。こうした動きによってイノベーションが起こされ、業界が進展していく。さらなる微細化の実現に向けてJSRのような積極的な動きを22年もしっかりと取材・調査していきたいと考えている。

電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉雅巳

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