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第436回

2021年太陽光発電10大ニュース、21年は記録的な成長


ペロブスカイトは量産、欧米でも投資活発化

2022/1/21

 2021年は太陽光発電(PV)の導入が過去最高を記録したようだ。欧州では需要が急増しており、住宅や商業&産業用などの分散電源市場が大きく成長している。ポリシリコン(ポリSi)の価格高騰といった課題があるが、22年もPV市場は大きく成長すると期待されている。
 今回は21年のPV10大ニュースを選出するとともに、22年の市場および技術動向を展望する。


(1)21年導入量は過去最高

 IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、20年のPV導入量は145GW(SolarPower Europeは138.2GWと算出)で、前年比では3割の増加だったが、21年もPVの導入は2桁成長を維持したもよう。IEAは21年の導入量は過去最高の160GWに達すると推測している。欧州でもPV導入が加速しており、21年は過去最高の25.9GW(SolarPower Europe調べ)に達したようだ。年間導入量は11年の21.4GWが最高だったが、21年はこの記録を塗り替えた。

 22年以降もPVの導入は2桁成長を維持する見通しで、IHS Markitは21年比2割増の200GW超と予測している。年間導入量が200GWを突破するのは初めてで、順調にいけば、25年までに1000GWの新規導入が見込めると試算している。IEAは26年までの新規電力設備の95%を再エネが占めるとし、その半分がPVになると見ている。

 欧州のPV市場も成長が持続する見通しで、SolarPower Europeは22~25年の4年間は2桁の成長率が続くと見ている。ミディアム・シナリオによると、22年の欧州の導入量は30GWで、25年には50GWに達すると予測している。


(2)ペロブスカイト量産へ

 ペロブスカイト太陽電池(PSC)は10年代後半から急速に変換効率が向上しており、すでに小面積セルでは25%を超えている。商業化には大面積化や長寿命化が不可欠だが、近年は大面積&均一成膜技術の開発が進んでいる。東芝は1ステッププロセスのメニスカス塗布法で作成した逆構造のフィルム型PSCモジュール(703cm²)で変換効率15.1%を達成した。パナソニックもインクジェットで作成した30cm角(55セル直列、開口面積804cm²)のモジュールでも変換効率17.9%を達成している。

 商業化では、Oxford PV(英国)がドイツでPSC/Siタンデムの量産工場(100MW)を建設し、22年のフル生産を予定している。Saule Technologies(ポーランド)も21年5月にポーランドの量産工場(100MW)が完成したが、生産が軌道に乗れば、世界中に新工場を建設するという。

 UtmoLight(中国)もPSCの商業化を計画しており、21年中に1m²サイズのPSCモジュールを生産するパイロットラインの建設に着手し、22年から生産を開始する。Greatcell Energy(オーストラリア)は南オーストラリア州アデレードで工場設備を確保し、単接合型およびタンデム型PSCの研究開発およびパイロットプラントを整備する計画を発表した。Evolar(スウェーデン)はタンデム型PSCの商業化を目指している。

 日本でもPSCの商業化の動きが活発化している。ホシデン(大阪府八尾市)は21年からサンプル出荷を開始しており、23年から本格量産を開始するが、将来は韓国やベトナムの拠点を活用して、フレキシブルPSCの量産も検討する。積水化学工業は1m幅の大面積フィルム型PSCモジュールを開発しており、25年の事業化を目指している。富士色素グループのGSアライアンスは京都大発のスタートアップ企業であるエネコートテクノロジーズ(京都市上京区)に出資して、PSCの商業化を後押ししている。

(3)n型TOPConの時代

 現在主流のPERC(Passivated Emitter Rear Contact)技術を置き換える次世代技術として、n型Siウエハーを用いたTOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)が注目されている。TOPConは電極界面でのキャリア再結合が低減でき、PERC技術との互換性も高い。LIDおよびLeTIDも少なく、両面発電にも対応している。これまでに、Jinko Solarが163.7mm角セルで25.4%、Jolywoodは182mm角セルで25.4%の世界最高効率をそれぞれ実現している。

n型TOPConモジュール(Jolywood)
n型TOPConモジュール(Jolywood)
 主要PVメーカー各社はTOPConに対応した生産設備の整備を進めているが、量産はJolywoodとJinko Solarが先行している。Jolywoodの生産能力は21年が3.9GWだが、22年にはさらに8GW増強する計画。Jinko Solarも22年に11.5GWまで生産能力を拡大する。さらに、Hanwha Q Cells、Trina Solar、RECなどが量産しており、Tongwei、JA Solar、LONGi、Chintなども参入を検討している。

 TOPConのグローバル生産能力は21年が10.4GWだが、22年には37.4GW、23年には80.7GWまで増えるとPV InfoLinkは予測している。

(4)ソーラーフロンティア、CIGSの生産終了

 出光興産の子会社でCIGS太陽電池を生産するソーラーフロンティアがCIGSの生産終了を発表した。主力の国富工場(宮崎)での生産は22年6月末で終了し、今後は結晶SiモジュールのOEM調達にシフトし、次世代のシステムインテグレーターとして再出発するという。

 日本企業はPV黎明期に世界市場を牽引し、シャープは00年以来、7年連続でPV生産世界トップに君臨した。シャープのほか、京セラ、三洋電機(現パナソニック)、三菱電機は生産上位の常連で、ピーク時には日本のシェアは50%を超えていたが、その後、中国勢との競争についていけず、生産規模の縮小が続いている。

 20年3月に三菱電機がPVの生産から撤退し、パナソニックも22年3月でPVの生産を終了するが、ソーラーフロンティアも生産継続を断念した。ただ、軽量CIGSモジュールや超高効率タンデム型PVといった次世代PV技術の開発は続けている。高付加価値のCIGS技術を開発することで、宇宙やEV、ドローンなどの用途開発を目指している。

(5)日本がPV主力電源化

 21年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」では、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要と位置づけているが、なかでも、50年のカーボンニュートラルを実現するため、再エネの主力電源化に最優先で取り組む。

 PVについては、FIT/FIP制度における入札制度の活用や中長期的な価格目標の設定などで一層のコスト低減を図るほか、建物の壁面や耐荷重の低い屋根にも設置できる次世代PVの研究開発および社会実装を加速する。

 30年度のエネルギーミックスとして、再エネ比率を従来の22~24%から、36~38%に大幅に引き上げているが、PVについては、従来(7%)から倍増(14~16%)する計画。なお、現在取り組んでいる再エネの研究開発の活用・実装が進んだ場合は、38%以上の導入が期待できるとしている。

(6)モジュールの出荷競争加速

 PVモジュールの出荷競争が加速している。LONGiは20年に23.9GWを出荷し、Jinko Solarを抜いて出荷トップに立ったが、21年は45GWを計画している。16年から4年連続で出荷トップだったJinko Solarは、20年は18.7GWにとどまったが、21年の出荷は23~24GWまで回復する見通し。そして、22年は前年比5割増の35GW前後の出荷を計画している。Canadian Solarも21年は前年比7割増の18~20GWを計画している。

 PVメーカー各社は、出荷量の拡大およびサプライチェーンの強化を図るため、生産能力増強やポリSiメーカーとの協業を進めている。21年末のモジュール生産能力は、LONGiが65GW、Jinko Solarが45GWで、Trina Solarは21年末のセル生産能力が26GWになる。
 Jinko Solarは21年にポリSiメーカーのTongweiおよびXinte Energyとの協業を発表した。出資や投資で連携することで、原料の安定確保を図るのが狙いだ。Trina SolarもTongweiと合弁事業契約を締結している。共同でプロジェクト会社を設立し、ポリSi、インゴット、セルの各プロジェクトに投資するという。

(7)欧米も生産投資活発化

 PVの生産・出荷は中国企業が上位を独占しているが、欧米のPVメーカーも増強投資を加速している。Meyer BurgerはドイツにSHJ(ヘテロ接合型)のセル&モジュール工場を建設し、21年6月から生産・出荷を開始したが、27年までに各7GWまで生産能力を拡大する。さらに、米国アリゾナ州にもモジュール工場(22年末稼働)を建設する計画を発表した。

 First Solarは米国とインドに3.3GWのCdTeモジュールの新工場を建設する。投資額は合計13億ドル以上で、いずれも23年の稼働を予定している。Maxeon Solarも米国にPVの新工場(1.8GW)を建設する。米国内で建設場所を選定中で、早ければ23年の稼働を予定している。

 Hevel Energy Group(ロシア)はノヴォチェボクサルスク(チュヴァシ共和国)でSHJセル&モジュールを生産しており、20年3月に生産能力を340MWまで引き上げた。Swiss Solar(スイス)はPERC、ハーフカット技術、182mmおよび210mmの大型セル、MBBを用いた高出力モジュールをラインアップしており、ドイツに新工場を建設する計画で、22年内には生産能力を1.5GWに拡張する。

 Valoe Oyj(フィンランド)はIBC(バックコンタクト)セルをSono Motorsの電気自動車(EV)に供給しているが、passivated contacts技術も開発している。リトアニアとフィンランドに工場があり、21年に3000万ユーロの資金を獲得し、車載用PVの開発を加速する。Tube Solar(ドイツ)は円筒型PVモジュールを開発・製造しており、19年から主に農業分野向けに販売している。21年9月にAscent Solar Technologies(米国)との協業を発表し、PSC/CIGSタンデムセルの開発に取り組む。

(8)インドのReliance、欧州企業に投資

 インド最大の民間企業であるReliance Industries(ムンバイ)が、欧州のPV企業への投資を加速している。21年10月には、RECグループ(ノルウェー)およびNexWafe(ドイツ)への投資計画を相次ぎ発表した。

 RECは本部機能と生産拠点がシンガポールにあり、PVモジュールの年間生産量は1.8GWで、19年末の累積販売量は10GW。近年はSHJ(ヘテロ接合)やTOPConといったn型技術に注力しており、21年7月には、第2世代のn型TOPConセルを用いた新型PVモジュールを発表した。Reliance Industriesは100%子会社であるReliance New Energy Solar Limitedを通じて、RECの全株式を取得し子会社化した。

 NexWafeは15年の設立で、カーフレス・ウエハー技術を活用したエピタキシャル単結晶Siウエハーの開発に取り組んでいる。Reliance New Energy SolarはNexWafeに戦略的な投資を行うことを決め、NexWafeは獲得した資金を活用して、ドイツ・フライブルクにあるパイロットプラント(5MW)において、カーフレス・ウエハーの量産技術を開発する。さらに、Reliance Industries Limitedは、NexWafeの技術を活用して、インドにGW規模のカーフレス・ウエハーの工場を建設する計画を持っている。

(9)原料不足でモジュール価格上昇

 長期トレンドではコスト低減が進むPVだが、21年はモジュール価格が上昇した。VDMA(ドイツ機械工業連盟)の調査によると、モジュールの平均スポット価格は20年の0.21USD/Wに対し、21年は0.26USD/Wまで上昇した。なお、21年10月の平均モジュールコストは0.25USD/Wとなっている。

 モジュール価格上昇の最大の要因はポリSiの価格急騰だ。Jinko Solarの分析によると、21年は封止材のEVAやスズ、アルミ、銅といった金属の価格も上昇したが、ポリSiの価格急騰が最もインパクトが大きかった。中国では、ウエハーの需要増やポリSiの原料となる金属Siの価格急騰などで、ポリSiの価格は直近1年半で4倍以上跳ね上がった。なお、中国・雲南省は金属Siの主要産地だが、電力制限で21年9月以降の生産量が激減したという。

 ポリSiの生産能力はウエハー、セル&モジュールの生産能力を大きく下回っていることから、ポリSiの供給不足は22年以降も続くとPV InfoLinkは予測している。

(10)透明PVが商業化

 都市部でPV導入を拡大するための新技術として、窓と一体化した透明PVが注目されている。透明PVの研究は20年前から始まっており、これまでに無機材料(酸化物)や有機材料を用いた透明PVが報告されている。PSCも透明化技術の開発が活発化しており、NREL(米国立再生可能エネルギー研究所)や米ローレンス・バークレー国立研究所が太陽の熱で色が変わり、発電も行う「サーモクロミック・ウインドウ」を開発している。

 透明PVは一部で商業化も始まっている。NTT-ATはinQsが開発した透明PVを活用した発電ガラスの販売を21年9月から開始した。商品化の第1弾として、海城学園のサイエンスセンター(理科館)に発電ガラスを導入した。また、ENEOSと日本板硝子は、米Ubiquitous Energyが開発した透明PVを用いた発電ガラスの実証実験を開始。今後1年かけて、発電性能や遮熱効果などを検証するが、事業化も予定している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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