電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第468回

「日本株の買われない真相は実質金利高止まり、時代変化に対応できず」


伝説の辣腕ファンドマネージャーの大竹愼一氏の言葉は鋭い

2022/2/4

 「日本の実質金利が高い状況が続いている。実質長期金利は日本が-0.07%、中国が0.94%、米国が-0.95%となっている。欧州勢を見ても、イギリスが-1.01%、フランスが-1.05%、ドイツが-1.93%となっており、日本だけが実質金利高止まりとなるために、経済が低迷するのだ。民間企業にももちろん問題がある。しかし何としても、日本銀行の黒田総裁の責任は、本当に重いと思えてならない。はっきり言って、超失望している」

 静かに淡々とではあるが、眼光鋭く、きっちりこう語るのは、米国のウォール街の辣腕ファンドマネージャーとして国内外に知られる大竹愼一氏である。何しろ欧州の資産家を中心に総額1000億円をたった一人で運用するのであるからして、とんでもない人物なのだ。

 大竹氏は東京都生まれ、一橋大学大学院を終了後、旧三井銀行系の金融経済研究所を経て、ドイツのケルン大学、イギリスのロンドン大学へ留学する。帰国後、野村総合研究所でエコノミストとして活躍する。その後は、ロンドンのチェースインヴェスターズでファンドマネージャーとなり、市場原理に基づく合理的な投資方法によって抜群の成績を上げ、一躍注目を集めることになる。現在は、オオタケ・ウリザール&コーポレーションをニューヨーク郊外に設立し、代表取締役社長として活躍している。

 実績が数字で残るという厳しい投資の世界にあって、欧米ファンドのグローバル株部門で1984年以降、例外的な年を除き、17年にわたりトップクォーター(成績上位4分の1)の驚異的な成績を上げる。徹底した現場主義を貫き、日米欧の各地を歩き回り、常に金の流れと企業情報を収集している。大竹氏がこの20年間に訪問した会社数は延べ1000社を超えるのだ。

 大竹氏によれば、世界的なインフレが始まっているのに、企業にはまったくと言ってよいほど危機感がない。ましてや金融をコントロールする日本銀行には、それ以上に危機感がなく、いわば放置プレーとなっている、というのだ。原油・資源価格の上昇で、国内物価指数は21年3月から上昇し、同年11月には前年比9.2%増となった。これだけ物価指数が上がれば、必然的に円安が進行する。21年1月には1ドル104円であったものが、その1年後の22年1月には1ドル116円まで上昇し、極端な円安が懸念されている。

 円安が進めば、輸入価格が上がるわけであるから、企業のコストを圧迫する。そして物価が上がれば、ただでさえこの20年間賃金がほとんど上昇していない労働者にとっては、実に困ったことになるのだ。すなわち、経済が動かず、回っていかない。不景気になるばかりなのである。

伝説のファンドマネージャー、大竹愼一氏の言葉は鋭い
伝説のファンドマネージャー
 大竹愼一氏の言葉は鋭い
 「こうした状況があるにもかかわらず、黒田日銀は動かない。利上げについて完全否定している。この姿勢が、日本経済に与える負のインパクトは限りないとさえ言えるのだ。そしてまた、失われた日本の30年はすべてバカ社長の責任であると言ってよい。今においても、インフレから利上げの年へと大きく時代が変わろうとしている。そういう時代の変化が、彼ら日本企業の社長連にはまったく見えていない。世界の金利が上がるのを能天気に見て構えていれば、ひどいことになるのだ」(大竹氏)

 大竹氏が机をたたいて日銀のスピードの無さや世界観の無さを嘆く中で、1月14日、韓国中央銀行は政策金利を1.00%から1.25%に引き上げた。この利上げは仕方がないのだ。ウォン安に歯止めがかからず、輸入物価が上昇し、インフレ圧力が強まるばかりであるからして、これに歯止めをかけなければならないと考えたのだ。韓国の今年における消費者物価指数は3%を上回る状況が続いていくと目されているが、韓国政府はただちに動いたのだ。ああそれなのに、日本政府および日銀は、まったくもって動きを見せないのは、どうしたことなのであろうか。

 「ちなみに私は、消費税には大反対である。このことで、個人消費は劇的に落ち、日本のGDPもとんでもなく激落した。野党は消費税反対を言っているが、国民は本当にこれを認識していない。考えていない。困ったものだ。モノの需給で価格が決まるのではない。金の需給ですべてが決まるのだ。個人消費を上げない限り、どんなことをしても日本の景気は回復しない。そしてまた、賃金を劇的に引き上げない限り、日本がもう一度世界ステージに戻ってくることはないだろう」(大竹氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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