電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第470回

ニッポンの電子部品が一大跳躍する時代が始まった!!


売り上げは国内半導体を上回り9兆円乗せ、IC内製化も推進

2022/2/18

 何ということもない人であるが、いないと困ってしまうことはよくあるのだ。山椒は小粒でピリリと辛い、という言葉もある。いつも影のように寄り添っているが、大切な存在というものもある。

 エレクトロニクスの世界でそうした存在であるのが、ニッポンの電子部品なのである。半導体のように、世間で大いにもてはやされることはないが、自動車にせよ、データセンターにせよ、一般家電にせよ、パソコン・スマホは言うに及ばず、電子部品がなければどうにもならない、ということは紛れもない事実なのである。

 半導体がないから自動車が作れないという声は巷に溢れている。そしてまた、半導体がないから医療機器が作れず、たいへん困っているという情報も耳に入る。しかし、今の部品や材料不足は、半導体だけではない。ネジや釘とも言われるようなものがなくて、困っていることは実に多い。ある装置メーカー大手の幹部が、机を叩きながらこう怒鳴っていたことを思い出す。

 「コネクターがなくて、2億円の装置が作れない。何と言うことだ。信じられない」

日本航空電子工業の車載エアバッグ用コネクター(同社プレスリリースより)
日本航空電子工業の車載エアバッグ用コネクター(同社プレスリリースより)
 さて、一般電子部品と言われるジャンルは、非常に幅広い分野にまたがっている。花形とも言われるのが、積層セラミックコンデンサー(MLCC)であり、現在のエンジン車であれば1台につき700個くらいしか搭載していないが、これがEVになれば1万個に激増するというのだから驚きである。その他でも、アクチュエーター、センサー、コネクター、抵抗器、水晶デバイスなどバラエティーに富んでいる。

 世界の電子部品のマーケットは約30兆円であり、半導体の世界市場60兆円に対し、約2分の1という地位を占めている。半導体における日本企業の世界シェアはいまや9%を切っており、誠にもって情けないという他はない。しかして、ニッポンの電子部品企業の世界におけるマーケットシェアは約3分の1を占有しており、滅法強いということを一般の方々はもう少し強く認識する必要があるだろう。

 ちなみに、電子部品メーカーはここに来て、半導体内製化の動きを強めている。中でも一番アドバルーンを上げているのが、日本電産である。元ルネサスの幹部であり、後にソニーの幹部に転じた人をかの永守氏はスカウトして日本電産の幹部に加えた。技術部門のトップであり、なおかつ半導体分野のリーダーとして手厚く迎えたのである。そしてまた、記者団の質問に対し、永守氏は、「いまや半導体強化は電子部品業界にとっても重要なことだ。パワー半導体については自社開発そして企業買収も考えている」とコメントしたと聞いている。まさにサプライズな発言である。

 2023年度に売上高2兆円を目指すという電子部品大手のTDKもまた、石黒成直社長が電子デバイス産業新聞のインタビューに応えて、こう語っているのだ。

 「どうしても必要なICは自社で内製化している。ICは独自設計して、製造はファンドリーに生産委託している。回路設計も自社で行うことで差別化が図れる。いまやICと電子部品は一体で開発する時代に突入している」

 同じく大手のアルプスアルパインの栗山年弘社長もまた、ICの内製化はすでに数年間にわたってやっており実に重要なことだ、と述べている。積層セラミックコンデンサー(MLCC)の世界最大手である村田製作所も、かつての日立製作所の小諸分工場を傘下に加えている。この工場は数多くの半導体モジュール製品を作ってきたが、現時点で小諸村田製作所に名前を変え、高周波モジュール、パワーモジュールなど半導体関連の製造出荷に注力しているのだ。

 考えてみれば、部品内蔵回路基板という概念が出てきた時に、プリント配線板とICの一体化というミラクル技の確立に日本の大学および企業は注力してきた。電子部品の進化形はやはり半導体を取り込むことにあるのだ。

 2021年度における国内電子部品メーカーの設備投資額は、ついに1兆円を超えてきた。そしてまた、国内半導体メーカーの生産額が6兆円弱という水準にあるのに対し、国内電子部品メーカーの生産額は9兆円を超えており、半導体をはるかに凌いでいる。このことを一般国民に認知してもらい、「ニッポン電子部品の存在感」をもっともっと世界に喧伝していくべきだ、と筆者は切に思うのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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