電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第473回

大局的な歴史感で見れば、国家間の覇権争いは常に存在している


しかしてSNSとスマホだけで戦うウクライナの凄さは時代の象徴

2022/3/11

 新型コロナウイルスの収まりはなく、ウクライナ戦争に強い驚きを覚えて、近場の銭湯に癒されに行ったら、かなり若い人たちが物知り顔でこんな会話をしていた。

 「イギリスのジョンソンの髪の毛は、何とかならないのかよ。ボサボサで見苦しい」

 「ジョンソンは正義面をして、ひたすらロシアを糾弾しているけれど、イギリスだって昔はさあ、世界にいっぱい植民地をもって君臨していたじゃないの」

 「そうそう、スペインの無敵艦隊を破ってからは、行くところ敵なし。アジアでは、インドだって、シンガポールだって、香港だって、みんなイギリスのものになっちゃったんだぜ」

 「産業革命でいち早く抜け出したことが大きいね」

今はひたすら「世界平和」を希求する日本もアジアに覇をとなえたことがある。
今はひたすら「世界平和」を希求する日本もアジアに覇をとなえたことがある。
 こんな会話を聞いていたら、大局的な歴史感でみれば、国家間の覇権争いは果てしがないことがよくわかるのだ。マクロンにしてもプーチンの聞き役をつとめているが、フランスだって、かつてナポレオンの時代には全ヨーロッパを支配する勢いであり、ロシアまで進撃するという“暴挙”を断行していた。ドイツは悪名高きヒトラー率いるナチスの時代には、領土を一気に拡大し、ユダヤ民族を大虐殺するという非道なことをやっていた。

 我が国ニッポンにあっても、パールハーバーで米国の連合戦隊をたたきつぶした時点では、韓国、台湾そして中国のかなりの地域を支配下に置くという状況であった。南方作戦で、タイ、シンガポールも手に入れた時にはアジア全土の約三分の一が日本の日の丸がたなびくところになっていたのだ。決して、今回のウクライナ戦争を怜悧に語れる立場ではない。ただ唯一の被爆国として核戦争絶対反対を常に世界に向かって叫び続ける必要はあるだろう。

 2022年という段階にあっても、領土欲しさの意図を露わに、プーチンは国際法を公然と破ってウクライナに侵攻した。大儀のない戦争であり、罪のない人たちが次々と殺戮されていくことには悲しみと怒りを感じざるを得ない。しかして、プーチンが机を叩いて、「それなら、アメリカのイラク戦争、ベトナム戦争はどうなっているんだ。フセインまでぶっ殺して正義の味方といっているが、多くの市民を犠牲にしただろう」と言ってのけ、今回のことを正当化しようとしている。

 結論としては、世界各国の圧倒的多数がウクライナ戦争を支持しておらず、国連決議においてもプーチン止めるべし!との意見が圧倒的であったわけだから、ロシアの言い分は今は全く通らない。

 ところでアメリカがイラクを叩いた湾岸戦争の始まった日は、1991年1月17日のことであったが、その頃はくしくもわが産業タイムズ社が『半導体産業新聞』(現在の電子デバイス産業新聞)を発刊しようというメモリアルな日々であった。米軍のイラク侵攻のニュースをラジオで聞きながら、最終校正をしていたことをよく覚えている。

 あの当時にあっては、新聞とテレビの報道に頼るしかなく、リアルタイムにしかもライブの映像を今のように観られるということはなかったのだ。そしてまた、一握りのジャーナリストだけが報道の特権を振りかざして得々としていた時代でもあった。

 ところが、今日にあっては誰もが映像を写し込み、世界に発信できるという状況が日常のものになった。ある評論家がウクライナの善戦を評価して次のように言っていた。

 「ウクライナはSNSとスマホで戦っている。ロシアはひたすらアナログであり、古めかしい軍事力だけで戦っている」

 まことに言い得て妙であるといえよう。もちろん、ウクライナは何としても国を守るというスピリッツで戦っており、ロシア軍は何のために戦うかがわからず、ただ、命令だけで銃弾を打っている。この差は大きい。ウクライナが世界を味方につけたのは、その情報発信力であり、世論づくりの巧みさであり、何よりも半導体技術を駆使したハイテクの力をよく知っていることが、最も大きな要因といえるであろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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