電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第483回

傳田信行氏はまさに半導体業界のレジェンドともいうべき人だ!


40歳でインテル副社長に就任したミラクル、4004で健康を守る離れ技

2022/5/27

 「インテルが開発したマイクロプロセッサー4004は世界の半導体の歴史を塗り替えてしまうほどのインパクトであった。それまでのマイコンはそれぞれに専用回路で作られており、互換性に乏しい。しかして、4004はソフトウェアを変えるだけで、どんなものにも対応できる夢のマイコンであったのだ」(傳田氏)

 眼光鋭く、しかして笑顔を絶やさずその人はこうつぶやいた。40歳にして、いまや世界最強の半導体企業となったインテルのVP(副社長)就任という伝説を作ったその人の名前は傳田信行氏という。

半導体業界のレジェンド、傳田信行氏は今だにお元気!!
半導体業界のレジェンド、
傳田信行氏は今だにお元気!!
 最近になり、とある商社の人を通しておそらくは20年ぶりくらいに筆者は傳田氏にお会いしたのである。非常に驚いたのはとにもかくにも傳田氏の昔日のパワーはまったく衰えていなかったことだ。頭脳も明晰であり回転力も早い。そして信じがたいことに傳田氏はいまだ現役であり、岡山大学の中にベンチャー企業を立ち上げてきたというからビックリものであったのだ。

 「ウィリアム・ショックレーがトランジスタを開発し、そのうちフェアチャイルド社が設立され、さらにインテル社が誕生する。シリコンバレーの草創期の話である。インテル創業者のロバート・ノイス(博士)、ゴードン・ムーア(博士)両社長兼CEOのもとで働き、そしてのちに4代目の社長兼CEOとなるクレイグ・バレット博士にも仕えたが一番多くの時間を過ごしたのが3代目のアンドリュー・グローブ(博士)社長兼CEOである。この半導体におけるビッグパーソン4人のもとで一緒に仕事をした唯一の日本人が私なのである」(傳田氏)

 いささか胸を張って、こうつぶやいた傳田氏であるが、レジェンドとしての実績は隠さないものの周りの人にはいつも優しく、しかも目下の人にも温かく接している。いつでもフレンドリーな人であり、人望も厚い。筆者は、インテルの情報を聞くためにどれだけ傳田氏にコンタクトを取ったか数知れない。インテル社は情報に対してはノット・オープンなカンパニーであり、なかなか教えてくれない。そんな時にも傳田氏はギリギリともいうべき情報を筆者にくれたのである。

 傳田氏は世界初のマイクロプロセッサーともいうべき4004の時代からインテルにかかわっている。日本国内での販売についても凄まじい勢いで進めていった。現在では、パソコンの中にも、データセンターのサーバーの中にも、インテルのマイクロプロセッサーはトップシェアをもつブランドとして圧倒的に多く使われている。しかしながら、日本におけるファーストブレークはなかなか難しかった。

 「4004を使ってもらうためであればなんでもやった。一番はじめにブレークできたのは日本勢が力をもっていた電卓である。そして、量産出荷という点でメモリアルだったことは東芝の子会社の東京電気に売り込めたことである」(傳田氏)

 当時70年代のレジスター(現在はPOSターミナルと呼ばれているが)は圧倒的なシェアを持っていたのがアメリカの会社の機械式。ところが、当時はこのレジスターを打ち込むのが大変で、様々な店舗で働く人は腱鞘炎にかかってしまうことが多かった。なんとかして、これに歯止めをかけたいという思いがインテル側にも東京電気側にもあった。そこで登場したのが4004である。このおかげで、お店で働く人々は腱鞘炎から救われることになったのであるからして、4004は健康を守るデバイスとなったのである。

 「一時代前のテレビの宣伝であるが、インテル・インサイドというキャッチコピーがメガヒットとなった。日本語でいえば「インテル入ってる!」というものだ。電機メーカーが、テレビやパソコンやゲーム機などさまざまな電子機器をテレビで宣伝する際にあなた方の使う機器の中にはほとんどといってよいほどインテルの頭脳(CPU)が入ってるんだ、というキャンペーンは強烈であった。一世を風靡した」(傳田氏)

 このキャンペーンの最初のアイデアは日本からだ。日本で考えたIntel in itの言葉は電通との共同プロジェクトから生まれたものである。日本におけるこのキャンペーンの成功を見て米国本社もこれに飛びついた。「どんなものの中にもインテルが入っているんだよ」というイメージはブランド力を高める一方で、多くの消費者の胸に飛び込んでいったのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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