電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第456回

成長持続を目指す電子部品業界


セット頭打ちのなかどう稼ぐか

2022/6/10

 3月期決算企業の2021年度実績および22年度計画が出揃った。電子部品業界は21年度にコロナ禍からの回復や自動車電動化の加速などによって軒並み高成長を記録し、過去最高業績の更新も相次いだ。

 22年度も成長持続を狙う構えだが、長期化する部材調達難や原材料価格の高騰など市況の不透明感が強まっている。加えて、これまで成長を牽引する存在だったスマートフォンや自動車といった主要セットの販売台数は鈍化が予測されているため、成長実現に向けた困難は増すだろう。いかに成長領域を抑えて事業拡大を図っていくかがこれまで以上に問われることになる。

日本電産、村田製作所、太陽誘電が過去最高業績

 21年度は下期に半導体不足、コロナ禍に起因する市場の減速があったが、電子部品メーカー各社は概ね高成長を達成した。コロナ禍で落ち込んだ反動はあったものの、それだけが高成長の要因ではない。本稿で取り上げた7社のうち日本電産、村田製作所、太陽誘電が過去最高業績を達成したことがその表れだ(TDKは受動部品事業のみ。全社ベースでは過去最高)。

 コロナ禍以降の自動車の電動化加速や5Gスマートフォン市場の拡大、リモートニーズの高まりによるPCやタブレットの伸長といった要素が重なり、ほとんどの市場において部品需要が好調だった。下期にコロナ禍で減産となった自動車の中心は化石燃料車であり、電動車へのシフトが加速したことは逆に電子部品業界にとっては有利に働いた。下期から年度末にかけて半導体をはじめとした部品不足、部材価格や物流費の高騰といった不安要素が顕在化していったが、21年度の業績においてその影響はプラス要素によってカバーできたといっていいだろう。


22年度はセットの頭打ちが課題

 22年度は各社ともに10%前後の成長を目標に掲げている。ただし、市場の先行きの不透明感が増すなかで難しい舵取りを迫られている。長引く部品調達難に上海のロックダウンが重なり、スマホ市場では中国メーカー製品の回復遅れが見込まれる。ロックダウンは6月1日に解除がアナウンスされたが、サプライチェーンの正常化には時間を要する見込みだ。現状、7月以降に正常化が進んだとしても22年度のスマホ市場はほぼ横ばいになる見通し。

 そんななかで成長が見込めるのは5Gスマホの増加であり、5G関連部品が収益源となる。5月下旬には米アップルのiPhone次期モデルの生産遅れ観測が報じられ、ハイエンドスマホにおいても先行きの懸念が強まりつつある。

 自動車市場も上海ロックダウンなどの影響で減産の継続が懸念されており、台数の回復が進まない可能性が出ている。ただし日系自動車メーカーが本格的に電気自動車(EV)の投入拡大を打ち出すなど電動化はむしろ加速しており、こちらは電子部品需要にはポジティブに働くだろう。電動化に加え、ADASに代表される安全性向上を目的としたシステムや自動運転技術の向上も引き続き継続し、部品需要を押し上げると目される。

 一方、コロナ禍のなかで20、21年度とプラス成長してきたPC、タブレットはマイナスに転じそうだ。リモート需要が一巡したことに加え、世界的にポストコロナへの動きが本格化することで特需的な伸びが今後は見込めないためだ。ただしリモート需要が完全に消滅することはなく、今後も一定の需要は続くだろう。

利益落ち込むも投資にアクセルを踏む日本電産

 ここからは主要メーカー各社の動きに目を向けたい。4月に永守重信会長がCEOに復帰して話題となった日本電産は、21年度下期に車載事業を中心とした利益率低下に見舞われた。原材料価格の高騰が原因で、製品価格への転嫁と原価低減を進めて22年度に回復を図る方針だ。

 一方で、成長に向けた投資を緩める気配はない。注力する車載事業、なかでも基幹製品に位置づける電動車向けのトラクションモーター「eAxle」は、積極的な増産投資を打ち出している。5月には中国浙江省の平湖市において、eAxle事業としてはグループ最大の旗艦工場の建設を発表した。同社は22~24年度に合計で約3000億円をeAxleの増産に投じる計画で、中国と欧州で増強を進めている。25年以降の本格的な市場成長フェーズに向けていち早く他社を圧倒する供給体制を構築する構えだ。

平湖のeAxle新工場完成予想図
平湖のeAxle新工場完成予想図
 また、自社製品に搭載する半導体の内製に向けて、川崎市の研究所内に専門組織を立ち上げた。外販は予定していないが、同社が本格的に半導体事業に乗り出せば大きなインパクトになると予想され、今後の動きが注目される。

MLCC中心に増産続ける村田製作所

 村田製作所は旺盛な需要が続く積層セラミックコンデンサー(MLCC)が成長を担い、年率10%の増産ペースを維持する。インダクターやリチウムイオン電池(LiB)も需要が好調で、積極的に増産する考えだ。一方でスマホ用の高周波モジュールは仕込みの時期に位置づける。主要顧客向けのシェアがダウンしているが、次世代向けの差異化技術の採用を進めて23年度以降の巻き返しを図っている。

島根県に建設する村田製作所のMLCC新工場(左)
島根県に建設する村田製作所のMLCC新工場(左)
 村田製作所と同様に、MLCCやインダクターを成長の軸に据えているのが太陽誘電。MLCCは国内外で新工場の建設を進めており、年率10~15%程度の増強を図っていく計画だ。インダクターも自動車やスマホ、産業機器など広範な分野で需要が伸びており、能力増強を計画する。

TDKは受動部品以外も成長

 TDKでコンデンサーやインダクティブデバイスなどを手がける受動部品事業は、自動車や産業機器向けに注力して成長を遂げてきた。だが、それ以外にも近年M&Aなどで育成を図ってきたセンサー事業が21年度に黒字転換したことに加え、HDD事業もデータセンター用が好調だ。電池事業はスマホ向けでトップシェアを持つほか車載事業で中国CATLと合弁事業を展開することが決まっており、非常に広範なアプローチでさらなる成長を図っていく。

 攻め手の再構築では京セラも注目される。20年に連結子会社だった米AVXを完全子会社化したのを皮切りに、グループの電子部品事業の一体化を加速させている。これまで大手の競合と比べると見劣りしていた成長率も高まっており、グループシナジーの創出でさらなる成長を達成したい考えだ。

アルプス、日本航空電子も車載・産業を軸に成長へ

 アルプスアルパインは22年度からセグメントを再編し、「コンポーネント」「センサ・コミュニケーション」「モジュール・システム」の3事業に区分を変更した。これまで分立していた電子部品と車載機器事業を整理し、成長エンジンや収益改善事業といった位置づけを明確にした。また、3分野を融合したソリューション展開も図っていく見通しだ。

 コネクター大手の日本航空電子工業は、携帯機器・自動車・産業機器市場それぞれで成長を目指す。5Gや電動車、ロボットといった各市場で求められるニーズに即したコネクターを投入し、シェア拡大を図る。タッチパネルやセンサー事業においても、自動車や産業機器を注力市場に位置づけて展開していく。

 このように市況そのものの見通しは不透明であるが、電子部品メーカー各社の積極的な姿勢には変わりはない。それは一時的な踊り場があったとしても、中長期的には5GやEVなどの成長は続くと目されているからだ。部材価格高騰などのリスクを跳ねのけ、電子部品がさらなる飛躍を遂げることに期待したい。

電子デバイス産業新聞 副編集長 中村 剛

サイト内検索