電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第457回

今度こそ動き出すか、インド半導体工場プロジェクト


「自立したインド」実現の試金石に

2022/6/17

 半導体不足が世界的な問題となるなか、国家レベルの支援策が広がりをみせている。そのなかでインドにおける半導体の国産化や内製化に向けた取り組みも急速に加速している。

 その理由の1つが、インド政府が2021年末に発表した電子産業(半導体およびディスプレー)の誘致・育成を図る産業振興策。半導体とディスプレーメーカーの工場新設に対して投資コストの最大50%、化合物半導体や半導体パッケージの工場など施設の新設に対して投資コストの最大30%の財政支援を行うことなどが含まれている。

3件のプロジェクトが浮上

 インドでは、前述の産業振興策において7600億ルピー(約1兆2700億円)の予算を計上しており、半導体分野では、①EMS大手のフォックスコンとインドの大手資源会社であるVedantaの合弁会社、②8インチのCMOSファンドリーを運営するシンガポールの投資会社IGSSベンチャーズ、③半導体コンソーシアムであるISMCの3社が計画を申請している。

MOUを締結したISMCやカルナータカ州などの関係者(ISMCのホームページより)
MOUを締結したISMCやカルナータカ州などの
 関係者(ISMCのホームページより)
 そして、5月にISMCが、インドのカルナータカ州とMOU(覚書)を締結した。同州に65nmプロセスを活用したアナログ半導体工場を整備する計画で、設備投資額は2290億ルピー(30億ドル)を予定している。ISMCは、投資会社のネクスト・オービット・ベンチャーズ(NOVF、アラブ首長国連邦)と、スペシャルティーファンドリーのタワーセミコンダクターによる半導体コンソーシアムで、プロジェクトの初期資金をNOVFが提供し、技術面はタワーセミコンダクターが主導する。

 ISMCは、カルナータカ州に、同州マイソールのコチャナハリ工業地の敷地60万7000m²を求めており、インド政府の承認が得られれば、中央政府のインド半導体ミッションのもと進められるインド初の半導体製造拠点となる。カルナータカ州は「半導体工場誘致に向けた各州の競争のなかで、このMOUは重要な合意である。カルナータカ州は、特別にカスタマイズされたインセンティブパッケージにより、最も有利な投資先として注目されている」とし、「現在の地政学的な状況から、インドは国内で半導体製造のためのエコシステムを構築する必要があり、カルナータカ州は、電子チップ設計産業における強固なエコシステムを持つため、その利点を十分に活かすことができる。製造施設はこの分野の成長に拍車をかけることになるだろう」とコメントした。

14年に計画が浮上も実現せず

 実はインドでこうした動きが出るのは今回が初めてではない。これまでに同じようなプロジェクトが立ち上がり、実現してこなかった。

 少々古い話になるが、インド政府は、12年に国家電子産業政策を発表している。インド国内で製造を検討する電子機器関連メーカーに補助などを行うもので、同分野において20年までに1000億ドルの投資を呼びこみ、2800万人の雇用、4000億ドル規模の電子機器市場創出を目指すというものだった。

 その政策にあわせて、2件の半導体工場計画が浮上。1つは、インドでインフラ事業を手がけるジャイプラカシュ・アソシエイツ(Jaiprakash Associates)が主体となり進められたプロジェクトで、米IBM社やタワーセミコンダクター社も参画し、ウッタル・プラデーシュ州のグレーターノイダに、月産4万枚の半導体工場を整備するというものだった。

 もう1つはHSMC社(Hindustan Semiconductor Manufacturing Company)が主体となったプロジェクト。同社は米シリコンバレーのインド系ベンチャーキャピタリストらが設立した半導体会社で、プロジェクトにはHSMC社に加え、STマイクロエレクトロニクスとシルテラが参画し、グジャラート州プランティジに月産4万枚の半導体工場を整備するというものであった。しかし、商業的実現性の低さやインフラの問題などにより、いずれのプロジェクトも実現しなかった。

インドの経済成長のポイントに

 インドでは、モディ首相が就任した14年から「メイク・イン・インディア」という製造業振興のスローガンを掲げている。そして、20年には「Self-Reliant India」(自立したインド)という「メイク・イン・インディア」の強化版ともいえる方針を示し、GDPに占める製造業の比率を25%に引き上げることを目指すなど、国内製造業を強化する方針を明確に打ち出している。その成果として、インドにおける製造業のGDPは増加し、フォックスコンがインドにおける生産を強化するといった事例も出ているが、GDPに占める製造業の比率でみると、14年度の16.3%から20年度時点で約17%とほとんど伸びていない。

 その一方、インドの貿易赤字は拡大しており、21年4月~22年3月における貿易赤字は約1924億ドルに達した(20年4月~21年3月の貿易赤字は1026億ドル)。特に深刻なのが中国に対する貿易赤字で、21年4月~22年3月の貿易赤字は729億ドルと全体の38%を占めた。

 その原因として長年指摘されていることが、半導体や電子機器などの中国依存が高いこと。その中国依存の脱却を目指して、電子産業、特に半導体産業の育成を目指してきたが、インドでは、半導体工場に必要不可欠な安定した電力供給や大量の水などインフラ面で課題がある。また、土地の取得に対する不動産登記の煩雑さ、政治の過度な介入、インド独特の商習慣、労働法によって労働者を過度に保護しているため新規採用が難しいことなどもあり、結果、これまで半導体メーカーの工場誘致はいずれも実現せず、現在も半導体などの電子部品の多くは外国からの輸入に依存している。

 今回のISMCなどのプロジェクトが、これまでの前例を覆し、インドで初の半導体工場につながるのか、それともこれまでと同じようになるのか。この成否が、高い経済成長率の継続が予測されているインドの重要なポイントになるかもしれない。

電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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