電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第459回

ICT/5Gが地域の医療と福祉を支える


認知症対応から遠隔手術まで

2022/7/1

 少子高齢化、過疎化が進むなか、医療、福祉業界においても、ICT(情報通信技術)の進展、5G、さらには6Gといった通信の高速・大容量化にかかる期待が大きくなっている。

 厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症が急拡大した2020年3月、時限的に初診の患者を含め電話や情報通信機器を用いた診療や服薬指導を可能とするオンライン診療に関する事務連絡を行った。この2年間余りのオンライン診療の利用状況は低調であるが、並行して、2年近くにわたり開催したオンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会の会議の成果として、22年1月には、オンライン診療の適切な実施に関する指針を一部改訂し、かかりつけ医による初診からのオンライン診療を制度化した。

 厚生労働省は、今後、「入院」「外来」「在宅」に続く、「第4の診療概念」とされる「オンライン診療」を、日本の医療システムに組み込むことで、医療リソースの効率的な活用、医療の地域格差の解消などを達成する目標である。

遠隔医療で画像診断や病理診断

 前述の検討会は、主に医師と患者(DtoP)のケースを想定して議論されているが、「遠隔医療」としては、ほかに、医師と医師(DtoD)の取り組みも進められている。

 このケースの場合、放射線画像やMRI画像を遠隔地の専門医が診断する「遠隔画像診断(テレラジオロジー)」、体組織の画像や顕微鏡の映像を送信して遠隔診断を行う「遠隔病理診断(テレパソロジー)」、在宅患児の家庭と複数の医師をネットワークで結び症例検討を行う「遠隔相談(テレコンサルテーション)」などがある。

 一例として、兵庫県は、瀬戸内海に面した南部に人口、医療機関が集積し、その一方、医療提供人口密度が低い郡部などでは医療機関も少なく、山間・離島などの僻地において医療の確保に多くの問題を抱えている。こうした地域の住民が安心して暮らせるよう、医療従事者の確保と地域医療の連携体制の構築が必要として、21年度に遠隔医療推進検討会で議論を重ね、推進に向けた基本方針を取りまとめた。県下では、DtoD遠隔医療を実施している病院は34%、実施していない病院が66%で、実施している病院の実施内容は遠隔画像診断(依頼側)が58%、次いでテレコンサルテーション・カンファレンス(依頼側)23%となった。

 その一方、未実施の理由として、「必要性がない(65~75%)」が多く、次いで「予算が確保できないため(8~9%)」、「人員を確保できないため(7%)」となっており、遠隔医療の必要性が十分に各医療機関に理解されていないことから、地域において果たすべき役割の明確化および効果などの周知が必要、初期の設備投資の費用負担や専門医の確保などの課題への対応を検討することが必要として、22年度から遠隔医療の実施に必要なコンピューターおよび付属機器などの購入費を補助する。22年度では、遠隔病理診断の支援側医療機関に計459万8000円、依頼側医療機関に計1419万8000円、遠隔画像診断および助言の支援側医療機関に計1639万円、依頼側医療機関1485万5000円、在宅患者用遠隔診療装置に825万円を計上した。今後、23年度補助に向けた要望調査を行う。

山口県、全国初胃カメラの遠隔指導

 山口県では県立総合医療センターと僻地医療機関(岩国市立美和病院)を5Gでつなぐ、胃カメラなどの操作支援を行う遠隔サポートシステムの実証実験を実施した。美和病院側で実際の患者に胃カメラを入れ、総合医療センター側のモニターにその画像を伝送、総合医療センターの専門医が画像をリアルタイムで観察しながら、気になる箇所をポインターで示し、助言を行う。美和病院の医師はその助言に基づき、胃カメラの操作を行った。実際の患者の通常診療に5Gとアノテーション機能(病巣の位置をポインターなどで特定)を取り入れた全国初の実証実験となった。

 さらに、厚生労働省では、オンライン診療の適切な実施に関する指針を19年6月に一部見直し、「情報通信技術を用いた遠隔からの高度な技術を有する医師による手術等」を指針に追加し、5G通信インフラが実現を後押しした。

徳洲会、hinotori手術ロボットで遠隔手術想定

 武蔵野徳洲会病院(東京都西東京市)は、21年11月から初の国産品「hinotori(ヒノトリ)サージカルロボットシステム」の運用を開始、南部徳洲会病院(沖縄県)は2月から同システムの運用を開始した。

手術支援ロボット「hinotori」
手術支援ロボット「hinotori」
 同システムは、川崎重工業とシスメックスの共同出資で設立されたメディカロイドが開発した手術支援ロボットで、日本の医療機器市場を鑑みて国産にこだわった。国内の医療機器業界の市場は安定的に成長を続け、1984年は1兆円に満たなかった市場が、17年には3兆円を超え、今後も拡大が予測されている。治療機器の成長率は高く市場規模も大きい。ただし、輸入比率(80%)が相対的に高く国産が劣勢であるが、日本の企業は伝統的にモノづくりのDNAを持ち、モビリティー(流動性)の高さがある。

 武蔵野徳洲会病院では、hinotoriを導入した第1の理由として、このモビリティーの高さを挙げている。たとえばアームは多関節で、アームとトロッカー(鉗子を挿入するための管)のドッキングが不要、日本人の体型にフィットしたロボットであり、また、運用支援、安全・効率的な手術室活用支援、手技の伝承・継承支援をAI(人工知能)が解析する「Medicaroid Intelligent Network System(インテリジェント ネットワーク システム)」(MINS)を備えている。

 第2の理由として、標準治療としてのロボット手術について、フロントランナーである米社製「ダヴィンチ サージカル システム」を使った手術件数は、米国で2桁成長を続けている。2000年代を牽引した前立腺や子宮の手術に代わって、10年代後半からは一般外科手術が新しい成長ドライバーとなった。日本でも置き換えが起こっており、すでに、ロボット手術は高度医療ではなく標準的医療といえ、同病院では標準治療を行うため導入する。

 さらに、第3の理由は徳洲会の理念に合致するからとしている。hinotoriは移動通信システム5Gを使い遠隔操作が可能となるよう設定されている。つまり、hinotoriが普及し離島・僻地の病院に導入され、遠隔操作で手術や指導を行うことが可能となる。徳洲会グループでは予定どおり2台を導入しており、武蔵野徳洲会病院では、当初より遠隔操作を意識した連携を進めていきたいとしている。

AMED、遠隔手術支援の研究課題を募集

 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)は、22年度「医療・介護・健康データ利活用基盤高度化事業(高度遠隔医療ネットワーク実用化研究事業)」の研究開発課題を7月21日まで公募している。手術支援ロボットや高精細映像データ利活用内視鏡システムの遠隔手術支援への臨床応用を実証し、「遠隔手術ガイドライン」の精緻化を行うことにより、これら医療機器の実用化を達成し、ひいては医療の質の向上および医師の偏在などの課題解決に寄与することを目指しており、研究開発費の規模は1課題当たり年間1億7900万円、22年度から最長3年で、0~1課題を選定する。

浴風会、AMED事業で認知症対策

 医療のほか、福祉面での事例として、浴風会(東京都杉並区)は、AMEDの研究開発事業「BPSD予測・予防により介護負担を軽減する認知症対応型AI・IoTサービスの開発と実装」(20~22年度)に取り組んでいる。BPSD(認知症の行動・心理症状)は、認知症患者にみられる精神症状・行動症状のことで、中核症状である認知機能障害とは別に本人の生活の質を低下させ、介護負担を増やす原因になっている。

 浴風会では、IoTやAIの専門研究者、すでにこれらの技術の導入を試みている介護事業関係者、浴風会内の施設(グループホームひまわり)のスタッフなどで協働している。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

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