電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第469回

「部品メーカー」京セラの快進撃


セラミックや電子部品で新工場建設相次ぐ

2022/9/9

 京セラの部品事業が快進撃を続けている。コア事業であるセラミック部品をはじめ、有機パッケージ基板や電子部品など複数の製品が高成長を遂げている。半導体や5G市場の拡大に支えられ、スマートフォンやPCなど一部のIT製品にトーンダウンの兆しがみられるなかでもその勢いに陰りはない。需要の拡大が続くことから国内外で新工場の建設も相次いでいる。

半導体製造装置用にセラミック部品が需要拡大

 京セラの事業はセラミック部品や電子部品などの部品事業と、携帯電話・複合機・太陽電池などの機器・サービス事業に大別できる。部品事業はさらにセラミック部品、電子部品、セラミックパッケージ、有機パッケージなど多種多様な製品をラインアップしていることが特徴だ。

 祖業であるセラミック部品は創業以来約60年もの歴史を持ち、半導体製造装置向けでも約30年もの実績を誇る。セラミックは耐熱性、耐プラズマ性、低誘電損失性といった特性に優れており、セラミックヒーター、静電チャック、ドーム・チャンバーといった装置用部品やウエハー搬送用アームなど様々な製品を手がけている。

鹿児島国分工場の新棟完成予想図
鹿児島国分工場の新棟完成予想図
 近年の半導体設備投資の拡大で需要が伸び続けており、生産拠点の鹿児島国分工場(鹿児島県霧島市)に新棟を2棟建設している。22年10月に1棟目、23年に2棟目が稼働を開始する予定だ。

パッケージは新工場建設に加えて用地取得も

 パッケージは水晶デバイスやイメージセンサーなどに用いられるセラミックパッケージ、サーバーや情報通信インフラ用デバイス向けFCBGAなどの有機パッケージがある。セラミックパッケージは5G市場の拡大に伴って水晶デバイス向けを中心に好調が続いている。また、有機パッケージもデータセンター投資の拡大によって需要が伸長しており、京セラだけでなく基板メーカー各社が積極的な増産投資を行っている。

 京セラは23年4月にベトナム工場、同年10月に鹿児島川内工場(鹿児島県薩摩川内市)で新棟を稼働し、セラミックパッケージを製造する。鹿児島川内工場では有機パッケージも増強する予定だ。さらに鹿児島川内工場の近隣で新たな用地取得に動いており、23年度をめどに取得完了を予定している。セラミックパッケージ、有機パッケージを生産する新工場建設に活用する予定だ。

川内工場のパッケージ生産棟完成イメージ
川内工場のパッケージ生産棟完成イメージ
 なお、有機パッケージは京都綾部工場(京都府綾部市)の第3工場にも設備を導入して能力を増強した。この工場は数年前に建屋を建設していたが、当時予定していた顧客への供給計画に変更があり稼働に至らないままとなっていた。奇しくもデータセンター投資の増大が空き工場を救ったことになる。

電子部品はAVXの完全子会社化で事業拡大を加速

 一方の電子部品事業は、京セラ本体と米国の子会社であるAVX(21年10月にKYOCERA AVXに社名変更)で手がける。安定的な成長を続けているものの、競合の大手電子部品メーカーと比べるとやや成長率に劣るという悩みがあった。

 近年、それぞれ個別のグループ会社で手がけていた事業を本体に統合し、一体化を進めている。17年には水晶デバイスとコネクターを担当していた子会社を吸収合併した。また、20年に連結子会社だったAVXを完全子会社化した。80年代にグループ入りしてから独立性を保った連結子会社として運営されてきたが、100%子会社にすることでそれまで制約のあった事業の一体化を実現するのが狙いだ。通信分野の京セラと車載・産業分野のAVXという両社の強みを融合するとともに、開発・製造・販売においてシナジー創出を進めている。もともと部品事業としてセラミック部品などと同じだったセグメントを電子部品事業として独立させ、単独の事業として成長を目指す方針を鮮明にした。AVXは22年8月にロームからタンタルコンデンサー事業を買収し、さらにラインアップを拡充した。

タイのAVX新工場
タイのAVX新工場
 電子部品事業でも新工場の建設が相次いでいる。22年夏にタイで積層セラミックコンデンサー(MLCC)やタンタルコンデンサーを製造する新棟を稼働させた。また、鹿児島国分工場に新棟を建設し、24年に稼働させる。5G市場向けを中心としたMLCCを生産する予定だ。

設備投資額は2年連続で過去最高を更新

 上記の積極的な工場増強を受けて、設備投資も高水準で推移している。22年度の設備投資は前年度比32%増の2000億円を計画し、前年度に続いて過去最高を更新する見通しだ。詳細な内訳は公表していないが中心となるのは半導体関連で、製造装置用のセラミック部品やパッケージの増強に投じられる。

 なお、半導体やIT機器市場は景況感の悪化が懸念されているが、京セラが増産に取り組む部品群はもともと需要の増加に供給が追いつかない状態であったものが多い。例えば、有機パッケージは京セラのみならず国内外で各社が積極的な増産投資を行っている。それにもかかわらず向こう数年は不足感が継続する見通しという。半導体製造装置にしても、セラミック部品が使われる最先端プロセス向けの前工程装置は高水準の需要継続が見込まれている。近ごろ報じられている半導体市場の鈍化が、即増産している製品の大幅な需要減退を意味するわけではないと言えそうだ。

28年度目標に向け半導体関連・電子部品ともに躍進

 21年11月に開催した事業方針説明会で、半導体製造装置用部品やパッケージを含むコアコンポーネント事業(ほかに車載カメラや光学部品など)の売上高を28年度に7500億円(21年度実績5279億円)とする計画を明らかにした。柱となるのは半導体製造装置用部品とパッケージで、どちらも年率10%成長を目指している。なお、23年度目標として売上高5600億円を設定しているが、21年度決算時点の22年度計画では1年前倒しで達成できる見通しだ。

 また、同じ説明会では電子部品事業の売上高を28年度に5000億円(21年度実績3391億円)に引き上げる目標が示された。こちらは23年度目標として売上高3800億円を設定しているが、21年度決算時点の22年度計画は売上高3700億円と十分射程に入っている。28年度までは市況の変動リスクもあり現時点ではっきり見通しが示せるわけではないとはいえ、大きなマイナスがなければ目標の上方修正も期待できるだろう。電子部品は前述のMLCCに加え、5G市場の拡大で需要が高まる水晶デバイスでも京セラは高い地位を占める。さらに、シリコン製のMEMS振動子の研究開発を進めるほか、コンデンサー新製品の投入も目指す方針だ。

変動の激しいエレクトロニクス市場では目先の好調は必ずしも中長期の安定を保障しないが、京セラは当面の需要に対応するのみならず将来に向けた開発も着実に行っていることが見て取れる。ほかにもGaNレーザーや車載機器など事業同士の技術を組み合わせる取り組みも行っており、さらなる発展が楽しみだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 中村 剛

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