電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第470回

9月30日がロボット分野の転換点に?


テスラが打ち上げる人型ロボット市場の号砲

2022/9/16

 本コラムが公開される9月16日から2週間後の9月30日、ロボット分野の転換点となるかもしれないイベントがある。それがEV大手のテスラによる技術イベント「Tesla AI Day」で、その場で人型ロボット「Optimus」のプロトタイプが発表されるといわれている。現時点ではその詳細などは未定だが、「2007年1月9日に、故スティーブ・ジョブズ氏が、初代iPhoneを初めて披露したときと同じようなインパクトが起こるかもしれない」(ロボットベンチャー企業)といわれるほど期待値は高い。

 テスラは、21年8月に人型ロボット(身長173cm、重さ57kg)の開発に乗り出すことを発表。AI、センサー、バッテリーなど、車の自動運転で培った技術を活用し、時速8kmで移動でき、最大20㎏のものを持てることなどが示された。危険作業、繰り返し作業、単純作業の代替を主な目的としており、23年に最初のモデルが製造されると現段階ではみられている。

 イーロン・マスクCEOは、これまでに「我々が自動車で行っていることを考えると、テスラは世界最大のロボット企業だ。なぜなら、我々の車は車輪の上に半感覚的なロボットを搭載しているようなものだからだ」とコメントしている。また、海外メディアのインタビューなどで「10年以内に人型ロボットの大量生産が始まる」「車よりも安価になる」「親の誕生日に子供がロボットをプレゼントする日が来るだろう」とも述べている。

シャオミーも人型を発表

シャオミーの人型ロボット「CyberOne」
シャオミーの人型ロボット「CyberOne」
 Optimus以外にも、人型ロボットに関する発表が出てきており、直近ではスマートフォン大手のシャオミー(小米科技)が、人型ロボット「CyberOne」を8月に発表した。微細な制御が可能な手足を備え、高度な姿勢制御による2足歩行が行える。身長は177cm、体重は52kgで、片手で最大1.5kgのものを把持できる。また、独自開発のビジョンモジュールを搭載し、AIとの融合によって、空間、人、ジェスチャー、表情などの認識が可能で、85種類の環境音と45種類の人間の感情を識別でき、ユーザーを慰めることもできるという。

 そのほか、人型ロボットを長年開発している企業としては、ボストンダイナミクスが挙げられる。2足歩行ロボット「アトラス」の開発などで知られ、現在は韓国の現代自動車グループが親会社となっている。その現代自動車グループは、ボストンダイナミクスと連携し、米マサチューセッツ州ケンブリッジのケンドールスクエア地域に「ボストンダイナミクスAI研究所」(仮称)の立ち上げを計画。ロボットやAIなどの研究を行い、初期投資は4億ドル以上を計画している。

 新興企業では、17年設立のビヨンド・イマジネーションが、人型AIロボット「Beomni」を開発している。Beomniは、人のような腰、頭、肩、腕、親指を有しており、塩を摘まむような細かい作業から、片腕で最大16kgのものを持ち上げるような作業にも対応が可能。オペレーターによる遠隔操作を基本に、動作を支援するクラウドベースのAIを組み合わせることで様々な作業に自律対応することもでき、21年末には米コロラド州の医療関連施設で実証を行った。

川崎重工やトヨタも開発中

 日本でも、人型ロボットの開発は複数行われている。川崎重工業では、東京大学や産業技術総合研究所などと連携して人型ロボットの開発を進めており、3月に開催された「2022国際ロボット展」では「RHP Friends」と呼ばれるロボットを初披露した。

 東京ロボティクスは、全身人型ロボット「Toala」の本格販売を8月から開始した。腕7軸×2本、腰3軸、首2軸、足回り4軸(全方位移動台車)で構成され、身長は1300~1640mm、リーチは740mm、台車幅は720mmと人に近いサイズで、片腕の可搬重量が最悪姿勢の保持でも6kgを実現しており、人間の作業空間において人に近い可動域で作業ができる。

 トヨタ自動車も、楽器を演奏する2足歩行型の人型ロボットを05年の愛知万博で披露するなど、人型ロボットの開発に長年取り組んでいる。17年には第3世代となる「T-HR3」を発表。操縦システムを介して操縦者が離れた場所にいてもロボットを直感的に操れる遠隔操縦タイプのロボットで、操縦者は、ロボットに搭載されたステレオカメラに映し出される立体映像をヘッドマウントディスプレーで確認しながら、自分の分身のように操ることができる。

テスラがロボ業界も変革か

 このように様々な人型ロボットがこれまで発表されており、このほかにも大学や国家研究機関などでも開発が進められている。人型ロボットの開発者に話を聞くと「人の作業を代替するには人の形状が一番良い」(ロボットメーカー)という声が多く、ロボットの究極のかたちともいえる。しかし、人型ロボットは制御が難しく、コストも高くなるため、しばらくは研究開発ベースにとどまるとの見方が現状では強い。

 例えば、トヨタ自動車はT-HR3について、29年末までに本格実用化することを目指して開発を進めるなど、長期間の時間軸で開発に取り組んでいるところが大半だ。また実用化の道も険しく、人型ロボットの代表格であったホンダ(本田技研工業)の人型ロボット「ASIMO」(アシモ)も、00年の発表から様々な取り組みが進められたが、20年ごろに開発を終了した。

 しかし、振り返ってみるとEVに関しても10年ごろは市場の成長性を疑問視する声が多く、現在のテスラの状況を予測していた人はほぼ皆無といっていいだろう。そうしたEV市場での変革が人型ロボットの世界で起こらないとはいえない。しかも、その市場に取り組もうとしているのが、EV業界の常識を覆してきたテスラであるのだから、その変革の可能性は高まっているともいえる。

電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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