電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第478回

リチウム硫黄電池は大化けするか


際立つ長所、サイクル回数の課題払拭か

2022/11/11

 現行のリチウムイオン電池(LiB)を性能面、コスト面で超える数々の次世代蓄電池技術が開発されている。期待されているうちの1つがリチウム硫黄電池(LiSB)だ。エネルギー密度でLiBを上回り、かつコスト面でも低くできると期待される。また、LiBよりも軽量化できるためドローン、無人飛行機、高高度疑似衛星(HAPS)といった飛行体に最適だ。

 いち早くOXISエナジー(英オックスフォードシャイア)が生産拠点をブラジルと英国に建設する計画を進めていたが、残念ながらコロナ禍の21年に破綻。一方で、ブライスン・ニュー・エナジー(Brighsun New Energy、オーストラリア・ビクトリア州)やモロー・バッテリーズ(Morrow Batteries、ノルウェー・オスロ)などが商業化を目指している。最大の課題である少ないサイクル回数もクリアされつつある。

高エネルギー密度と低コスト両立

 LiSBは、正極活物質に硫黄、負極活物質にリチウム金属を使用した蓄電池。充放電は硫黄とリチウムの酸化還元反応で行われる。

 具体的には放電時は負極でリチウムが酸化・溶解し、正極で硫黄が段階的に還元され、反応中間体である複数種の多硫化リチウム(リチウムポリスルフィド)を経て硫化リチウムに還元される。一方、充電時は負極でリチウムイオンがリチウム金属に還元・析出し、正極で硫化リチウムが硫黄へ酸化される。電解質としては、LiB同様に有機溶媒を用いた電解液をはじめ、固体電解質やイオン液体などが検討されている。

 LiSBの最大の特徴が高エネルギー密度と低コストを両立できる点。前者においては硫黄正極の理論容量が1672mAh/gと高く、理論エネルギー密度は2500Wh/kgに達する。現行LiBのエネルギー密度が最大270Wh/kgであるから極めて高いポテンシャルを有する。ただし、現状は300~500Wh/kgにとどまる。

 後者においては資源量が豊富な硫黄が安価に調達できるため。日本は火山国であることから容易に調達できるが、それ以上に大量に輸入している原油の精製過程で脱硫して得られる硫黄が大量にある。これに対し、LiBは地域的に偏在するリチウム、コバルト、ニッケルなどレアメタルを使っており、安定調達に課題を残す。現状、ロシアによるウクライナ侵攻や車載用LiB需要の急拡大によりLiB価格は高騰しており、下落のめどは立っていない。

 また、硫黄はコバルトなどより原子量が小さいことから軽く、LiSBの軽量化が可能だ。ドローンに搭載すれば飛行時間を大幅に伸ばすと言われる。加えて、LiB製造に用いられる既存の塗工法を転用できるため新規投資を抑えることが可能だ。

サイクル回数4000回、全固体も

 このように長所が際立つLiSBだが、サイクル回数が低いという致命的な課題がある。サイクル回数はスマホやノートPCといった民生用で1000回以上、電気自動車(EV)など車載用で3000回以上が要求される。これに対し、現行のLiSBは最大500回程度だ。

 主な要因は①硫黄が多硫化リチウムのかたちで電解液に溶解することにより電極活物質が失われること、②硫黄正極が充放電に伴う膨張・収縮により劣化することの2つとされる。

 一方、近年ではこれらを抑えることのできる目覚ましい研究成果も発表されている。①に対しては主に電解液を工夫する取り組みが行われている。例えば以前、科学技術振興機構(JST)の産官学プロジェクト「先端的低炭素化技術開発 次世代蓄電池(ALCA-SPRINGS)」では難燃性のイオン液体や溶媒和イオン液体を採用し、それまでの数百回から800回程度まで向上させることに成功した。

 モナーシュ大学(オーストラリア・メルボルン)の研究グループは、硫黄正極にグルコース添加剤を加えることで安定化させ、硫化を防止。LiSBの試作品を開発し、1000回のサイクル回数を確認した。

 また今年2月、ドレクセル大学(米ペンシルベニア州)の研究グループは多孔質カーボンナノファイバー上に硫黄を担持させた集電体兼正極材を使用し、多硫化リチウムを経ずに硫化リチウムとすることに成功。これにより驚異の4000回のサイクル回数を達成した。

 ②に対しては先述のモナーシュ大学の研究グループが硫黄活物質の膨張・収縮のためのスペースを設けることで劣化を防止した。通常、バインダー(接着剤)により硫黄活物質を結合しているのに対し、少量のポリマー材料を使用することで硫黄活物質間にスペースを設ける構造とした。

 固体電解質を用いた全固体LiSBの開発も進んでいる。産業技術総合研究所(茨城県つくば市)の研究グループは21年末、電解質に酸化物系固体電解質、正極活物質に硫化リチウム、負極活物質にシリコンを用いた全固体リチウム硫黄電池を開発し、エネルギー密度283Wh/kgを達成した。

ブライスン、商業化に積極的

LiSBを搭載したブライスンの電動バス(HPより)
LiSBを搭載したブライスンの電動バス(HPより)
 現状、LiSBの商業化に取り組む企業は複数社あるが、特に積極的なのがブライスンだ。同社はリン酸鉄リチウム正極材LiBを製造し、自社の電動バスなどに搭載しているが、併行してLiSB(ブランド名「2U Battery」)の商業化に向けて実証試験を行っている。


 同社のLiSBは独自技術により上述の課題を払拭。具体的には、30分で放電する2Cで1700回充放電しても91%の容量を保ったほか、12.5分で放電する5Cでは1000回充放電後も74%の容量を保持した。エネルギー密度はLiBよりも大幅に高く、1充電でEV航続距離2000kmを実現するという。スマホに適用すれば1週間以上の長期使用に対応するとしている。

 加えて、オーストラリアに数百年分存在している硫黄を有効活用することで大幅にコストを下げていく。量産時で100豪ドル(約64ドル)/kWhとしており、これは現行LiBの半分程度だ。同社は主要投資家と協議を進めており、早期の量産化を目指している。

 モローは、ノルウェー南部のアグデルに年産42GWhのLiB工場を23年に着工し、24年末から稼働させる計画を進めている。低コストの蓄電池を開発・製造・販売していくことを目指しており、将来的にはLiSBも手がける考え。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也

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