電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第66回

砂むし温泉の街が最先端メディカルに挑戦する!!


~指宿の豊留悦男市長はアジア全面展開で活性化を推進~

2013/11/22

 そこは竜宮伝説で知られたところであり、また菜の花マラソンが開かれるところでもある。市内のいたる所から湧き出る泉源は、1000カ所を超える全国屈指の温泉地でもある。とりわけ名物の砂むし温泉は約30kgの砂をかけ、砂浴時間は平均50℃の中で約15分、効用は普通の温泉の3~4倍ともいわれているのだ。そしてまた、この市内においては最先端メディカルの挑戦が始まっており、世界初のリゾート滞在型がん治療施設が始動し、国内外の注目を集めている。南国かごしまにあるこの市の名前は指宿(いぶすき)という。

鹿児島県 指宿市 豊留悦男市長
鹿児島県 指宿市 豊留悦男市長
 指宿市長の任にある豊留悦男氏の履歴は実にユニークだ。鹿児島大学で数学を学び教員免許を取得する。その後、鹿児島県大口市に勤務し、北京の日本人学校で3年間を過ごし、内之浦の町役場、さらに鹿児島市教育委員会での生涯学習などの職歴を経て、大龍小学校の校長に就任する。指宿市長選においては第4の男といわれ、必ずしも有利な展開ではなかったが、見事当選を果たす。そして、指宿再生のミッションを掲げ、様々な改革に乗り出すのだ。

 「私の選挙におけるキャッチフレーズは、“変える勇気 変わる勇気”というものだった。市民はマンネリからの脱却を望んでおり、何かかたちの視える変革を祈念していた。それゆえに、変化を掲げる私への投票が多かったのだ、と認識している。アクションを起こさない限り、市の活性化はない。とにかく、仕掛けていくことだと考えている」(豊留市長)

 少子高齢化はニッポンのいたるところで進んでいるが、指宿もまた例外ではなく、1970年当時に5万5000人を超えていた人口が今や4万5000人を割り込んでいる。市民の平均所得も長期低落の一途であり、何よりも全国に発信していく目玉産業が欠けている。もっとも農業などでは、オクラ、そらまめの生産が日本一などの実績はあるが、農家の担い手がとにかく減少しているのだ。

 「こうした状況下で指宿の売りは何だ、と考えてみたらやはり日本、いや世界に誇る温泉泉源であることに行きついた。物見遊山の観光ではなく、健康・食を求める明確な意識のある観光を創出すること、ここにフォーカスして行けば活路はあると思った」(豊留市長)

 時あたかも九州新幹線の全面開通で、鹿児島までのアプローチが抜群に良くなった。それなら、鹿児島中央から指宿までの間に観光特急を通し、人を誘導するという作戦が考えられる。錦江湾の雄大なパノラマを一望できる観光特急列車が指宿竜宮伝説へと誘っていく。このロマン性から生まれた特急の「いぶたま」(指宿の玉手箱)であり、1日3往復、思ったとおりのヒット作となっていった。この「いぶたま」は、毎年10万人を超える観光客らが利用しており、目に見えるかたちで活性化への道が開けたのだ。関西エリア、中国エリアからの来客がぐんと増え、さらには台湾などの外国人客も目立ってきた。

 「砂むし温泉、竜宮伝説のパワースポット、開聞岳や池田湖の美しさをもっと知ってもらいたいとの思いが、『いぶたま』で実現できた。回転そうめん流し発祥の地として有名な唐船峡のめんつゆ、全国7割の生産量を誇る日本一の本枯節(鰹節の最上級品)、かごしまブランドの菜の花カンパチなど食の分野における指宿の知名度も高まってきた」(豊留市長)

 さて、一方で、この指宿に驚きのメディカル施設が立ち上がり、すでに多くの実績を上げ始めた。それは温泉も活用した世界に類を見ないリゾート滞在型がん治療施設の「メディポリス指宿」だ。108億円を投入し、総敷地面積103万坪(東京ドーム77個分)という壮大な規模を有し、鹿児島県、鹿児島県医師会、指宿市、指宿医師会、地元の民間企業に加え、鹿児島大学との協働による産・官・学の協力体制で取り組んでいるプロジェクトである。運営主体はメディポリス医学研究財団。陽子線を用いたがん治療施設であり、設備は三菱電機製の粒子線治療装置(陽子線)を導入しており、九州エリアでは初の粒子線(陽子線)治療施設となるものだ。

 粒子線のがん治療施設は世界で四十数カ所、日本国内で12カ所が開設されているが、温泉付きのリゾート滞在型は世界でただ1つ、この指宿だけなのだ。センター施設の延べ床面積は6000m²。ベッド数は19床、職員数は67人(2013年10月末現在)。2011年4月から先進医療を開始し、すでに治療症例累計実績は840件以上を数えている。四季折々の草花や鳥のさえずりや蛍などの大自然を満喫し、隣接するリゾートホテルでゆっくりと治療していく。

 「メディポリス指宿は、“食と健幸のまち”という市の政策にかなったものだ。現代は心と体のバランスを失う時代であり、自然・安らぎという回復の空間・時間が必要になっている。メディカルツーリズムという考え方も出てきているが、今後はおもてなしの心でアジアの多くの国々からの来訪を期待したい。観光と医療、この両立を図り、指宿市は戦略的にアジアのハブを目指していきたい。2万9800円で北京まで行ける地の利を生かし、周辺の7億人をターゲットとして情報発信していきたい」(豊留市長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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