電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第21回

中国、タブレット用APファブレス拡大


ロックチップなど中国ファブレスが台頭の予感

2013/11/22

 2013年は、中国のスマートフォン(スマホ)市場や中国スマホメーカーへの関心が日本でも高まったのを感じさせる年となった。スマホベンチャーのシャオミー(小米科技)のような新興メーカーが、ハイエンド仕様のチップやパネル、カメラを搭載したスマホをアップルのiPhoneの半額以下で売り出して注目を集めた。その陰では、中低価格スマホを得意とする中国メーカーの躍進も目覚ましく、低コストで開発した中国製AP(アプリケーションプロセッサー)の採用も増え始めた。

 2014年は、格安の中国製タブレット端末が急成長しそうな気配だ。このビジネスチャンスを狙う中国のタブレットメーカーとAPファブレスに注目した。

販売台数が増え始めた中国製のタブレット端末
販売台数が増え始めた中国製のタブレット端末

中国スマホ躍進!14年は中国タブレットの出番

 中国スマホメーカーならば、ファーウェイ(華為科技)やZTE(中興通訊)、レノボ(聯想)、シャオミー(小米)など、業界人ならば日本人でも知っているメーカーが多くなった。しかし、タブレット端末についてはどうだろうか? おそらく、日本人で中国のタブレット端末メーカーの名前を列挙できる人はほとんどいないだろう。

 中国市場で最も売れているタブレット端末メーカーはアップルで、その次にサムスンが続く。この2社だけで、中国市場の半分弱を売っている。独り勝ちだったアップルに対して、13年はサムスンが猛烈な追い上げを見せた。この2社による寡占状況は、少し前のスマートフォン市場でのシェア争いを思い出させる。この背後には、パソコン業界からタブレット端末にビジネスを拡大してきたレノボや台湾エイスース、米マイクロソフトなどが控えている。しかし、13年のスマホ市場のシェア争いで何が起きたかを思い出してほしい。

 先進国でスマホ販売が一巡し、ハイエンド端末の販売台数の伸びが鈍化した。その代わりに成長を牽引したのは、ファーウェイやレノボやシャオミーのような中国の中低価格スマホ軍団だった。実は、タブレット端末市場もスマホと同じように、チャイナタブレットが市場のボリュームゾーンに乗り込んで来ようという気配が色濃くなっている。

レノボはスマホとタブレットの双方に強い
レノボはスマホとタブレットの双方に強い

11月11日に有名になった中国タブレットメーカー「台電」

 冒頭で問いかけた「中国のタブレット端末の有力メーカーはどこか?」という質問に答えておこう。中国のタブレット端末の最大手は「レノボ」だ。これに続く会社の名前を並べると、(2位)台電、(3位)酷比魔方、(4位)七彩虹、(5位)藍魔、(6位)五元素、(7位)E人E本、(8位)原道、(9位)影馳、(10位)馳為となる。どうだろう、はっきり言って「レノボ以外は、まるで聞いたことがない」という人の方が多いのではないだろうか。

 しかし、2位の台電は11月に衝撃的な記録を作り出して、中国のタブレット業界ではかなり話題になっている。「11月11日のたった1日だけで、「P98HD」というタブレット端末をネット販売で1万台も売りさばいた」(中国のタブレット業界関係者)。中国で最も人気があるタブレット端末のiPad miniを超える販売記録を樹立したのだ。

ビジネスユースで人気の中国タブ「E人E本」
ビジネスユースで人気の中国タブ「E人E本」

「双11」でタブレット端末がバカ売れ

 「双11」という新しい言葉は、中国で12年から誰もが知る言葉となった。中国にも「今年の新語大賞」という企画があったら、おそらく入選していただろう新出単語だ。11月11日は、数字で書くと「1111」と1が4つ並ぶ。そこから意味が派生して、11月11日のことを若者の間で「彼氏や彼女がいないシングル(独身、単身)デー」の意味で呼ぶようになった。ネット流通業者がこれに注目して、ネットショッピングで大がかりなディスカウントセールを打ち出した。

 12年の11月11日は、中国のオンライン決済サービスの「アリペイ(支付宝)」の1日の取引額がなんと191億元(約2390億円)に達した。13年は300億元(約4812億円)を超えたという。そのなかでも、人気の商品がタブレット端末だった。

 11月11日の1日だけで1万台も売れた台電の「P98HD」は、ディスプレーがiPadの画面サイズと同じ9.7型で、しかもiPadと同じRetina液晶パネルを使っている。カメラはバックサイド(背面)が500万画素、ディスプレー側(正面)は200万画素で、新型iPadよりハイスペック仕様となっている。これだけの高いスペックながら、16GBモデルで1299元(安値では1048元という例もあった)という安さで売り出した。iPadとメモリー同容量モデルが約3600元で売られていたのと比べて、3分の1という驚きの安さだ。

台電は双11セールでタブレット販売でトップに躍り出た
台電は双11セールでタブレット販売でトップに躍り出た

中国タブ御用達のロックチップ製AP

 「安いのには、何か訳があるのだろう」と考えるのが人の常だろう。台電はタブレット端末を家電量販店などではあまり売らず、ネット通販サイトを利用して中間マージンを省き、安さを際立たせている。もうひとつ注目される点が、中国製のAPを採用していることだろう。

 台電のタブレット端末「P98HD」が採用しているAPは、中国ファブレスのロックチップ(瑞芯微電子)製APの「RK3188」だ。ロックチップは13年6月、この「RK3188」の製品供給を始めた。CPUはCortex-A9を4コア、GPU(グラフィックプロセッサー)Mali-400MP4を採用。処理速度を示すクロック数は1.6GHzをマークする。チップの製造プロセスは28nmで、High-Kメタル・ゲート(高誘電率ゲート絶縁膜)構造を採用した。中国のAPファブレスの中では最高位のチップで、グローバルファウンドリーズ(GF)に生産を委託している。
 「RK3188」はチップ性能からいうと、米NVIDIAのAP「テグラ(Tegra)3」と「Tegra4」の中間レベルの製品といえる。つまり、周回遅れだった中国製チップが、海外の先端チップの半周遅れまで接近してきたということだ。このロックチップの「RK3188」が1000元(1.6万円)、つまり200ドル以下のチャイナタブレットで大量に採用が始まっている。しかも、「11月11日の中国のネットショッピング商戦で、iPad miniよりも売れた!」という既成事実を作り出してしまった。今後、中国の若い消費者の間で、中国製APを積んだ格安のチャイナタブレットの人気がさらに加速することだろう。

オールウィナー製AP「A31」
オールウィナー製AP「A31」

まだまだあるタブレット端末用中国製AP

 珠海を本拠とするオールウィナー(全志科技)は07年に設立された。CPUコアが2個の「A20」(1GHz)と、4個の「A31」「A31S」(ともに1GHz)などのAPを開発設計している。「A20」は中国のタブレット端末の「七彩虹(Colorfly)」、「A31」は「愛魅(AMPE)」などの低価格タブレット端末に搭載されている。オールウィナーは、CPUが8コアのAP「A80 Octa」も開発している。ARMのbig-LITTLE技術を採用し、高パフォーマンスと低消費電力のCPUコア各4個を組み合わせた8コアタイプとなる。13年末~14年初めにかけての出荷を予定している。

 また、アクションズ・セミコンダクター(炬力集成電路設計)は4コアAP「ATM7029」を採用した。「ATM7029」は、CPUにARMのCoretex-A9(4コア、1.2GHz)、GPUにVivanteGC1000を採用。40nmプロセスでTSMCに生産を委託している。中国タブレット端末の「藍魔(Ramos)」シリーズの低価格タブレット端末などで採用が広がっている。

中国製APを採用した藍魔製タブレット ※画像は同社HPより
中国製APを採用した藍魔製タブレット ※画像は同社HPより

 200米ドル以下の低価格モデルが主戦場となるこれからのタブレット端末市場において、中国のタブレット端末メーカーの存在は無視できなくなっている。中国の新興タブレット端末メーカーは13年から中国ファブレス製の国産APの搭載機種を増やしてきた。パソコン製造では、中国メーカーは主要部品を海外から調達して組み立てていたが、タブレット端末の製造では液晶パネルやAPなどのコア部品の国産化が始まっている。

半導体産業新聞 上海支局長 黒政典善

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