電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第1回

岩手県奥州市 市長 小沢昌記氏に聞く(上)


2015/9/18

 東北地方のちょうど真ん中に位置する岩手県奥州市。世界遺産・平泉に近いこともあり、歴史の街という印象が強いが、半導体や自動車など基幹産業の集積が進んでいる。市内には東京エレクトロンの拡散炉・減圧CVD装置の製造拠点である東京エレクトロン東北(株)(TEL東北)が進出しているほか、隣の金ケ崎町には新車販売ランクの首位を快走中の「アクア」を量産しているトヨタ自動車東日本(株)岩手工場や、車載半導体を製造している(株)デンソー岩手が立地している。

 また、同市を含む北上山地は、国際的な大型加速器建設計画である国際リニアコライダー(ILC)の建設候補地として名乗りを上げており、建設地に決まれば企業や研究機関のさらなる集積が期待できる。こうした好材料を武器に、奥州市はより一層のものづくり産業の集積を目指している。数回にわたり、ものづくり産業の拠点としての奥州市の魅力を紹介する。

 ―奥州市のあらましを教えて下さい。
 小沢 水沢市、江刺市、前沢町、胆沢町、衣川村の5市町村が合併し2006年に誕生した。対等合併であるため、合併前の市町村名を残さない方針で新市名を公募した結果、平泉文化を育んできた歴史を感じさせる「奥州市」に決まった。

 ―魅力的な農産物がたくさんありますね。
 小沢 米や牛肉、高級りんご、南部鉄器など、全国にアピ―ルできる魅力的なものがたくさんある。四季の分かれ目がはっきりしている気候のため、大変食味の良い農産物が収穫できる。特に、当市は全国有数の米どころであり、当市の「ひとめぼれ」は日本穀物検定協会による米の食味ランキングにおいて特Aランクを20回獲得している。これは新潟県の「こしひかり」に次ぐ回数だ。また、その米から採れる稲わらで育った牛肉も大変美味しい。「前沢牛」が全国的に有名なブランドになったが、「奥州牛」「江刺牛」というブランドも前沢牛に匹敵する食味がある。そのほか、初競りで1箱(10kg28個入り)100万円ほどで落札される高級りんご「江刺りんご」も有名だ。

 ―南部鉄器も有名です。
 小沢 1200年代の奥州藤原氏の時代から伝わる伝統的な鋳物だ。良質な砂、北上川の水など、鋳物に適した資源に恵まれていることが、長きにわたる鋳物産業の発展の要因となった。
 800年におよぶ南部鉄器の歴史を後世に伝えようと、産学連携による取り組みが始まっている。岩手大学と地元の鋳物メーカーが中心となって、薄く強靭な鋳物の開発を進めているほか、岩手大学大学院内に金型・鋳造工学の専攻が設けられており、卒業生は、学んだ知識を鋳物だけでなく、様々な製造業に活かしている。

 ―鋳物文化は現在のものづくり産業にも受け継がれているのですね。
 小沢 そのとおりだ。まさに、鋳物は奥州市のものづくりの原点といえる。少量多品種でかつ高付加価値のものを作る領域では、南部鉄器づくりのDNAが脈々と受け継がれている。

 ―歴史に残る偉人も多く輩出しています。
 小沢 東京市長など要職を歴任し、関東大震災後の東京の復興に尽力した後藤新平、第30代首相の斎藤實、江戸時代の医者・蘭学者である高野長英といった、近代史に名を残す偉人を輩出した。また奈良時代には、征夷大将軍の坂上田村麻呂と戦った蝦夷のリーダー、アテルイが活躍し、平安時代には奥州藤原氏が栄華を極め、世界に誇れる数多くの文化を残した。

 ―奥州市や近隣自治体には、ものづくり産業の大手が進出していますね。
 小沢 市内にはTEL東北のほか、(株)フジキン、IKK東北(株)、プランゼージャパン(株)、ファインシンター東北(株)、関東化学(株)、田中貴金属工業(株)などが立地している。また、隣の金ケ崎町にはトヨタ自動車東日本やデンソー岩手、北上市には岩手東芝エレクトロニクス(株)などが立地している。

 ―トヨタ自動車東日本の岩手工場ではトヨタで最も売れ筋の「アクア」を量産しています。これは同工場の品質の高さが評価されているからでしょうか。
 小沢 そのとおりだ。トヨタの全工場の中でも、特に品質が高いと評価されている。同工場には当市をはじめとした南岩手地域出身の従業員が多いが、チームワーク力の高さはトヨタ本社から高い評価を受けている。このように、この地域の人材は真面目で粘り強く、協調性が高いという特徴があり、ものづくり産業に大変適している。

(聞き手・編集委員 甕秀樹)
(本紙2015年8月6日号3面 掲載)

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