電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第2回

岩手県奥州市 市長 小沢昌記氏に聞く(下)


2015/9/18

 ―東京エレクトロン東北(株)やトヨタ自動車東日本(株)岩手工場を中心に、多くのサプライヤー企業が集積しています。
 小沢 この2社に部品を供給するサプライヤーが数多く進出しており、産業クラスターが形成されている。自動車産業だけで見れば、コイル、シートのメーカーのほか、車載半導体を生産するデンソー岩手(株)も隣の金ケ崎町に立地している。そのおかげで、奥州市をはじめとした南岩手地域の工業出荷額は、岩手県全体の実に65%を占めている。
 もちろん、半導体や自動車だけでなく、その他の多種多様な産業が進出しているが、異業種同士といえども企業間の交流は活発に行われており、異業種企業でも発展の可能性がある、汎用性の高い産業クラスターになっている。

 ―道路も良く整備されており、アクセス面でもメリットがありそうですね。
 小沢 幹線道路である国道4号線の沿線は、東日本大震災以降急ピッチで整備が進められている。また、最も近い港湾である大船渡港は車でわずか1時間なので、物流面での心配はない。
 首都圏からのアクセスも良好で、東京から新幹線で2時間20分程度で到着する。東京への日帰り出張が十分可能で、朝早く新幹線に乗れば東京での朝9時からの会議に間に合ううえ、夜8時ごろまで東京に滞在できる。
 また、奥州市は東北地域の真ん中に位置しており、仙台など東北の主要都市に2時間以内に行くことができる。奥州市には生野菜のカッティング工場が立地しており、地の利を活かして東北の主要都市にカットした野菜を納めている。空の便も、花巻空港から名古屋、大阪、福岡に直行便が飛んでいる。
 まさに奥州市は、東北の「流通のへそ」と言ってもいいだろう。交通アクセス面では非常に恵まれた土地といえる。

 ―これから誘致に力を入れたい産業は。
 小沢 やはり自動車産業と半導体・IT産業が二本柱となる。自動車や半導体の大手が近隣に立地している強みを活かし、ジャストタイムで部品を供給できるサプライチェーンを構築したい。

 ―奥州市をはじめとした北上山地は、国際リニアコライダー(ILC)の建設候補地になっています。建設が決まれば、企業誘致にも強力な追い風が期待できますね。
 小沢 奥州市から宮城県気仙沼市にかけての地域が候補地であり、中心地点から最もアクセスが良い東北新幹線の水沢江刺駅がある。ILCを推進する国際組織では、世界の候補地の中でも北上山地は地形、地質的に適しているという「お墨付き」を得ている。建設費や維持費の負担をどうするかなど今後調整すべき課題はあるが、建設が決まれば、加速器関連の研究機関や企業の進出が期待できる。
 ILCへの期待は大きく、宇宙がどうやって誕生したかを解明できれば、そこから得られる様々な知見を人類の進歩に役立てることが可能だろう。宇宙の謎であるダークマターやダークエネルギーの正体も解明できるかもしれない。
 ILC誘致は、日本の素粒子物理学にとっても大きな正念場となる。これまで日本は、CERN(欧州原子核研究機構)やITER(国際熱核融合実験炉)といった国際的な研究コンソーシアムに参加し、高い技術力で貢献してきたが、ILCが日本に建設されれば、今度は研究の舞台が日本になるだけに、日本の素粒子物理学が世界をリードしていけるかどうかの試金石になるだろう。
 費用負担のあり方に疑問の声があることは確かだが、投資に見合ったリターンは回収できると確信している。

 ―最後に産業界へメッセージを。
 小沢 人類の進歩を続けていくうえで様々な課題を解決していかなくてはならないが、唯一のカギは科学だ。科学の力で新しいものをつくっていくことが必要だ。ものづくりはイノベーションであり、イノベーションなくして人類の進歩はない。奥州市は、イノベーションの場を提供し、人類が発展するための科学力を発信していきたい。
 奥州市には、奥州藤原氏時代からのものづくりの伝統があり、イノベーションにふさわしい地域だ。四季の移ろいもはっきりし、農業も盛んで食べるものが美味しく、住むには良いところだ。ぜひわが市に足を運んでいただきたい。


(聞き手・編集委員 甕秀樹)
(本紙2015年8月13日号3面 掲載)

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