電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第44回

アップルが次期iPhoneにサファイアを採用する本当の理由


狙いは「化合物薄膜太陽電池」

2014/5/9

 「次はiPhoneにしてもいいかな」。取材でよくスマートフォン(スマホ)の話題になるのだが、意外(といっては失礼だが)に次期iPhoneに対する期待感が高い。画面サイズとして4.8インチと5.5インチ(もしくは5.7インチ)の2モデルが用意され、デザインが大きく変わりそうと報じられていることが背景にあるのかもしれない。かつて「iPhone6らしきモックアップを見た」という某メーカー幹部は「ホームボタンのところにボタンが4つあった」と語った。今のところ、これまでのモデルどおり、9~10月の発売が有力視されている。だが、画面サイズよりもボタンの数よりも、筆者が最も注目しているのが、カバーガラスにサファイアを採用するという点だ。

a軸サファイアで再挑戦

 iPhoneのサファイア採用に関しては、実のところ、ここ3年ほど、常にサファイア業界で話題になってきた。アップルはiPhone5の開発時に採用しようとしたが、ボール落下試験でサファイアカバーが割れてしまい、結局のところ採用を断念した。だが、この時に評価したサファイアはc軸成長した結晶で、その後にa軸成長したサファイアが安価に入手できるようになり、再び挑戦が始まったといわれている。

 アップルは、iPhone5Sでホームボタンの指紋センサーおよびカメラモジュールのレンズのカバーにサファイアを採用した。搭載されたサファイアの量はごくわずかだったが、「いよいよ次はカバーにもサファイアを採用か」と業界内が俄然盛り上がった。業界関係者によると、この時アップルはLEDの生産に使われたサファイアのダミーウエハーや端材を世界中から安価に掻き集めて、カバー用に加工したのだという。

 だが、いかにサファイアの供給が過剰であっても、ダミーウエハーや端材だけでディスプレー全面をカバーするほどの面積にはならない。次期iPhoneの開発を控え、アップルからサファイアの供給依頼があるとかないとかいう話題が取材でのぼるたび、「いったい誰がリスクをとって、そこまで膨大な量の供給を保証できるのか」という不安説ばかりが聞こえてくるようになった。

GTATの出荷は4~6月期から本格化

 これを打ち消したのが、2013年11月にアップルがGTアドバンストテクノロジーズ(GTAT)と結んだサファイア供給契約だ。アップルはFirst Solarがアリゾナ州に保有していた工場を買い取り、GTATに5.78億ドルを提供してサファイアを供給してもらう契約を結んだ。スマホに搭載している化学強化ガラスのカバーの価格は約3ドル。一方で、これをサファイアで製造すれば「20ドル程度になる」(サファイアメーカー関係者)といわれ、コストが合わないことから、当時は「サファイアカバーではなく、サファイアをフィルムやガラスの表面にコーティングするサファイアラミネーションではないか」などと憶測を呼んだが、現状では、やはりサファイアそのものをカバーに採用するようだ。

 アップルとGTATは、このサファイアプロジェクトに関して、ほとんど明らかにしていない。だが、改めてGTATの2013年10~12月期決算発表の中身を振り返ってみる。2013年通期の売上高は2.99億ドルだったが、アップルとの提携もあって、2014年は6億~8億ドルにジャンプアップする見通し。このうち第1四半期(1~3月期)の売上高見通しは2000万~3000万ドルで、上期(1~6月)の売上高は通期見通しの約15%=最大で1.2億ドルになる見込みだという。つまり、4~6月期だけで最大1億ドルの売り上げが見込めることになり、こうしたガイダンスから、アップル向けの売り上げは4~6月期から本格的に業績に寄与することになりそうだ。


 GTATは、結晶成長炉をPV、ポリシリコン、サファイアの3分野に提供しており、2013年売上高2.99億ドルのうち、サファイア向けの売上高は4790万ドルで16%を構成した。ガイダンスによると、2014年は売上高の80%をサファイア向けが構成する見通しで、2013年とは構成比が大きく逆転することになる。ちなみに、2013年7~9月期の決算発表では、2015年の全社売上高は10億ドル以上、2016年の売上高は2014年の2倍近く(12億~16億ドル)になる可能性があることにも言及している。

サファイアの背景に「CPV」

 さらに、ここに来て注目を集めているのが、次期iPhoneに太陽電池が搭載されるというウワサだ。米国の投資情報サイトが出元のようで、すでにWeb上に英語・日本語の記事が溢れている。ある海外メーカーの幹部によると、この太陽電池の搭載がサファイアの採用と密接に関連しているといい、「LEDとコンセプトが似ているよね」とこぼす。サファイアカバーの採用は、「ポケットに車のキーとiPhoneを入れた時、画面にキズがついてしまうケースがある」(材料メーカー関係者)ことを回避するため、単にキズがつきにくい素材を用いるのだという理解でいたが、上記の話を総合すると、ここからは筆者の想像だが、アップルは、まずサファイアを基板として利用し、この上にGaN系の化合物薄膜太陽電池(CPV)を形成し、これを最終的にカバーに活用して、次期iPhoneに搭載するつもりではないだろうか。

 GaN系CPVは、一般的なシリコン系太陽電池に比べて極めて高効率だ。化合物エピウエハー大手の英IQEの子会社である米Solar Junctionは、変換効率44%のCPVを開発した実績を報告するなど、シリコン系の2倍以上の効率が実現されている。太陽電池を搭載した携帯電話端末はかつてもあったが、もちろんCPVを搭載した端末はない。バッテリー駆動をどの程度サポートできるのかは分からないが、サファイアカバーの採用は「スマホに太陽電池を搭載する」ということの再定義につながるのではないか。また、搭載面積を考えれば、スマホよりもタブレットに搭載したほうが発電量が多く、セットとしてのメリットも大きくなるだろう。

 いずれにせよ、サファイアの供給には世界的にいまだに過剰感がある。アップルが採用したホームボタンやカメラモジュールのカバーがそうであったように、サファイアカバーの採用でも他のスマホメーカーが追随すれば、供給過剰の解消に大きく貢献する。タブレットにまで採用が広がれば、足りなくなるという状況すら生まれるかもしれない。CPVもスマホというパートナーに巡り会い、市場を大きく拡大することになるだろう。次期iPhoneの発表が本当に待ち遠しい限りだ。

半導体産業新聞 編集長 津村明宏

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