電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第48回

後継者の手腕問われるサムスン


「メモリー/スマホ偏重」と決別できるか?

2014/6/6

2013年のIOC総会に出席した李健熙(イ・ゴンヒ)会長
2013年のIOC総会に出席した
李健熙(イ・ゴンヒ)会長
 2014年5月10日深夜、急性心筋梗塞で救急車に運ばれ、一命は取り留めたものの、約1カ月が経つ現在でも入院生活が続く李健熙(イ・ゴンヒ、72歳)サムスングループ総師。李会長の生死が危ぶまれたサムスンは、まさに非常事態といえよう。「信賞必罰」「トップダウン経営」で成功神話を創ってきたが、3代目への承継、グループ構造の再編など課題が山積しており、今後、後継者として確実視される長男の李在鎔(イ・ジェヨン、44歳)・サムスン電子副会長の手腕が問われることになりそうだ。

承継作業急ぐも課題山積

 サムスンが抱える課題は、経営権の承継作業と支配構造に対する変化だ。サムスングループでは13年9月、サムスンエバーランドがグループ傘下の第一毛織からファッション事業を譲り受けたのを皮切りに、大がかりなグループ再編に着手。同月にはITサービスのサムスンSDSとネットワーク事業のサムスンSNSが合併したほか、14年3月にはサムスンSDIが第一毛織と合併。4月にはサムスン総合化学とサムスン石油化学のグループ化学メーカー2社も合併。さらに5月にはサムスン生命が資産運用会社「サムスン資産運用」を100%子会社化するなど、このところ経営権承継作業と、このための支配構造の再編を加速しつつある。

 しかし、問題はこれからだ。李副会長など兄弟(妹2人)に対する承継作業が完了するには、少なくとも2年以上の歳月がかかる見通しだ。その間、シナリオ別に承継の構図を描いているが、先述の系列会社同士の合併とサムスンSDS上場などの場合は、手順と手間が必要となり、その過程で変更を余儀なくされることもあるだろう。
 李会長が短期間で復帰できば、入院先でも重要な決断は下せるものの、そうでなければ、承継作業が遅延したり、蹉跌をきたしたりする可能性も排除できない。

 特に、スマートフォン(スマホ)に次ぐ次世代の成長エンジンの創出など、主要系列会社が克服すべき課題も多い。革新性が欠けていると指摘される最新機種「Galaxy S5」を契機に、早期に次世代成長エンジンを発掘すべきという声が高まっているが、これといった対案は見出せていない。
 最近、後継者である李副会長が次世代ビジネスとしてヘルスケア事業育成の意思を打ち出したが、短期間で成果を出すには、乗り越えなければならない壁はいくつもある。


スマホ利益が実に76%

 「システムLSI(非メモリー半導体)の限界を乗り越えなければ、さらなる成長は容易ではない」、と判断しているサムスン電子経営陣。非メモリー事業に対する徹底した取り組みを強化しつつ、メモリー偏重の半導体事業の見直しを進めている。

 メモリー分野の王座に君臨するサムスン電子の半導体部門におけるDRAM売上高と利益は、全盛期に比べれば急減しており、加えて非メモリー事業もなかなか前に進まないのが現状だ。実際、14年1~3月期の全社売上高(53.68兆ウォン)のうち、半導体事業部の売上高は9兆3900億ウォンであり、前四半期(13年10~12月)売上高の10.44兆ウォンに比べて1兆ウォン強減少し、営業利益も1兆9500億ウォンと若干減少した。

 しかし、この実績の大半がメモリー部門の好況によるものだ。非メモリー事業の売上高は3兆ウォン、営業利益は100億ウォン程度となり、辛うじて黒字をキープしているに過ぎない。メモリーがサムスン電子の半導体事業で占める利益割合は実に90%にも達する。

 さらに、スマホ新機種の低迷による需要減で、NAND型フラッシュメモリーの価格が下がり、これが実績に反映された。半導体部門は、メモリーと非メモリーともに、スマホの需要動向に依存する側面が強い。非メモリーの場合、13年に同社無線事業部の「Galaxy S4」向けアプリケーション・プロセッサー(AP)の供給が難航し、売上高と利益が急減したことがある。

 同社のスマホ部門は、堅調な成長を持続し依然として高い収益源となっているが、全社営業利益の75.7%(6.43兆ウォン)を占めるなど、大きく偏っていることが問題だ。13年10~12月期は同65%台まで下がったが、今後再び上昇する機運になっている。スマホに次ぐキラープロダクトが見出せていないという証だ。

20年間で20倍成長

 1993年の「新経営」宣言以来、サムスン電子の売り上げ規模を20倍近く成長させた李会長(グラフ参照)。14年の経営方針としてマッハ経営を標榜した矢先、病に倒れた。マッハ経営とは、ジェット機が音速を突破するためには、エンジンの出力アップだけでなく、設計から素材などすべてを変えなければならないという意味だ。

 節目に立つサムスン電子を今後も持続的に成長させるための取り組みとして、同社は電光石火の人事を断行した。李会長の健康状態がまだ良かった4月に、グループのコントロールタワーである「未来戦略室」のコアメンバーを大挙、サムスン電子に異動させた。社長・副社長級に構成された未来戦略室チーム長7人のうち、6人を交代し、3人をサムスン電子に配置。サムスン電子の経営インフラを強める目的で、経験と能力を持つ人材を現場に送り込んだのである。

 サムスン電子は、「マッハ経営」の効率的な実行のために、未来戦略室のチーム長を前線に配置し、現場経営の強化のための権限を委譲する方針だ。特に、迅速な経営判断と果敢な投資でさらなる半導体市場のシェア拡大を推し進める。マッハ経営のコア部品に当てはまるのが半導体であり、半導体市況によって弾力的に運営する設備投資戦略では今まで同様、他の追随を許さない考えだ。

底力が試される

 3代目会長となるであろう李在鎔氏の下、メモリー偏重の半導体事業の改革をはじめ、スマホに依存しすぎる収益構造の改革など、サムスンの今後の運営には茨の道が待っている。具体的には、数年間にわたって論争されている半導体事業場の白血病問題をはじめ、米アップルとの特許訴訟、営業利益の7割超を占めるスマホに次ぐ新製品・新分野の創出などだ。

 李在鎔在鎔副会長は英語や日本語も堪能で、「普通の会社なら十分に経営できる能力の持ち主」というのが韓国内の評価だ。しかし、李健熙会長に並ぶような実績を上げられていないのが実情で、巨大なグループを率いるリーダーシップなどが今まさに問われているのだ。

 今後、李健熙会長の経営不在をいかに乗り越えるか、サムスングループの底力が試されている。

半導体産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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