電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第49回

IoTとM2Mでセンサー1兆個の時代がやってくる


~半導体・オブ・ザ・イヤー2014グランプリはオムロンの絶対圧センサ~

2014/6/13

20周年を迎えた半導体オブ・ザ・イヤー授賞式(2014年6月4日)
20周年を迎えた半導体オブ・ザ・イヤー授賞式(2014年6月4日)
 今年もまた半導体・オブ・ザ・イヤーの季節がやってきた。迎えて20回目となるこのイベントは、半導体産業新聞が制定し主催しているものだが、この20年間の受賞製品/技術の推移を考えると感慨深いものがある。ソニーのプレステで使われたシステムLSI「エモーションエンジン」をはじめ、サムスンのNANDフラッシュメモリー、クアルコムのスマートフォン向けSoCなど時代を創出してきたデバイスを選出してきたことに、いささかなりとも本紙の自負する気持ちも強い。

 それにしても、第1回を開催した1994年ごろはまだ日本勢の勢いがあり、世界シェアも40%近くを持っていたが、それから20年の歳月を経て、今や10%強のシェアしかないことに今昔の感がある。そしてまた、そのころにはグーグルというカンパニーも存在せず、中国のスマートフォンのメーンチップに台湾のメディアテックが躍進するとは想像もつかなかった。94年当時に台湾の新竹を訪れ、メディアテックの社長に取材したことがあるが、その社長ですら今日の隆盛を予想できず、かなりスケールの小さい話をしていた記憶がある。

 それはさておき、半導体・オブ・ザ・イヤー2014の半導体デバイス部門のグランプリは見事オムロンの「高低差50cm(分解能5mm)を検知できる絶対圧センサ」が受賞に輝いた。半導体産業新聞の記者諸君(ちなみに筆者は選者に入れてもらえない!!)の投票により選考されたものだが、競馬でいえば「伏兵のオムロン、直線一気に差し切り」という感じがあった。しかし、この結果を見て「ああ、やっぱりIoT(インターネット・オブ・シングス)、M2M(マシン・ツウー・マシン)の時代が来ているのだ」とつぶやかざるを得なかった。

 米国におけるデバイスの新潮流は、新たなソシアルデバイスの創出というところにある。すべてのものがインターネットでつながる社会、人間を介さずにマシンとマシンが会話し物事が進んでいく社会、そうした近未来が半導体や一般電子部品、ディスプレーなどの電子デバイスの需要を一気に押し上げるというのである。確かに、IT機器は加速度的に普及が進み、成熟化を迎えている。しかし、自動車と人、建物と建物、橋・トンネルと機械、家庭の扉と遠隔の人など、ネットでつながれていないものはほぼ無限大にある。それゆえに「本当にすべてのもの、こと、人が常につながる社会」は、現状とは比較にならないくらいの電子デバイスを必要とするのだ。少なくとも1年間で全世界レベルで1兆個のセンサーを使い捨てる時代が、もうそこまで迫っているともいえるだろう。

 そうした状況のなかでグランプリに選ばれたオムロンの絶対圧センサは、同社が90年代から培ってきたMEMS圧力センサー技術の延長線上にあるといってよいだろう。CMOSデジタル回路とMEMSセンサーを組み合わせ、ウエハーレベルSi常温接合というサプライズのデバイス構造を実現させ、±2℃の温度センサーを内蔵している。次世代モバイル向けに開発されたものだが、この技術は前記の社会インフラのすべてに応用できると筆者は見ている。

 ちなみに、半導体製造装置部門のグランプリは、東京エレクトロンの「回路パターン倒壊を従来の10分の1以下にする洗浄装置「CELLESTA-i」が受賞、半導体用電子材料部門のグランプリは昭和電工の「パワー半導体用SiCエピウェハー6インチ品」が受賞している。全体を通じて、パワー半導体関連、MRAMなどの省エネチップ、さらにはセンサー関連が人気を集めていたようだ。この辺の事情について半導体産業新聞編集長の津村明宏は次のように語っている。

 「今や時代のキーワードはいかに低電力消費であることか、にある。エネルギーも極力節約しCO2もあまり出さないグリーンの時代にあっては、省エネ性は常に求められる。また、モバイル端末の進化は微細化と同時にいかに熱を出さないか、ということが強く求められる。半導体チップもプリント基板も放熱性が必須の条件。そのうえでIoT、M2Mを実現するチップが必要になってくる。スピードばかりを要求された時代から、次の段階では高速性を維持しつつも省エネ、という二律背反を達成しなければならない。その意味で開発者、技術者の前には越えねばならぬ大きな壁が立ちはだかっているのだ」

 しかして、「センサーと省エネの時代の到来」ならば、これを十八番とする日本のデバイスメーカーに曙光が射してきた、と考えるのは筆者だけであろうか。そしてまた社会インフラに使われるチップは、よりいっそうの高信頼性、長寿命、高品質が求められるのだ。これを達成できる資質において、日本企業は世界において際立っている存在であることを自覚し、現場で頑張る技術者、生産者に精一杯のエールを送ろうではないか。

半導体産業新聞 特別編集委員 泉谷渉

サイト内検索