電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第86回

TDK(株) 代表取締役社長 上釜健宏氏


独占技術のTMRセンサーを車載用に量産
磁性材料技術をコアに新技術開発
IC内蔵基板にも注力

2014/8/15

TDK(株) 代表取締役社長 上釜健宏氏
 TDK(株)(東京都港区芝浦3-9-1、Tel.03-6852-7300)は1935(昭和10)年、日本の独創である磁性材料「フェライト」の事業化を目的に設立された。このフェライトを開発したのが東京工業大学の加藤与五郎博士と武井武博士であった。TDKはまさに大学発ベンチャー企業の先駆けといえる存在なのだ。そのTDKが今やグループ売り上げで9800億円(2014年3月期)の世界大手の受動部品メーカーへと成長し、今期(15年3月期)は売上高1兆500億円を見込んでいる。
 TDKのフェライトはまさに奇跡の材料であった。これを起点に磁性材料および材料技術を駆使して独創的な電子部品の数々を世に出してきたのだ。フェライトの発明とその工業化は、09年にIEEEマイルストーンに認定され、社会や産業に貢献した歴史的偉業として評価されている。そのTDKがお家芸ともいうべき磁気スピンの技術にさらに磨きをかけ、MRAM、ヘッド薄膜、TMRセンサーなどに積極展開していく構想を固めている。陣頭指揮する代表取締役社長の上釜健宏氏に話を伺った。

―― ご出身は鹿児島ですね。
 上釜 南さつま市に生まれ、長崎大学で電気工学を学び、81年にTDKに入社した。専攻が磁気共鳴に関する研究であっただけに、TDKのDNAである磁性材料とは一致していた。当時はラジカセ、カセットテープが全盛の時代であった。TDKのカセットテープは量販店の売り場で圧倒的な存在感を示しており、「この会社の製品は魅力がある」との印象があった。

―― 入社した折にTDKのトップになると思いましたか。
 上釜 これはまったく思わなかった。まさか自分が最終指揮を執るポジションになるとは想像もしていなかった。特に香港・中国に駐在していた期間も長く、日本の本社での経歴もほとんどなかった。ところが01年にITバブルが弾けたとき、香港から本社に呼ばれてHDDヘッドの事業部長をやれ、といわれた。当時、赤字事業になったが、その後一気に黒字に回復させることができた。これは良い経験となった。

―― TDKといえば、何といってもフェライトがすべての原点ですね。
 上釜 そのとおりだ。フェライトをベースに磁気テープなど、過去の記録メディア製品から最先端のHDD(ハードディクスドライブ)用磁気ヘッド、そしてコイルなどの受動部品など様々な分野に展開していった。TDKの社名を世界に知らしめたのは、何と言っても国産初のカセットテープであり、世界の人たちの音楽ライフを大きく変えることに貢献できた。
 また、電子機器の小型軽量化に欠かせない積層チップインダクターは、立体的らせん状のコイルをチップ内部に形成するという画期的な製品として世に評価された。
 そして今日にあって、パソコンなどの大容量記録メディアとして普及しているHDDについては、データの記録再生という部分でTDKの磁気ヘッド技術が大きく貢献している。ナノレベルの薄膜技術に対応し、世界最高水準の技術力・量産力を併せ持っている。

―― HDD用磁気ヘッドはこれからも大きな柱となりますね。
 上釜 それはもちろんだ。HDDは35ゼタバイトの領域までいくといわれており、大容量ストレージとして圧倒的な強さを誇っている。もちろん一方で、フラッシュメモリーという半導体への置き換えが予測されているが、容量の点で何よりもHDDには優位性がある。また、ビットあたりの単価も、SSDと比較すれば非常に安い。大容量化のスピードも上がっているだけに、記録容量やコストなどのメリットを追求するユーザーにはHDDを選んでいただけると考える。

―― 今後の研究開発および量産期待の分野は。
 上釜 何といってもスピントロニクスの世界だ。磁気および磁性という世界で生き続けてきたTDKが、その総力を結集するのはスピントロニクスの分野なのだ。磁気スピンを使った製品展開について徹底的に開発している。

―― TMRセンサーについては。
 上釜 まず本格的な量産へ移行するという点で一番期待がかかるところだ。自動車における角度制御はモーターに仕込んだTMRセンサーが大きな威力を発揮する。この角度制御には、これまで一般的にホール素子が使われてきたが、TMRセンサーはその精度よりも大幅に優位性を持っている。TDKの磁性・磁気技術の1つの集大成となる製品である。現時点でこのセンサーを作ることができるのは我が社だけであり、オンリーワン製品である。自動車向けのアプリを中心に、今後一気に量産拡大を考えていきたい。

―― そのほかでの注目分野については。
 上釜 ウエアラブル端末、ヘルスケアなどに向いた製品開発を急げ、と現場に言っている。また、今後の半導体製造装置の革新には電源のバージョンアップが必要であり、我が社の素材技術力が貢献できると思う。IC内蔵基板も注力分野であり、すでに最薄で50μm厚のベアチップ半導体を内蔵した基板の上にパッシブ部品を乗せたタイプを出荷している。TDKはこの分野を業界の先頭に立って切り開いていきたい。

―― 売り上げおよび設備投資の見通しは。
 上釜 前期売り上げはグループ全体で9800億円であったが、今期は1兆500億円を考えている。スマホの伸びが鈍化する可能性があるため慎重に考えているが、一方で車載が伸びていくと考えている。
 設備投資については、ここ数年売り上げの7%程度に抑えてきた。しかし今年度は800億円水準に引き上げており、来年度以降は9~10%に上昇させていく考えだ。今後の工場立地についてはロケーションフリーと思っており、どこで作っても同じという状況がきている。人件費の安いところにシフトという考え方だけではいけない。これからは、設備投資の国内回帰を真剣に検討したいと思っている。

―― 省エネおよび品質についての考え方は。
 上釜 常に考えているのは、省エネに貢献できるデバイスを徹底的に作りたいということだ。省エネルギーこそ日本人の魂であり、この技を使わせたら世界で右に出るものはいない。TDKとしては、省エネタイプの電子部品で世界のデファクトスタンダードを取っていく構えだ。
 品質については、もう一度、日本製品に回帰する時代が来ると思っている。私は最終検査で品質は確保できないと考えている。つまりは、設計などの上流部分で品質を作り込むことが重要であると常々社内に対して発信している。今後、電子部品においても、自動車並みの絶対品質が必要になる時代が来ると思う。これに全力で対応し、顧客のニーズに迅速に、かつ高い信頼性を持って対応ですることが、TDKの社会的使命の1つだと考えている。


(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
(本紙2014年8月13日号1面 掲載)

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