電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第522回

エヌビディア躍進で変動する半導体業界


23年の売上高はトップ3圏内に

2023/10/6

 10月に入り、2023年も年末の足音が少しずつ聞こえてきた。半導体をはじめとした電子デバイス業界においても23年は様々なことが起こった。そのなかで個人的に注目している出来事は、エヌビディアの躍進だ。

 GPUの世界シェアトップで、世界の半導体企業ランキングでトップ10に入るエヌビディアに対して、躍進という言葉は適切ではないのかもしれないが、そうした言葉を使いたくなるほど、23年におけるエヌビディアの事業拡大は突出したものがある。その牽引役となっているのが生成AIだ。ChatGPTをはじめとした生成AIのトレーニングで使用するAIサーバーのほぼすべてに、エヌビディアのGPU関連製品が中核デバイスとして使用されている。

 GPUはCPUほど複雑で多様な処理はできない。しかし、並列処理を得意としており、同じような計算を高速で繰り返すことができる。こうした特徴が、高速な並列処理を求められるAIの学習に適しており、AIの開発にGPUが用いられるようになった。そして、エヌビディアは、AI用のGPUで世界シェア8割以上とみられている。

 そして22年11月にChatGPTが公開されて以降、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、メタ、バイトダンス、バイドゥ、アリババ、テンセントといった大手テック企業を中心に、生成AIの開発が活発化。それに合わせて、AIサーバーへの投資が拡大し、エヌビディアの「A100」や「H100」といった製品の需要も急増している。なお、H100は、TSMCの4nmプロセスルールを採用し、814mm²のダイサイズに、800億個(A100の約1.5倍)のトランジスタを搭載したGPUで、価格は1台で約4万ドルといわれている(A100の市場価格は1台で約1万ドルと推定される)。また、生成AIの学習には、A100ベースのサーバーの場合で3万台、H100ベースのサーバーの場合で1万台が必要とされ、24年年央までの出荷分はすでに受注しているようだ。

生成AI向けの製品群を拡大

 エヌビディアは、AI用のGPUで世界シェア8割以上とみられているが、それを生成AIサーバーで使用されるGPUでみるとほぼ100%とされる。その理由としては、ハードウエアとソフトウエアにおける豊富なラインアップにある。

GH200 Superchip
GH200 Superchip
 ハードウエアの面では、前述のA100やH100に加え、5月末に生成AI向けの活用を想定したAIスーパーコンピューター「DGX GH200」を発表した。独自の接続技術を用いて、最大256基の「GH200 Grace Hopper Superchip」(GH200 Superchip)を結合し、単一のデータセンター規模のGPUとして実行できる。中核となるGH200 Superchipは、エヌビディアCPU「Grace」と、H100を同じパッケージ内で組み合わせたもの。GraceはArmベースのデータセンター向け高性能プロセッサーで、GH200 Superchipは、従来のCPUとGPU間のPCIe接続の必要性を排除し、最新のPCIeテクノロジーと比較してGPUとCPU間の帯域幅が7倍に増加した。

 GH200 SuperchipをベースにしたDGX GH200は、1EFLOPS(浮動小数点演算を1秒間に100京回)の性能を備え、144TBの共有メモリーを搭載。A100に比べて約500倍のメモリー容量を備える。生成AI関連のインフラ構築に向けて、グーグルクラウド、メタ、マイクロソフトが、DGX GH200を活用する予定だ。また、エヌビディアも、4台のDGX GH200を使用した独自のAIスーパーコンピューター「Helios」を構築しており、23年内に稼働予定だ。

 また、データセンター用プロセッサー「NVIDIA L40S」も発表。A100に比べて最大1.5倍の推論性能を有し、A100の約5倍の単精度性能(FP32)を実現。142基の第3世代RTコアと48GBのGDDR6メモリーにより、高度なリアルタイムレイトレーシング性能を実現し、忠実なグラフィックスも可能とする。生成AIのプラットフォームとして、推論、トレーニング、グラフィックス、ビデオワークフローのエンド・ツー・エンドでの高速処理を可能にし、次世代のAI対応オーディオ、音声、ビデオ、2D/3Dアプリケーションを強化する。

 ソフトウエアに関しては、NVIDIA AI Enterpriseを提供。生成AI、コンピュータービジョン、スピーチAIなどの本番利用のAIの開発と展開を合理化でき、AIを活用する事業を展開する企業は、NVIDIA AI Enterprise を活用することで AIチームの生産性を向上させることができる。こうしたハードウエアとソフトウエアの両面で生成AIモデルの構築を総合的にサポートすることで、生成AIに取り組む企業のデファクトスタンダードになっている。

売上高はインテル超えの可能性も

 こうした生成AI向けでの需要拡大や製品群の拡大によって、あることが起こる可能性が出てきた。それはエヌビディアが2023年の半導体企業の売上高ランキングでトップになる可能性だ。現在、半導体企業では、インテル、サムスン電子、TSMCが売上高のトップ3を占める。このうち、インテルの23年1~6月期の売上高は約246億ドルで、7~9月期は129億~139億ドルの見通し。仮に10~12月期も7~9月期と同水準で推移した場合、23年は514億ドル規模になる。サムスン電子の半導体部門をみると、23年1~6月期の売上高は約210億ドルで、7~12月期にメモリー市況が回復したとしても500億ドル規模にとどまるだろう。

 そしてエヌビディアの業績(同社の決算期は1月期)をみてみると、23年2~7月期の売上高は207億ドルで、8~10月期の売上高は160億ドル前後が見込まれている。仮に23年11月~24年1月の売上高が8~10月期と同水準で推移した場合、エヌビディアの24年1月期(23年2月~24年1月)の売上高は527億ドル規模になるとみられ、インテルやサムスン電子(半導体部門)の売上高を超えることになる。TSMCの売上高を超えることは難しそうだが、半導体ファブレス企業のなかでは、クアルコムを超えてトップになるのは確実な情勢だ。

 こうした業績の動向も注目だが、エヌビディアの売上高が伸びているということは、生成AIを活用したサービスの開発がグローバルで進んでいることを意味する。そのなかには、我々の生活を変えるサービスが含まれている可能性も高く、そうしたサービスに早期に実現するうえでもエヌビディアの重要性はさらに高まっていくだろう。

電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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