電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第86回

さらばPoP! 百花繚乱の半導体パッケージ


FOWLP/部品内蔵などApple/Qualcomm軸に「多様化」へ

2015/3/6

 近年、企業経営の分野で「ダイバーシティー・マネジメント」という言葉を良く耳にする。ダイバーシティーの直接的な意味は、「多様性」であり、定年退職者の再雇用や外国人、女性の積極登用など、人材の多様化を図る意味でよく用いられている。

 少し乱暴ではあるが、この多様性というキーワードは、近年の半導体パッケージ業界にも当てはまるものだ。ウエハープロセスの微細化による性能向上のペースが鈍化しているほか、微細化によるコストダウンメリットも希薄化するなかで、パッケージ技術による差異化が再び脚光を集めている。なかでもスマートフォンやタブレットなどモバイル端末機器向けの半導体パッケージ技術は、まさに今、転換期を迎えている最中であり、デバイスメーカーだけでなく、ファンドリーやOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly & Test)、さらには装置・材料メーカーも巻き込むかたちで、新たな方向性を模索している。
 今回は現状のモバイル向け半導体パッケージの技術トレンドを俯瞰しつつ、部材業界の新たな事業機会に着目していきたい。

基板レス・低背化を実現

 現在、採用技術の大きな節目を迎えているのが、端末の頭脳部となるアプリケーションプロセッサー(AP)だ。APは現在、FC(フリップチップ)CSP形態でパッケージングされており、この上部にDRAMパッケージを積層するPoP(Package on Package)が主流となっている。しかし、サブストレート(基板)に起因するコスト高に加え、低背化が限界を迎えており、新たなパッケージ技術の台頭が待ち望まれていた。さらに、AP上部に積層するDRAMに関してもメモリー帯域の拡張に伴うピンカウントの増加により、従来のパッケージ積層では、I/O数を確保できなくなっていることもこれに拍車をかけている。

 現行のPoP技術が問題に直面するなか、15~16年以降を見据えて新たなパッケージ技術の採用を模索する動きが活発化している。その筆頭が米Appleだ。同社は自社のiPhoneやiPad向けに自社設計のAPである「Aシリーズ」を搭載しており、立派な半導体ファブレス企業だ。同社も現製品にはPoPを採用しているが、16年ごろをめどに新技術を採用する可能性が非常に高い。

 具体的には、FOWLP(Fan-out Wafer Level Package)を全面的に採用する見通しだ(図1)。FOWLPは、従来の電源ICなどの小ピンパッケージに用いられていたFan-in WLPと異なり、チップサイズよりも大きな再配線(RDL)領域を設けることができ、プロセッサーなどの多ピンパッケージへの対応が可能である(図2)。WLPの最大の特徴である基板レス化を図れるほか、低背化にも寄与することができる。もともと、独Infineon Technologiesが開発した「eWLB」が源流であるが、歩留まり面で苦慮するなどの課題に直面し、一部デバイス(InfineonがIntelに売却したベースバンドプロセッサー部門=現Intel Mobileで採用)を除き、大きな広がりには至らなかった。



 
16年モデルから採用か

 しかし、既存のFCCSPの問題点(基板のコスト高、低背化の限界)を克服すべく、AppleはかねてFOWLPの可能性に着目。16年以降に発売されるiPhone/iPadに採用すべく検討を進めている。Appleは当然のことながらファブレス企業であり、実際の量産となれば外部に生産委託を行う。ここで受け皿となるのが台湾TSMCだ。TSMCは従来、前工程(ウエハープロセス)の受託生産を行うファンドリー企業であるが、近年は先端パッケージ領域への進出に意欲的で、TSVなどを用いる2.5D/3Dパッケージと並んで、FOWLPの開発を進めていた。

 TSMCは独自に開発したFOWLP技術を「InFO( Integrated Fan Out)」と呼んでいる。TSMCによれば、16年から本格量産を開始、相当の売り上げ規模になるとしており、InFO向けの大手顧客をすでに抱えていることを示唆している。なお、TSMCは14年11月に米Qualcommが台湾・桃園に所有するディスプレー工場を買収すると発表。今後同工場をInFOの量産拠点として活用していく考えだ。

 また、台湾MediaTekも将来的にはFOWLPへの移行を示唆している。15年1月に東京ビッグサイトで開催された「半導体パッケージング技術展」の併催セミナーで講演したMediaTekのDr. Charles Chenは、最適なコストでデバイスの高速化を実現すべく、FOWLPの必要性に言及している。

Qualcommは別手法でPoP脱却

 AppleやMediaTekがFOWLPに可能性を見出す一方で、大手ファブレスの一角であるQualcommは別の手法で既存のPoP技術からの脱却をすでに図り始めている。同社はモバイル機器向けチップセットとして「Snapdragon」シリーズを展開しているが、このうち、ハイエンド対応の「810シリーズ(MSM8994)」などを中心に、MCeP(Molded Core Embedded Package)と呼ばれる技術を採用しているもようだ。

 MCePは新光電気工業(株)が開発したモバイル用パッケージ技術で、構造的には上下にサブストレート基板を用いていることが特徴だ(図1)。また、半導体(能動部品)だけでなく、受動部品も樹脂モールド内に搭載できることから、イメージとしては部品内蔵基板に近い。

 PoPで問題となる反りの低減も図れるほか、Qualcommが同技術を採用したのは、パッケージ上部に搭載するモバイルDRAMの進化が大きく関係しているようだ。モバイルDRAMはディスプレーの高解像度化の影響などを受け、大容量化とともにメモリー帯域を広げる動きが顕著であり、I/O数も増加の一途にある。そのため、既存のPoPやTMV(Through Mold Via)ではI/Oエリアを確保することが難しくなってきている。その点、MCePの場合は上部にサブストレートがあるため、エリアアレイ上にI/Oを確保することができ、モバイルDRAMの発展に追従することができるといわれている。

 QualcommはすでにMCePを採用した製品の量産を行っており、新光電気のほか、同技術のライセンス先である米Amkor Technologyでも量産をスタートさせているもようだ。

FOWLPに新たな事業機会

 パッケージ技術の進化に伴い、装置・材料業界にも新たな事業機会が訪れている。MCePが既存のPoPの延長線上であるのに対し、FOWLPはまったく別タイプのパッケージ技術である。ゆえに、必要な製造装置や材料も大きく異なってくる。材料分野ではRDL向けレジストやポリイミドの需要拡大が期待されるほか、封止材も液状タイプのニーズが拡大する見込みだ。ただし、封止材に関しては、FOWLPのワークサイズに対する議論が足元で活発化しており(既存のウエハーサイズか、パネルベースへの移行か)、この結果によっては、フィルムタイプの封止材料に注目が集まる可能性が高い。

 また、装置分野ではRDL形成に必要な露光装置および現像塗布装置の需要拡大が期待される。現在、RDLのパターニングは、ピッチがそれほどファインではないため、アライナーなどの旧来型露光装置が主に使用されているが、今後のFOWLPのターゲット市場を考慮すると、急速なファインピッチ化が予想される。そのため、i線露光機など装置のグレードが一段上がるものと見られる。前工程製造装置(WFE)分野で事業を展開する半導体製造装置(SPE)メーカーにとって、ファインピッチ化=微細化は望むところ。そのため、SPE各社の多くが新たな注力領域として、パッケージ分野を挙げている。

 前工程プロセスは各社によって多少違いはあれど、28nm→20nm→16/14nmというかたちで、業界全体でロードマップが共有されている。加えて、開発負担が大きいため、参入障壁も高く、年単位でシェアの大きな変動はそれほど起きない。しかし、現在の半導体パッケージ業界は現状の課題を克服するために、様々な技術が候補に上がる「多様化」の時代。装置・材料メーカーにとっても各社横一線という状況が強く、新たな事業の育成においては絶好のタイミングだ。技術トレンドの行方によっては、後発メーカーが突然トップシェアに躍り出ることも充分に予想される。ユーザーである半導体メーカーの動きと同時に、サプライヤーの動きをこれまで以上に注視していく必要がありそうだ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 稲葉雅巳

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