電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第627回

中国でヒューマノイドロボット開発が拡大


QDDモーターの重要性が上昇か

2025/11/7

 気づけば2025年も残り2カ月を切り、1年を振り返るような時期に入りつつある。日ごろから取材しているロボティクス分野を振り返ると、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)に関しての発表が増え、取材先でも話題に上ることが多かった。

 日本でも人型ロボットを開発する企業や団体が出てきているが、現状では中国と米国が先行している。中国の移動ロボット産業連盟「2024-2025年度人型ロボット産業発展研究報告」をもとに野村総合研究所が作成したデータによると、24年末時点で人型ロボット本体を手がける企業は世界で220社以上あり、そのうち半数が中国企業で、約20%が米国企業だという(ちなみに日本は約10%で、他の国の人型ロボット本体企業の数はいずれも10社未満)。つまり中国には24年末時点で人型ロボットを開発している企業が110社以上あるということを意味し、かつこの社数はすでに関連製品やプロトタイプを発表した企業だけがカウントされているため、実際に人型ロボットの開発に取り組んでいる企業の数はさらに多い可能性がある。

幅広い業種から参入

中国では人型ロボットの取り組みが活発化(写真はUnitree Roboticsの人型ロボット)
中国では人型ロボットの取り組みが活発化(写真はUnitree Roboticsの人型ロボット)
 中国の人型ロボット企業群を調べてみると、Unitree RoboticsやUBTECH Roboticsなど日本国内の展示会などでも見る機会が増えてきた新興メーカーをはじめ、DobotやROKAEなど協働ロボットを手がける企業が人型ロボットの開発を進めるケースもある。また、Xpeng Motors、奇瑞汽車、広州汽車集団といった自動車関連企業も人型ロボットに取り組んでおり、シャオミー、ファーウェイ、Midea Groupといったエレクトロニクス機器や家電製品を展開するメーカーも人型ロボット関連の動きを進めているとされ、AI関連企業からのアプローチも増えている。

 中国でこうした人型ロボットの開発が活発化した理由については様々な意見が出ているが、個人的には、2023年11月に国家レベルで人型ロボットに取り組む方針を示し、ロードマップを発表したことだと思っている。そのなかでは、人型ロボットのグローバル企業を2~3社育成して産業クラスターを形成し、27年をめどに人型ロボットに関するサプライチェーンを構築することが目標として設定されている。

 中国では、特定の産業において雨後の筍のように次々と企業が生まれ、そしてあっという間に消えていくということが定期的に起こる。少し前だと、ディスプレー、LED、太陽電池関連企業が次々と生まれ、大型投資を実行して過剰競争となった結果、多くの企業が消えていった。直近では半導体産業、リチウムイオン電池、EV産業も同じような状況になった。

 だが、そうした状況を潜り抜けた企業は、現在も中国だけでなくグローバルでも存在感を発揮している。人型ロボット産業の状況をみると、こうした産業と同じような道筋を辿り、110社から10社も残らない状況になる可能性が高いが、そうして残った企業は中国だけでなくグローバルでも存在感を発揮する企業となるだろう。

バックドライバビリティーが重要に

 そうした人型ロボットに関する話を各方面で聞いていると、時折出てくる電子デバイスがある。それがQDD(準ダイレクトドライブ)モーターだ。高トルクブラシレスモーターと低減速比のギア(遊星ギアなど)を組み合わせたアクチュエーターで、ギアなしで滑らかで応答性が高いダイレクトドライブモーターと、ギアによって大きなトルクを得られる従来型の減速機付きモーターの中間に位置する。

 現在、製造現場で使用される産業用ロボットには、減速機を活用したサーボモーターが使用されており、小型でありながら優れたトルク出力を発揮する。しかし、そうしたモーターはバックドライバビリティー(逆可動性)の性能が低いといった特徴がある。ロボットの関節やアクチュエーターの出力軸に外部から力を加えたときに、駆動系が動く現象を「バックドライブ」と呼び、バックドライバビリティーが高いと、このバックドライブが非常にしやすくなるのだが、通常の産業用ロボットに搭載されているサーボモーターはバックドライバビリティーがほぼない。なぜなら産業用ロボットには優れた位置制御の精度が求められ、外部からの力で姿勢が崩れるのを防ぐ非可逆性がむしろ重要視されるためだ。

 しかし、人型ロボットは、人がいる空間での活用も多く想定されており、安全柵で囲って使用する産業用ロボットとは違い、安全性の確保が非常に重要になる。つまり、人などと接触することを想定して高いバックドライバビリティーが求められ、QDDモーターが活用されるというわけだ。また、QDDモーターは、低減速比のギアを使用しているため、ダイレクトドライブに近い滑らかさを保ちながら一定の出力を出すこともできる。さらに、センサーなどを一体化したモジュール構造にもしやすいとされる。一方で、QDDを含めて「ダイレクトドライブ系は保守・メンテナンスが大変」という声もあるが、いずれにしても従来のロボットに比べて人型ロボットではQDDモーターの必要性が増してくるだろう。

 そのQDDモーターだが、日本で作っている企業はほとんどいない(作っていても非常に少量)とされる。日本は産業用ロボットのメーカーが多いことから、減速機を用いるサーボモーターに関しても優れた技術を持つメーカーが複数あるが、現在のQDDモーターの主要アプリケーションである四足歩行ロボット、外骨格ロボティクス製品、協働ロボットなどは日本メーカーのシェアが高くない、もしくは市場規模が小さいため、QDDモーターを手がける企業も少ないというわけだ。

 だが、冒頭にも述べたように中国を中心に人型ロボットの取り組みが活発化するなか、QDDモーターの需要も今後高まることが予想され、実際中国ではQDDモーターの開発も活発になっているという。「日本の大手企業の研究部門や国の機関で人型ロボットの研究をする際にも、QDDモーターは中国のECサイトで購入していると聞いた」といった話も出ており、今後人型ロボットの国産化を目指す取り組みが進んだ際にQDDモーターが隠れた課題となるかもしれない。


電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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