三菱電機(株)(東京都千代田区)の半導体・デバイス事業において、パワーデバイスは高周波・光デバイスと並ぶ中核を担う。特に長年培った高耐圧・高信頼性技術は、電鉄や電力など社会インフラの進化を支え続けている。同社のパワーデバイス事業売上高は2025年度に2313億円を達成し、30年度には3000億円を目標に掲げる。目標達成に向けて同社はパワーデバイス戦略をどう描いているのか。常務執行役 半導体・デバイス事業本部長の竹見政義氏に話を聞いた。
―― 貴社パワーデバイスの強みや差別化点は。
竹見 これぞという独自技術は様々あるが、最大の強みはパワーデバイス草創期から長年にわたり培ってきた豊富な市場実績と技術基盤にある。FA機器や民生機器など世界で勝負する三菱電機内の各部門とコラボして磨き上げるパワーデバイス特性、電鉄や電力などインフラ向けで鍛えられた信頼性、エアコンや高速鉄道向けに業界最先行でSiCモジュールを供給してきた実績、高周波・光デバイス用化合物半導体で培った欠陥スクリーニング技術のSiCへの横展開など、地道にベーシックなところを積み上げ培ってきた豊富な市場実績と技術基盤こそ、当社の強み、差別化要素である。
―― 貴社のパワーデバイス戦略について。
竹見 当社パワーデバイスでは、電鉄・電力、広義の産業、民生の3分野を重点領域に見定めている。電鉄・電力分野では高耐圧品に注力し、裾野の広い産業分野では足元はシリコン(Si)の製品、先々はSiCの製品の拡大を描く。
また、エアコンなどの民生分野では、高効率でCO2削減への貢献が求められており、当社パワー半導体製品群の特性が活かせる領域に注力していく。特に、電鉄・電力、産業分野では再生可能エネルギーやデータセンターなどで大幅な伸長が見通され、当社パワー半導体製品群の特性が活きるとみて、注力していく。データセンターでは、800VDCが普及すれば、SiC需要が高まるため、活躍のフィールドが広がるとみている。
―― SiCを筆頭とする中国勢台頭への対抗策は。
竹見 低価格帯での勝負は避けつつ、彼らが戦いにくい領域、そのなかでも当社の特性が活きる領域を見極めた舵取りが1つの策。一方で、ある程度の規模は追求する必要があり、体力を消耗するほどの価格競争は避けつつ、コスト競争力を高める努力は不可欠である。そのため、泗水新工場棟(熊本県菊池市)を中心に、SiCの8インチ化を加速し、しっかりコストを削減していく方針だ。
―― 協議中の3社連合もその施策の一環ですか。
竹見 どこと組めば最も強くなれるかが判断軸となる。例えば、当社はパワーデバイスの強化に向けて、SiC基板でコヒレントと、ディスクリートでネクスペリアと組むなど国際連携を図ってきた。そしてさらなる競争優位性を築くことを目指し、グローバル市場で競争できる事業規模と技術基盤を実現するため、3社連合の協議を進めている状況にある。各社の開発リソースを集中して、伸長が見込まれるデータセンター向け、再エネ向けなどを一丸で強化していくことには大きな意味があるとみている。
―― 泗水を含むパワー半導体製品の生産体制は。
竹見 SiCについては、前工程は熊本事業所の既存棟で6インチ、泗水新工場棟で8インチを担う。6インチの量産ラインを活用しつつ、新規のSiC製品は8インチ化を加速し、新たな能力増強は8インチで実施していく。なお8インチは現在サンプル評価中であり、量産は27年度からを予定する。
一方、Siの前工程は基本的に8インチと12インチの各ラインで生産しており、8インチが熊本工場(熊本県合志市)と福山工場(広島県福山市)、12インチは福山工場で手がけている。Siは分野によって濃淡はあるが、特に高耐圧品などの需要が旺盛で、一定の生産規模で安定稼働している。なお、Siでは熊本・福山の8インチの量産ラインを活用しつつ、需要動向に合わせて今後は主に福山の12インチ増強で対応していく。また、Siウエハーの裏面工程はすべて当社の内製で、表面工程については8インチが熊本工場、8インチの内製能力を超えた分と12インチはファンドリーへ生産を委託している。
後工程はパワーデバイス製作所(福岡市西区)に加え、メルコパワーデバイスの二丈工場(福岡県糸島市)や氷上工場(兵庫県丹波市)、豊岡工場(兵庫県豊岡市)で各製品を担う。需要規模に合わせて各拠点で増強を検討していく。
―― SiC基板調達やエピについては。
竹見 SiC基板は、主に出資先かつ共同開発パートナーのコヒレントから調達しているが、調達先を限定するつもりはない。必要に応じて国内外製のSiC基板調達も柔軟に検討していく。エピは基本的には内製であるが、内製でまかなえない分はコヒレントで行うなどして対応している。
―― 超高耐圧品は。
竹見 Si IGBTでは6.5kV品まで提供中である。需要的には10kV品ニーズも出てきている。当社ではこうした超高耐圧需要には、SiCだけではなく、酸化ガリウム品に期待しており、酸化ガリウムエピウエハー専業のノベルクリスタルテクノロジーへ出資し、彼らと共同開発中である。酸化ガリウム品が量産に堪えうると確信が持てた時点で、当社既存の生産ライン転用の可能性などを判断していく。順調にいけば、30年前後に酸化ガリウム品の実用化が期待できると見込む。
―― 今後の展望をお聞かせ下さい。
竹見 前述のとおり、省エネ性能向上やモーター効率向上など当社グループ内の最終ユーザーニーズに応え続けることで当社グループの最終製品が磨かれ、必然的に当社パワーデバイスの競争力も高まる。それがベースとなり、三菱電機の価値共創のためのデジタル基盤「Serendie」(セレンディ)が広がれば理想形である。これからも独自の強みを打ち出しながら、パワーデバイスの歴史を紡ぎ続けていく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2026年9月3日号3面 掲載