日本発のARグラスが話題に
日本発のARグラス製品として注目を集める(株)jig.jpの「SABERA(サベラ)」が、クラウドファンディングサービス「Makuake」で高い反響を得た。応援購入総額は1億9000万円を超え、購入者数は2743人に達した。8月下旬から順次一般販売が開始されている。同社はリアルタイム音声AIを手がけるKotoba Technologiesとも提携して、音声処理技術とARグラスを組み合わせた同時通訳体験の実現を目指すという。
サベラは、眼鏡産地として知られる福井県鯖江市の老舗メーカーであるボストンクラブが担うフレーム設計・装着性のノウハウと、国内ベンチャーのCellidが開発するAR光学技術・AI処理基盤を組み合わせて開発された製品だ。右目単眼のマイクロLEDディスプレーを搭載し、約38gという軽量化を実現した点が特徴で、長時間装着を前提とした日常利用に適した設計思想を採用している。また、カメラを非搭載とすることで、オフィスや公共空間での利用を想定した日本独自のプライバシー配慮を採用している点も大きな特徴だ。まずは国内販売から着手し、世界市場も視野に入れる。日本発のARグラスとして数少ない具体例が好発進し、存在感を示した格好だ。
今秋は米Meta、米Snap、中国XREALといった主要プレーヤーが、メガネ型デバイスを相次いで市場投入する予定で(執筆時点で製品投入発表の少し前)、こうした海外大手企業の動きにより、AI/ARグラスは普及期へ向けた本格始動の気配が強まり、期待が高まっている。
メタ、AIグラス「Meta Glasses」を発表
メタは、大手グラスブランドのEssilorLuxotticaと、AIスマートグラスの新シリーズ「Meta Glasses」を発表し、このほど日本市場でも販売開始した。価格は5万600円(税込み)からで、カラー・レンズ・フレームの組み合わせで26種類を展開し、度付きレンズにも対応する。スクリーンレス(ディスプレー非搭載)構成のAIグラスで、音声・カメラ・AIアシスタントを中心としたウエアラブルデバイスであり、アクションボタンによるMeta AIの起動、オープンイヤースピーカー、風切り音低減機能付きマルチマイクアレイを搭載する。写真・動画のハンズフリー撮影にも対応し、充電ケースにより最大40時間分の追加電力を提供する。
メタは同製品を「利用者の視点で世界を理解し、一日中寄り添うAIアシスタント」と位置づけ、日本市場を重要拠点とする姿勢を示した。5月に投入した「Ray-Ban Meta」および「Oakley Meta」に続く製品展開となり、日本でのAIグラスのラインアップが拡充された。
メタは、メガネ型デバイスの展開を①カメラ付きAIグラス、②ディスプレー付きAIグラス、③拡張現実(AR)グラスの3つのカテゴリーに分類してそれぞれ進化、拡大させていく方針を発表しており、今回の新シリーズはその戦略に沿い①のAIグラス領域を強化するものとなった。さらに、9月23~24日に開催する自社カンファレンス「Meta Connect 2026」において、新しいグラス製品を発表する予定だ。Ray-Ban Displayのようなディスプレー搭載型も発表されるもようで、関心を集めている。
同社のVR・AR・AI を含む次世代製品領域を担当する事業部門「Reality Labs」セグメントの26年4~6月期売上高は4億3100万ドルで、前年同期の3億7000万ドルから16%増加した。営業損失は46億1900万ドルと前年同期の45億3000万ドルから拡大したが、これらの要因については、AIグラスの売上増加が寄与した一方で、VRのQuestヘッドセットの販売減少が影響したためという。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏によれば、グラス製品が高い成長率を示しているとし、EssilorLuxotticaとの協業によるMeta Glassesも初期販売は同社の想定を上回っていたと述べ、評価した。
なお、EssilorLuxotticaは、6月に材料工学と導波路技術を持つApplied Materials(AMAT)と共同開発契約を締結している。両社は、それぞれの知見と知的財産を融合し、AMATのシリコンバレーキャンパス内に新設した専用コラボレーションラボで共同研究を進めるとしており、グラスブランドメーカーが光学デバイスの基盤技術にまで踏み込んで開発体制を強化する姿勢が明らかになった。
Snapも「SPECS」のローンチを予告
Snapが開発に10年の歳月を注いだ「SPECS」
Snapは「AWE 2026」でARグラスの「SPECS」を発表している。発売は今秋で、詳細は9月16日のロサンゼルスでのローンチイベントで公開する。「現行のAIグラスより高機能で、VRヘッドセットより装着しやすい」という。シースルーのレンズにコンピュータを内蔵し、周囲の状況を認識して仕事・学習・エンターテインメントを支援するもので、10年以上の研究開発を経て製品化される。
SPECSは軽量なスタンドアロン構成で、TR90ポリマー製フレームを採用。独自のLCoS(Liquid Crystal on Silicon)ディスプレーにより51度の視野角と1600万色表示を実現し、ナノ構造導波路で現実空間の視認性を高めた。Snapdragonプロセッサーを2基搭載し、コンピュータービジョン処理とLens実行を分離することで、ハンドトラッキングの高速化と低遅延化を図ったという。街中でのナビゲーション、空間計測、作業支援など必要な場面でコンピューティングを呼び出す利用形態を想定し、ARを日常的な「社会的体験として位置づける」という。
XREAL、Android XR搭載「Project AURA」を発表
XREALは、Googleと共同開発する Android XR搭載デバイス「XREAL AURA」を発表し、今秋の発売を予告している。既存の XREAL Oneシリーズに続く新カテゴリーとして注目され、スマートグラスとスマートフォンの中間領域を狙う製品として位置づけている。長らく「Project AURA」として研究開発されてきたものだ。
AURAは光学シースルー方式の軽量グラスを採用し、Android XRと Geminiを基盤に空間体験を構築する。91gのフレームと70度の広視野角を組み合わせ、独自コプロセッサーや新設計導波路による低遅延処理、ハンドトラッキング、6DoF、マルチモーダルAIに対応するなど、空間コンピューティング向けの基盤を整えた。Android XR を採用することで、既存の Android アプリ資産を取り込みつつ、専用アプリの開発も進めているという。
Appleはいつ参入するのか
こうした流れの中で、やはり注目されるのがAppleの動向だ。同社が本格参入すれば、AI/ARグラス市場は一気に形成が進み、普及・拡大期への移行を後押しするとの見方が強い。「Apple Glass(仮)」の初公開は26年、発売が27年前後というタイムラインが有力視されているが、初代モデルはディスプレー非搭載のAIグラスとして登場する見通しだ。音声・カメラ・AIアシスタントを中心とした軽量構成を採用し、日常利用を前提としたモデルになるとみられる。
26年秋は、メタ、Snap、XREALが新シリーズを発表し、発売前ながら市場期待が高まっている。Appleの参入時期も具体化しつつあり、メガネ型デバイスが普及期へ向けて大きく動き始めた。日本でも成果が出始めており、規模こそ海外大手に比べれば小さいものの、国内企業による取り組みが具体化した点は、今後の市場拡大に向けたマイルストーンになったと言えるだろう。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子