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第155回

富士フイルム(株) FPD材料事業部事業部長 高機能材料開発本部次長 浜直樹氏


TACフィルム、16年上期は調整局面に
層間絶縁膜など「偏光板以外」に活路

2016/1/29

富士フイルム(株) FPD材料事業部事業部長 高機能材料開発本部次長 浜直樹氏
 富士フイルム(株)(東京都港区赤坂9-7-3、Tel.03-6271-3111)は、偏光板の主要部材であるポバールフィルムを保護し、位相差機能を付加するTACフィルムで世界トップシェアを誇る。なかでも視野角拡大機能付きTACのワイドビュー(WV)フィルムは、モニター向けで業界標準の地位を獲得している。近年は、フィルム製品に限らず、材料事業の総合化を進めているFPD材料事業部長の浜直樹氏に直近の景況感や取り組みなどを伺った。

―― 2015年を振り返って。
 浜 液晶パネルの在庫が積み上がっているため、非常に厳しい市況が続いている。一般的に、テレビのセットと液晶パネルの台数比率は、パネルがセットより10%多いくらいで需給バランスが取れるが、15年はこれが20%前後まで膨らんだ。中国メーカーが32インチパネルを過剰生産したことに加え、メキシコ政府の液晶テレビ普及政策で23.6インチが増えたことで、画面サイズの大型化トレンドにも歯止めがかかった。
 これにより、15年はフィルム製品の需要面積として前年比1~2%の増加を見込んでいたが、結果として横ばい~微減にとどまったとみている。
 加えて、当社にとってはモニターのIPS化が急速に進展したことも痛かった。当社はIPSにもZ-TACを供給しているが、Z-TACはTN用のWVフィルムよりも単価が安い。こうした要因が重なり、売り上げ計画は15年度当初の見込みからビハインドを余儀なくされている。

―― シェア構造に変化はありますか。
 浜 市況は厳しいが、逆にTAC内での当社のシェアは上昇傾向にあるとみている。テレビ用パネルでは当社製フィルムへの切り替えが進み始めており、加えて台湾や韓国に比べ依然として高い稼働率を維持している中国メーカー向けにシェアが高いことも奏功している。
 加えて、最近のパネルメーカーは、フィルム製品に対する性能や品質面への要求よりも、安定供給を重視しつつある。汎用化が進んだテレビ用では特にそうした傾向が強い。他の材料を含めて安定供給ができることも当社の支持につながっていると思う。

―― 16年の市況をどう見ていますか。
 浜 正念場であり、サバイバルゲームが間違いなく激しさを増す。スマートフォン(スマホ)やタブレットPCなど既存のアプリケーションが成熟するのに加え、テレビも上期中は調整局面とみている。16年のトータルのフィルム製品の需要面積は、15年に続き横ばい~マイナス成長と予測している。

―― TACフィルムの薄型化の状況は。
 浜 液晶パネルのベンディングを防ぐため、ガラス基板の薄型化に伴いフィルムも薄くなっている。テレビ用は主流が60μmへ移行し、IPS用の一部では40μmや35μmも供給している。40μmへの移行が今後も進むとみているが、反射防止(AR/LR)コートを施すなら60μmのほうが塗工しやすいという側面があるため、移行のペースは緩やかになりそうだ。
 モニター用は80μmが依然として主流だが、WVレスのタイプは40μmまで薄くなっている。ノートPC用は40μmが主流だ。

―― スマホ用のトレンドについて。
 浜 かつては40μmがメーンだったが、筐体の薄型化を実現するため、現在は25μmまたは20μmにシフトしている。
 加えて、スマホへの有機EL搭載ニーズが立ち上がってきたため、この動向を注視している。液晶は偏光板を2枚使うが、有機ELは1枚。材料は大きく変わらないものの、有機EL用は付加価値が高く、さらに薄くするためにフィルムの工法を見直す必要があるかもしれない。
 また、有機ELのフレキシブル化に伴い、ガラスよりもフィルムでタッチ機能を実現したいという話が必ず出てくると考えている。ここで当社にどのようなチャンスがあるか、周辺材料も含めて準備を進めている。

―― TACフィルム以外のFPD材料にも力を入れていますね。
 浜 LTPSのインセル材料として層間絶縁膜の採用が拡大している。高感度/高透明フォトレジストをベースにした液体材料で、パネルの開口率拡大と透過率アップに寄与するほか、露光時間を短縮してタクトを上げられるという利点がある。15年から高精細の中小型液晶に本格的に採用されており、16年はある程度まとまった量が出荷できる見通しが立っている。
 4K/8Kパネルで問題になっているギラつきを解消するクリアタイプの反射防止フィルムの提供も開始した。一部のテレビメーカーのハイエンド機種に採用されている。また、反射防止用途や有機EL用途としてのコーティングタイプの2分のλ(ラムダ)および4分のλ板、新たなタッチパネル材料の供給も開始した。
 さらに、カラーフィルター(CF)ビジネスに関しては、パネルメーカーのCF内製化に対応して、染料のみを供給するビジネス形態にシフトしたことで、しっかり利益が出せている。

―― 新材料が目白押しですね。
 浜 活路は偏光板以外にあると考えており、新製品をコンスタントに出していくことが不可欠だ。加えて、近年は偏光板メーカー・パネルメーカーに提案するだけでなく、モジュールメーカー・セットメーカーにも提案し、製品企画の段階から当社材料の採用を指定していただく努力が不可欠になってきた。この活動を円滑に行うため、16年前半からは米国に駐在スタッフを置く予定。新材料は採用までに3年以上かかるケースもある。初期の段階での陣取りが従来以上に重要だと認識している。

(聞き手・編集長 津村明宏)
(本紙2016年1月28日号6面 掲載)

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