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第253回

台湾工業技術研究院(ITRI) 電子與光電系統研究所 所長 呉志毅氏


台湾のエレキ技術開発を牽引
マイクロLEDの将来性に期待

2017/12/22

台湾工業技術研究院(ITRI) 電子與光電系統研究所 所長 呉志毅氏
―― まずはご略歴から。
 チャン マレーシアで生まれ育ち、コーネル大の大学院で博士号を取得した。専攻は機械工学、副専攻は高分子だ。教授について射出成型技術を研究したのち、1990年代には射出成型機のソフトウエア開発に従事した。20年ほど前に台湾グリーンポイント(現・ジェイビル傘下)に入社し、20年間CEOを務めた。同社はモールディング加工業でスタートし、売り上げが20年で100倍になった。プラスチックやメタル、セラミック、ガラスなど異素材同士を積層加工する事業を展開していた。
 同社ではやるべきことをやり尽くした、と感じたことからCEOを退任し、IoTやスマートメカトロニクス、プリンテッドエレクトロニクス分野の起業を考えていたところ、TPK創業者のマイケル・チャン氏に会い、今後の企業ビジョンと私の関心とが合致したことで、CEOとして招いていただいた。

―― 貴社にとって17年はどのような年でしたか。
 チャン 一言でいうと、良い年になった。業績としては16年が一番の底となり、17年は回復基調に乗ることができた。有機ELディスプレーが台頭したことで外付けタッチパネルの受注が少し戻ったこと、新事業のフォースタッチ製品が立ち上がったことが寄与した。
 過去3年間は、タッチパネルのエンベデッド化や、さらなる起爆剤になると期待されていたウィンドウズ10搭載のノートPCの失速、日本メーカーによるロール・ツー・ロール生産のフィルムタッチセンサー台頭による打撃が大きく、非常に苦しい時期が続いた。この間は、フォックスコンから招いた前CEOが徹底的なコストカットを断行、これにより身軽になったことで17年はやっと落ち着くことができ、次の目標に向かってテイク・オフできる体制が整ったところだ。

―― 18年の展望を。
 チャン 当社の冬の時代は終わり、これからは夢に向かって歩き出すことができるよう、CEOとして導いていくことが使命だ。18年の業績は17年と同程度だが、新製品や新事業の展開をより活発化させる。お客様への提案を強化するだけでなく、投資も行う。既存のコア製品への投資も再開する。
 新製品として、「ストレッチタッチ」を展開していく。すでに商標登録しており、その名のとおり折り曲げ可能なタッチパネルだ。ITOではなく銀ナノワイヤー(AgNW)を用いてタッチパネル化している。フォルダブルディスプレーを手がけるメーカーには、すべて同製品を提案していく。来年1月に開催されるCESでは、銀メタルメッシュセンサーを搭載したフォルダブルディスプレーがサンプル展示される予定で、実に多くのメーカーが同ディスプレーに着手している。このため、すでに当社製品への引き合いも多い。

―― AgNWの展開を。
 チャン 次の戦略製品としてAgNWを掲げている。以前から提携関係にあった、同技術を持つ米カンブリオスやInnovaを子会社化しており、これらの技術を用いて製品展開していく。
 偶然ではあるが、カンブリオスのAgNWについては私も関心を寄せていた。しかし以前はワイヤー径が42nmもあり、ヘイズがひどく画面の乳白色化やマイグレーションなど、銀の物性にまつわる課題が多いように感じた。現在はこれら課題について、一つひとつ物理・化学的に解明して、対応済みだ。当社の次世代を担う技術として大きな投資をした成果であり、他社では同じようにAgNWを扱えないだろう。
 新製品として展開する第6世代品(G6)のワイヤー径は、17nmまで細くなった。これを用いたタッチパネルは、光学特性はITOの方が10%ほど良好だが、低抵抗でペン入力ができ、曲げても断線しないなどの利点がそれを補い、すでに多くの引き合いがある。18年内にはワイヤー径10nmのG7を発表し、19年には製品化する計画だ。すべての特性においてITOを完全に引き離す製品となる。

―― AgNWでは、これまでとは大きく異なるビジネスが考えられますね。
 チャン 来るべき5G通信では、映画は数秒でダウンロードできるようになり、より大きな画面が求められる。4G通信によりスマホが普及したような現象が、5G通信とフォルダブルでも起こるだろう。市場として中国にフォーカスしている。5G通信への投資も活発で、新しいものへの着手も決断が早く、スピード感が他とは違うからだ。
 ディスプレー以外の展開では車載、医療分野が視野にある。例えば車では前窓ガラスに曇り止めとして搭載したり、医療では生体センサーなどで活用可能だ。また、衣服にコーティングする技術もあり、テキスタイル用途でもビジョンがある。AgNW製品はタッチパネルだけとしての役割を超え、当社を新しい領域へと導くだろう。

―― マイクロLEDに関しては11月3日に台北でセミナーを開催しましたね。
 呉 「2017マイクロLED国際シンポジウム」を開催し、300人以上に参加いただいた。6000ppiのマイクロLEDアレイを開発したVueREAL、高解像技術を持つVerLASE、VR用ガラス基板を持つコーニング、LEDの検査&リペア技術を手がける東レエンジニアリング、ナノレベル量子ドット材料を研究しているNSマテリアルズなどが講演した。日本や韓国からも数多く参加いただき、今後一緒に開発したいという企業もあった。
 マイクロLEDは、ここ6~7年で登場してきたばかりの技術であり、すでに20年以上の歴史を経て実用化に入った有機ELに比べれば、まだまだ歴史が浅い。だが、LEDは「光源」と「画素」の両方に使える完成度の高いデバイスであり、寿命は有機ELをはるかに凌ぐ。今後の課題は、コストをどう下げ、量産技術をいかに素早く確立するかだが、両方を研究してきた技術者として、より大きな将来性を感じるのはマイクロLEDだ。

―― 研究開発費や運営費をどのように確保していますか。
 呉 政府からの支援が2に対し、産業界からの支援が1という割合だ。政府支援については、単なる予算配分ではなく、日本の「競争的資金制度」と同様、申請した提案が採択されて初めて配分される。一方、産業界からの支援についても、委託・共同研究と技術移転ライセンシングの2つに分けられる。
 将来的には、政府と産業界の比率を1対1にしたい。現在、台湾以外の海外から得ている研究資金は全体の30%だが、これをもっと増やしていきたい。ITRIの技術を活用していただき、台湾で生産する、あるいは台湾で産業化するといった国際連携案件を積み重ねていくことで台湾経済の発展を促進したい。

―― 今後どのように台湾エレクトロニクス業界を牽引していきたいですか。
 呉 台湾の半導体産業は確かに世界トップレベルの水準まで量産技術を磨いてきたが、これまではデバイスレベルの話が中心で、いずれは中国や東南アジアが追い付いてくるだろう。こうしたデバイスレベルの話から脱却し、ハード、ソフト、サービスまで融合できるシステムレベルに引き上げたい。このためには異分野の融合が不可欠であり、6つのコア基盤研究所を持つITRIならこの先導役になれるはずだ。

―― 最後に日本に対する期待を。
 呉 日本は物理学や材料技術などの基礎研究に優れ、半導体サプライチェーンにおいて、台湾も材料や製造装置の大半を日本に頼っている。CMOSイメージセンサーやNANDフラッシュなど特定のデバイスでは現在も圧倒的に強い。半導体の微細化はどこかで必ず物理限界に突き当たるが、これを打破するには新材料の開発やデバイス構造の設計や想像力を駆使したイノベーションが不可欠であり、日本の基礎研究が大いに生きる分野が数多くある。半導体やFPD産業では、成熟した分野で台湾や韓国、中国に追い付かれたのかもしれないが、ロボットやAIなど先端分野の研究を継続しており、この分野でぜひ台湾との連携を深めてほしい。日本の先端技術の開発成果をITRIを通じて社会に実装するという連携モデルを是非とも実現してみたい。

(聞き手・編集長 津村明宏)
(本紙2017年12月21日号1面 掲載)

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