電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第341回

沖電線(株) 代表取締役社長 小林一成氏


IoTを大きなチャンスに
高付加価値化を徹底追求

2019/9/20

沖電線(株) 代表取締役社長 小林一成氏
 沖電線(株)(OKI電線、川崎市中原区下小田中2-12-8、Tel.044-766-3171)は、2018年4月1日付でOKIの完全子会社となり、同日付で新社長に長野OKI前社長の小林一成氏が就任した。それから約1年半が経過した現在、米中貿易摩擦を背景に想定外のビジネス環境が襲い、厳しい船出となった。しかしながら、同社が狙うターゲット市場はロボットや車載、医療など、注目の成長産業が主軸だ。19年度(20年3月期)下期に向けて、主力の電線、FPC(フレキシブルプリント配線板)、電極線の3事業とともに、OKI本体と連動するEMS(電子機器の設計・製造受託サービス)事業も含め、今後の成長戦略を代表取締役社長の小林一成氏に伺った。

―― 18年度業績から。
 小林 売上高は17年度比5%減の120億円、上場廃止で単純比較はできないものの、営業利益は5億円と大きく減少した。就任1年目で通期計画が未達となり残念だ。

―― 減収減益だが、実質的に17年度と同等だ。
 小林 18年4~6月期はまだ絶好調で、このときの業績が通期実績を救済した。失速したのは7~9月期から。すでに19年度も4~6月期を終え、7~9月期に突入したが、具体的な景気回復の糸口は見えない。

―― 19年度通期計画と成長戦略は。
 小林 売上高、営業利益ともに、18年度と同等レベルを狙う。19年度は我慢の年と位置づけ、企業体質の足腰強化を徹底させる。品質や信頼性の向上はもちろんのこと、コストダウンにも挑む。新製品の開発にも拍車をかける。幸い、当社のターゲット市場はFAを核とする広義の意味でのロボット用途。期待の領域のため、中長期視野に立てば前途有望な市場で、必ず回復期は訪れる。そのときの大きな飛躍を目指し、現在は足腰の強化に注力する。

―― 具体的な取り組みについて。まずは電線・ケーブル事業から。
 小林 当社総売り上げの60%を占める。得意とする機器用電線の市場で付加価値を高めていく。医療や車載の分野にも注力したい。また、工場のIoT化に必須なマシンビジョン用のケーブルも有望だ。

―― 生産現場のIoT化は無線が主流になるのでは。
 小林 有線によるセンシングデータの送受信は、無線方式と比較して高速性・確実性に優れていると言われ、今後も不可欠な手法。無線と有線は各々の特徴を活かして併用され、ビジネスチャンスは大きい。

―― 電線やケーブルへの顧客ニーズとは。
 小林 大きくは可動耐久性と柔軟性であろう。ご家庭で使用しているヘアドライヤーを思い出してほしい。何度も出したりしまったりしているうちに、電源ケーブルに妙なクセが付いていないだろうか。丸まってしまったり、へたってしまったり。これらが断線を誘発する。生産ラインでは、同じケーブルを数千万~数億回、繰り返し使用する。常に平常どおり可動し、ロボットの動きに対して柔軟で、妙なクセのつかない可動耐久性が不可欠となる。この高付加価値こそが電線事業の原点となる。

―― FPC事業については。
 小林 社内用語だが「新奇品」の創出に努めている。いわゆる高付加価値品のことだ。大電流対応のパワーFPCやディスプレー系をにらんだ向こう側が透けて見える透明FPC、ウエアラブル対応の伸縮可能なFPCなどだ。伸縮FPCは洗濯も可能だ。長さ100mまで提供可能な長尺FPCでは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の人工衛星で衛星本体と太陽光発電パネルや観測機器との接続に採用された。少量多品種に応えるだけのFPC事業では収益が生まれない。電線事業と同様、高付加価値の新商品開発が不可欠となる。

―― 電極線事業は。
 小林 これはワイヤーカット放電加工機において、放電現象を起こすための電極として使用するワイヤーのこと。消耗品だが、顧客ニーズに応えるビジネスを展開中だ。高速切断やカット面の品質アップを追求している。消耗品といえども、決して安売り合戦には参入しない。

―― 最後にEMS事業について。
 小林 営業協力と商品ラインアップの拡充で有効に機能している。前者はOKI―EMSグループ各社との営業協力で、互いにビジネス関係を構築できていない顧客を呼び込むことができる。後者は、リジッド基板メーカーのOKIプリンテッドサーキットやOKIサーキットテクノロジーと当社のFPCが融合することで、効果を発揮する。

―― 設備投資について。
 小林 現在、電線の生産拠点は岡谷工場(長野県岡谷市)と群馬工場(群馬県伊勢崎市)。その群馬工場を中心に16~18年度に年間約10億円の投資を継続した。トータル30億円を投じて、群馬工場の機器用電線の生産能力を岡谷工場と同等のレベルに引き上げ、両工場合算での総生産能力は15年度比で80%アップした。19年度は7億円の投資を計画し、ケーブルの可動試験機など、開発・試験設備の拡充に努める。需要が回復次第、アグレッシブにビジネスを展開することができる。

(聞き手・松下晋司記者)
(本紙2019年9月19日号10面 掲載)

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