電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第334回

飛ぶクルマ、本格テイクオフはいつか


23年から事業化、有人飛行試験も開始

2020/1/24

 ドローンや自動運転の延長線上にあり、両者を組み合わせたとも言える有力な用途が「空飛ぶクルマ」だ。空飛ぶクルマと言えば、ひと昔前ならば荒唐無稽の感が否めなかったが、ドローン物流サービスが一部実用化され、自動運転の実証実験が進むなか、現実味が帯びてきているのも事実。世界的には2023年の事業化が叫ばれており、経済産業省が18年に世界で初めてまとめたロードマップにおいても23年を目標に事業をスタートさせ、30年代から実用化をさらに拡大させていくと示されている。

 金融大手モルガン・スタンレーによると、空飛ぶクルマ世界市場は40年までに1兆5000億ドル(約170兆円)に達するという。空飛ぶクルマの動きを追ってみた。

 空飛ぶクルマは、正式には「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」と呼ばれる。特徴は電動化、自動化、垂直離着陸の3つ。電動化により低騒音、自動化により簡単な運転やパイロットレス化を実現する。垂直離着陸により大規模空港を不要とし、点から点への高速の移動を可能とする。

 また、電動化と自動化により機体コストと運搬コストを低減し、将来的には機体コストを高級車以下、運搬コストをタクシー以下にそれぞれ低減できると期待されている。

空飛ぶクルマのイメージ(出典:経済産業省ウェブサイト)
空飛ぶクルマのイメージ
(出典:経済産業省ウェブサイト)
 活用分野は、タクシーサービス、離島や山間部の新たな移動手段、災害時の救急搬送、観光、物流など様々な用途が考えられている。将来的には各家庭において自動車に代わる移動手段となることも期待される。

機体は大型と小型に二極化

 参入メーカーは日本のスカイドライブ、北米のウーバー・テクノロジーズ、キティホークおよびボーイング、フランスのエアバス、ドイツのボロコプター、中国のイーハンなど。スタートアップをはじめ、航空業、ライドシェアサービスなど顔ぶれは様々だ。

 機体のタイプは大型と小型の大きく2つに分けられる。大型は固定翼で長距離飛べるタイプ。具体的には、乗員5~6人、飛行距離100km以上、サイズ10m程度、価格1億円以上、重量1t以上だ。前述のメーカーではウーバー、キティホーク、ボーイング、エアバスなどが開発を進めている。

 一方、小型は回転翼で短距離飛ぶタイプで、乗員1~2人、飛行距離50km以下、サイズ5m程度、重量500kg以下だ。メーカーはスカイドライブ、キティホーク、ボロコプター、イーハンなどが該当する。

スカイドライブが有人飛行試験

 スカイドライブは、航空機・ドローン・自動車のエンジニアが集う有志団体「CARTIVATOR」のメンバーを中心に発足した、空飛ぶクルマの開発・製造・販売を行うスタートアップ。これまで第三者割当増資や地方自治体の助成金などで20億円規模を確保し、19年12月から国内初となる有人飛行試験を開始した。場所は豊田市の同社 屋内飛行試験場。主に飛行高度・形態、フェール状態、緊急着陸といった様々なケースを策定し、徐々に複雑な動作・飛行をさせながら、安全性検証・操作確認・飛行実績を重ねていく。当然、屋外での飛行試験も視野に入っている。

 今後、23年に事業化し、26年に量産開始、30年に自動運転を含むさらなる事業拡大を計画している。また、東京・大阪の湾岸エリアにおける有人飛行ルート案も示している。

 ウーバーは自動車でライドシェアサービスを行っているが、空飛ぶクルマにおいても「ウーバーエア」という同様のサービスを展開していく考え。これまでパートナー企業などと機体の開発を進めてきたが、今回、米ラスベガスで開催された「Consumer Electronics Show(CES)2020」で韓国・現代自動車と機体の開発を含めた提携を行っていくことを明らかにした。ブルームバーグによると空飛ぶクルマのコンセプトモデルも発表しており、最大時速約322kmで、4人の乗員を運ぶことができるという。

 ウーバーは、23年に北米など複数の都市部で有人のライドシェアサービスをスタートしていく計画だ。

 スタートアップのキティホークは、これまでに数多くの飛行試験を実施している。同社ホームページにはコンセプトモデル「Heaviside」の動画もアップしており、「小型、高速に対応した。静粛性はヘリコプターの100倍で、地上の人は飛んでいるのに気付かない」とアピールしている。また、Heavisideはサンノゼからサンフランシスコまで15分で飛行し、燃費も自動車の半分で済むという。なお、キティホークはこれまでに「Flyer」「Cora」といったコンセプトモデルも開発・公開している。

 ボーイングは空飛ぶクルマに向けた新部門「ボーイング・ネクスト(Boeing NeXt)」を展開している。機体は子会社のオーロラ・フライト・サイエンシズが開発している。19年1月には米バージニア州で飛行試験を実施し、世界中の注目を集めた。機体サイズは全長9.14m、全幅8.53m。効率の高い推進システムと翼システムにより、最大80kmの航続距離を実現できるという。なお、同社はキティホークおよびポルシェそれぞれと共同開発を実施している。


ロードマップ、3項目で目標設定

 経済産業省と国土交通省は、18年8月から「空の移動革命に向けた官民協議会」で議論を重ね、同年12月20日にロードマップを策定した。このロードマップには19年から飛行試験や実証実験などを実施し、20年代半ば、特に23年を目標に事業化し、30年代から実用化をさらに拡大させていくことが示されている。また、23年の事業化に先立って、22年度をめどに有人地帯における目視外飛行も盛り込まれている。

 ロードマップでは、(1)事業者による利活用の目標、(2)制度や体制の整備、(3)機体の技術開発の3項目についてそれぞれ目標を示している。

 (1)では、23年以降に「物の移動」「地方での人の移動」「都市での人の移動」の順番で実用化を拡大させていく。(2)では、新ビジネスモデルに応じた運送・使用事業の制度見直し、技術開発に応じた安全性基準・審査方法の見直し、事業の発展を見越した空域・電波利用環境の整備、総合的な運航管理サービスの提供などが盛り込まれている。(3)では、安全性・信頼性のさらなる向上、電池・モーター・ハイブリッド・軽量化などの技術開発による航続距離の延長、回転翼の騒音を低減させる技術開発などによる静粛性の向上などが挙げられている。

ドローンのレベル4実現がカギ

 先述のように実用化に向けては、制度・体制の整備、機体の技術開発など取り組むべき項目が多い。一方、これら以外にも指摘されているのがドローンのレベル4の実現だ。

 これは有人地帯における目視外飛行を意味するが、まずドローンで先行して達成する必要がある。日本政府は22年度に実施することを決めているが、登録制度、機体認証、操縦・事業者ライセンスなどの整備、保険制度の充実化、機体の衝突回避など、取り組むことは少なくない。

 先述のように空飛ぶクルマも同年度から有人地帯における目視外飛行を実現するとしているが、いささか性急な感は否めない。現在、ドローンはレベル4の前段階である、無人地帯における目視外飛行(レベル3)を実施している段階だ。

次世代蓄電池が不可欠に

 空飛ぶクルマの実現に不可欠なのが、全固体電池を含む次世代蓄電池だ。現在、最高性能の蓄電池はリチウムイオン電池(LiB)だが、空飛ぶクルマで長い航続距離を飛ぶにはエネルギー密度が足りないと言われている。

 事実、次世代蓄電池を開発する複数の蓄電池メーカーが空飛ぶクルマのプロジェクトに参画している。例えば、全固体電池を開発する米ニューヨーク州ビンガムトンのCharge CCCV(C4V)は、共同開発プロジェクトに参画している。同社 CEOのシャイレシュ・ウプレティ氏は、「マンハッタン中心部からビンガムトンまで自動車で3時間以上かかるが、空飛ぶクルマは1時間弱に短縮できる」と語る。

 同社はニューヨーク州、オーストラリア・タウンズビル、独リストロムの合計3カ所で生産工場を構築する計画を進めている。ニューヨーク州の生産工場は19年末から稼働を開始したもよう。生産能力は年産1.2GWhで、最終的には同15GWhにまで増強していく。

 また、中国のCATLは中国政府主導のプロジェクトに参画し、半導体系全固体電池を提供している。すでに機体を開発し、有人飛行を実施しているという話もある。

 一方、リチウム硫黄電池では英オックスフォードシャー州のOXIS Energyが空飛ぶクルマ、ドローン、高高度疑似衛星(HAPS)といった飛行体に展開していく考えだ。すでにリチウム硫黄電池のセル工場をブラジルのミナスジェライス州ベロ・オリゾンテ、材料工場を英ウェールズ州ポート・タルボットにそれぞれ建設する計画を進めている。セル工場のフェーズ1投資は22年までに完了する予定だ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

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