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第359回

日亜化学工業(株) 専務取締役 第二部門 部門長 岸明人氏


厳しい市況下でプラス成長目指す
照明・車載は高付加価値で差別化

2020/1/31

日亜化学工業(株) 専務取締役 第二部門 部門長 岸明人氏
 日亜化学工業(株)(徳島県阿南市上中町岡491、Tel.0884-22-2311)は、高輝度LEDで15%、GaN系半導体レーザー(LD)で95%の世界トップシェア(2017年、同社推定)を持つ。液晶バックライト(BL)や照明での競争激化、米中貿易摩擦に伴う市場減速などの逆風下で、回復期に着実に業績拡大を果たす差別化技術の開発に注力している。光半導体事業を担当する第二部門の部門長である専務取締役の岸明人氏に話を聞いた。

 ―19年度(1~12月)の業績動向から。
 岸 光半導体事業の売上高は、前年度比約5%減の2800億円弱と減収を余儀なくされた。米中貿易摩擦で自動車市場が減速したことに加え、液晶BLはスマートフォン(スマホ)の有機ELシフトの影響も受けた。車載LEDは生産台数の減少と在庫調整もあり、伸びなかった。成長分野と期待していたLDも主力のプロジェクターが中国市場において不振で、予想に反し伸び悩んだ。用途別販売比率は、液晶BL33%、照明16%、車載27%、LD11%、その他13%だ。

―― 20年度の見通しは。
 岸 売上高2850億円を計画しており、厳しい市況だがプラス成長を目指す。BLはスマホ分野で有機EL化による比率低下を予測している。照明は競争激化が継続するため比率低下が続く。車載、LDは不透明感はあるものの市場回復に期待している。一方、その他のうちスマホ用フラッシュは量産が安定してきたことから大手顧客内のシェアが向上しており、着実に売り上げを伸ばせる製品になってきている。20年はさらに成長を目指す。

―― BLは線光源、面光源を投入しました。
 岸 ボリュームゾーンであるサイドビュー型の点光源は年々競争が激化している。そこで差別化製品である線光源を18年から量産化し、スマホやタブレット向けに供給している。0.3mmと薄く狭額縁を実現できることに加え、点光源の課題だった薄型化による輝度低下を補えるのが特徴だ。
 また、狭額縁、薄型に加えてハイダイナミックレンジ、高コントラスト、低消費電力を実現可能なモジュールタイプの面光源を19年に投入し、大手メーカーの液晶モニターに採用された。85型の8Kモニターでは、有機EL比で4倍ものピーク輝度を実現している。20年にはノートPC向けに拡販を進める。

―― 照明は光の質への転換を進めています。
 岸 照明用パッケージは19年現在で230ルーメン/Wと世界最高効率をキープしているが、海外製品との競争激化で性能だけでは差別化できなくなっており、「光の質」への転換を進めている。演色性に優れ、自然な光を再現できる「Optisolis」はドイツの美術館から採用を獲得した。農業用LEDは野菜工場への採用が進んでいる。さらに、目の疲労軽減や作業効率向上に効果を発揮する特定波長を放つLEDを開発しており、照明灯具メーカーや大学と実証実験を行っている。一般照明においてもこれまで演色性は重視されてこなかったため、高演色化による高付加価値化を打ち出していく。このほか、照明器具を非常に薄型かつ軽量にできるLED光源を開発し、協業した建材メーカーが19年に発売した。簡易に取り付け可能なため、施工時間を大幅に短縮できる。

―― 車載用はインテリジェントヘッドライト用の開発に注力しています。
 岸 19年度はヘッドライトへの採用が進んだものの、生産台数減の影響を受けた。ヘッドライトは近年、照射エリアを最適化して照らしたい場所に最適な光を届けるインテリジェント化が進み、将来的には標準搭載されていくと予想される。19年には独インフィニオンと共同で、1万6000個ものマイクロLEDを搭載したインテリジェントヘッドライトの開発をスタートした。今後は自動運転中であることを外部に知らせるコミュニケーションランプなど、外装表示系でもLEDの需要が高まると予想され、期待している。

―― LDは高成長を計画していましたが、届きませんでした。
プロジェクター用のLDモジュール
プロジェクター用のLDモジュール
 岸 19年度の売上高は310億円を見込んでおり、前年度比ではプラス成長を確保したものの、年初計画の390億円には及ばない見通しだ。20年度には500億円の目標を掲げていたが、先送りを余儀なくされている。これは成長エンジンであるプロジェクターが低成長にとどまったことが背景にある。中国の文教用途で成長していたが、液晶電子黒板との価格競争でシェアを奪われた。
 ただ、中長期ではプロジェクター用は拡大していくと予想している。車載用や露光機などの産業用も堅調だ。車載用は欧州のアディショナルハイビームに採用されているが、将来的にはロー・ハイビームへの採用が進むと見込んでいる。
 このほか、今後の成長が期待される用途としてレーザーテレビやウエアラブルが挙げられる。また産業用では、LDの高出力化の進展で、より様々な加工用途への展開が期待できる。

―― LDの高効率化は。
 岸 青色LDは19年に量子効率43%品を量産化した。22年には量産レベルで48%の実現を目指している。緑色LDは18年に量子効率17%品を量産化し、22年に21%品の量産を目標としている。どちらも用途拡大に向けて、さらなる効率向上を図っていく。

―― 本社工場で新LD生産棟を稼働させました。
 岸 19年1月末に竣工し、2月から生産設備の導入を開始した。品質検証と顧客の承認取得を経て、20年2月から量産出荷を開始する。新棟は8階建てで、生産レイアウト変更に対応しやすいクリーンルームとしている。生産設備を順次導入して規模を拡張させていく方針で、全フロアを埋めると生産能力は17年比で5倍以上になる見込みだ。

―― 鳴門工場でも新棟を建設中です。
 岸 20年5月末に竣工し、クリーンルームの整備を経て7月から生産設備の導入開始を予定している。BL用面光源などモジュール製品を中心に生産する。建屋は地上6階建ての延べ床面積約4万5000m²で、当社内では辰巳工場のLEDパッケージ生産棟に次ぐ2番目の規模だ。面光源などLEDの高付加価値化を実現する応用製品の生産棟として、順次生産規模を拡張していく。

―― 光半導体事業の設備投資計画は。
 岸 19年度の設備投資額は約510億円で、LED・LDの生産能力増強や新製品開発に充当した。ここ数年は500億円を超える投資を続けてきたが、市況が良くないことを踏まえて20年度は約300億円とやや抑制する計画だ。

(聞き手・中村剛記者)
(本紙2020年1月30日号1面 掲載)

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