電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第349回

自動車「100年に一度の大変革期」で進む垣根を超えたコラボレーション


周辺技術も含めた一体化で未来の新規デバイス創造へ

2020/5/8

 世界におけるエコカー需要やIoT、AI、5Gなど革新的な技術革新がすさまじい勢いで進むなか、自動車業界においてもこれまでのエンジン主体の自動車から、「電動化」「自動化」「コネクテッド」「シェアリング」などへと急速に時流は変化し、「100年に一度の大変革期」と自動車メーカー各社が警笛を鳴らす状況を迎えている。こうしたなか、各自動車メーカーが競合として意識すべき対象が、各自動車メーカー同士ではなく、米巨大IT企業「GAFA」などITを主軸としたグループ、ソーラーパネルなども含む新たな発想を加味した電気自動車で自動走行を実現しようとするテスラやLightyearなどの新興勢力などへと急激にシフトしている。

 実際に、日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車は、「『自動車をつくる会社』から『モビリティーカンパニー』にモデルチェンジする」と2018年に宣言。その後の同社展示ブースに掲げられる展示パネルでは「車・路とつながる、社会・街とつながる、人とつながる」という未来のスマートモビリティー社会を描く。手を組む相手も、19年のソフトバンクとの共同出資会社「MONET」事業の開始、2020年3月にはNTTと業務資本提携に踏み出すなど、発想の主軸が従来の垂直統合によるハードを主軸とした一貫体制から、「ソフトやサービスまで含めた人に役立つ、社会に便利なサービス提供を行うスマートモビリティー社会の実現、その中にある車」へと確実に変化していることがうかがえる。

トヨタ自動車はCES2020で「コネクティッド・シティ」プロジェクト概要を発表(トヨタ自動車のプレスリリースより)
トヨタ自動車はCES2020で「コネクティッド・
シティ」プロジェクト概要を発表
(トヨタ自動車のプレスリリースより)
 20年1月のCES2020においても、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」プロジェクトの一環として、20年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本(株)東富士工場(静岡県裾野市)の跡地利用による「Woven City(ウーブン・シティー)」でスマートシティー実現に向けた実証を進めていく方向性を示してみせた。

 しかし、これらの社会はハードウエアの技術革新なくして成し得ない。トヨタ自動車は、電子デバイス・電子部品を主軸とするモノづくりのR&Dおよび生産の旗振りをティア1に託し、20年4月からトヨタ・デンソー連合の「MIRISE Technologies」が始動した。そして大局から見た印象では、各自動車メーカーのグループ企業各社も親方日の丸で受け身の体制では生き残れないという危機感が高まっている。

ティア1は周辺部品各社とのコラボレーション、新規創造に期待

第46回東京モーターショー2019で披露された電動化ビジョンを象徴するレクサス「LF-30」
第46回東京モーターショー2019で披露された
電動化ビジョンを象徴するレクサス「LF-30」
 足元は新型コロナウイルスで自動車需要の冷え込み懸念などが話題の中心になっているが、筆者自身の新型コロナ自粛体制前までの取材活動を振り返ると、19年内は各自動車関連技術にまつわる展示会やセミナー、19年秋口から20年初頭にかけては、トヨタ自動車グループを中心とするグループ企業各社への訪問取材などにあった。それらの取材活動を通じて感じたことは、自動車業界関連各社が100年に一度の大変革期にある危機感を抱き、自ら新規創造を模索し、周辺部品各社とのコラボレーションによる新規開発推進に意欲的であるということだった。各社インタビューから聞かれたコメントの数々を振り返りながら、新型コロナ後に広がる世界に思いを馳せてみよう。

“チーム九州”で魅力的なクルマ作りを志向するトヨタ自動車九州

 たとえば、レクサス車の主力生産拠点の一角を担うトヨタ自動車九州(株)は、18年10月に次世代事業戦略室を立ち上げ、19年1月から次世代事業室へと名称変更し本格始動。その目的はこうだった。

 「トヨタ自動車九州の強みを生かしたテーマで何がやれるか、地域と連携しながら勉強している段階だ。直近では、19年6月に福岡市天神の商業施設『イムズ』内にコワーキングスペース『GarrawayF(ギャラウェイ エフ)』を開設し、異業種の仲間づくりを進めながら、未来のモノづくりやモビリティーを一緒に考えるプログラムを開始し、種々実証を進めている」(取締役副社長 馬場貞仁氏)

 そして、産官学各社との交流の必要性、共に歩む姿勢を示唆している。

 「自動車生産は当社の力だけでは成し得ない。九州現地のティア1や部品メーカーなど仕入先57社と『九愛会』を組織して品質、物流、人など課題をお互いに議論したり、行政・研究機関や地元ITベンチャーとの交流を通じ、九州の力もバネにしながら魅力的なクルマ作りを志向している。まさに『チーム九州』だ。たとえば九州にはスタートアップ企業が育っているが、どこでその技術を活かせるのか見えていない企業も多い。そこで、地元のスタートアップ企業6~7社と当社の技術員が交流し、商機を見出したり、当社の技術員はそのスピード感と発想の豊かさに刺激を受けたりとWinWinの関係が構築できたりしている」(馬場氏)

 一方、ティア1各社も同様に、新たな使命への強い意識と、各社とのコラボレーションの必要性を力説する。

周辺技術とともに課題克服の必要性を説くMIRISE Technologies

 “世界のモビリティーに革新を与える半導体開発を行い、未来をもっと進化・向上させていきたい”という使命・熱い思いを、未来とRISE(上昇)を組み合わせた新会社名に込め、トヨタ自動車とデンソーの半導体先端技術研究開発を結集して誕生した「MIRISE Technologies」。MIRISE Technologies始動前の20年1月に、(株)デンソー先端技術研究所の技術開発センター担当部長の篠島靖氏(肩書は訪問当時)、および技術企画部半導体新会社準備室長(工学博士)の岩城隆雄氏(肩書は訪問当時)を訪問した折、新会社の使命および見定めたターゲットをこう語っていた。

 「新会社の使命は『先進半導体エレクトロニクス技術でCASEが進展するモビリティー社会に新しい価値を創り出す』ことにある。『CASE』のうち『A(自動運転)向け』に『センサー』『SoC』、『E(電動化)』向けで『パワーデバイス』を主なターゲットに見定めた」(篠島氏)

 そして、各社とのコラボレーションの必要性をこう説いている。SoCで手がけることについて、の問いかけに対し、「最先端の半導体製造プロセスが必要なので、パートナーの選定が重要となる。自動車メーカー・部品メーカーの立場から見た場合、将来のシステムを考えてディープラーニングに向けたこういうアルゴリズムが必要で、どの半導体メーカーのSoCでならば動くのか、といったことを先行開発段階から半導体ベンダーと一緒に考えていきたい。そうすることで、SoC完成品がトヨタ自動車・デンソーの意図を反映した仕上がりとなるよう貢献していくことになるだろう。SoC開発には巨額の投資と時間がかかる。SoC開発の初期の段階で明確な方針を示し、SoCベンダーを選定していく必要がある。自動車の自動走行に関する明確な目線を提供していく」(篠島氏)

 パワーデバイス、センサーでも「パワーデバイス(チップ)だけ良くなっても、それを支える周辺技術もともにレベルアップしなければ意味がない。パッケージ、トランジスタ、コイル、インダクターなど周辺の受動部品も含めた進化が必要であり、高耐圧、高耐熱、低損失など、挑むべき課題は多数存在する。周辺部品関連メーカーとよいチームワーク、コラボレーションを実現したい」(篠島氏)、「センサーではレンズなど光学部品の技術進化も問われる。また、精度の良い実装を実現する技術が必要となる。センサーの小型化・高精度化が進めば、信頼性も含めた精度向上のハードルは上がる。こうした課題をともに乗り越えていく必要がある」(岩城氏)との意向を示しているのだ。

アイシン精機の電子センター、前向きな協業でともに未来の新規デバイス創造を志向

 また、トヨタグループ大手ティア1として、自動車部品総数約3万点と言われるうち、約半数に相当する幅広い自動車部品を手がけるアイシン精機(株)において、各種ECU、センサーなどの主要電子デバイス関連を一手に担うのは、電子技術部隊「電子センター」(筆者訪問時は、アイシングループ情報・電子バーチャルカンパニー)だ。20年2月に、同電子センターを率いるアイシン精機(株)執行役員アイシングループ情報・電子バーチャルカンパニープレジデント 電子商品本部長(筆者訪問時の肩書)の植中裕史氏に訪問インタビューした折には、電子センターが担う情報・電子技術について、「各種ECU、センサー、アクチュエーター、あるいはそれらが一体となった製品を担っていく。スマートセンサー、スマートアクチュエーターなど自動運転や電動化、利便性向上に向けたインテリジェント部品などが該当する」とし、植中氏が電子センターを率いるにあたり大切にしている点については、こうコメントしている。

 「電子センターは社内の各カンパニーのシステム商品の電子部品を担うことになる。その際、自動車メーカーから、あるいは社内カンパニーから“こういう部品が欲しい”と言われるのを待つのではなく、我々から電子技術でできることを提案していく自主性を重んじていきたいと思っている。攻めの姿勢で積極的に。これを実現するために心がけていることは、システム開発部隊、自動車メーカー、外部の電子デバイス企業などあらゆる方々とのコミュニケーションだ。そのなかで、我々から提案している案件も複数生まれ始めている」

 そして、電子デバイス・電子部品関連各社へのメッセージでは、一緒に未来を切り開いていく必要性を説く。

情報・電子、パワートレイン、走行安全、車体を結集したアイシングループの「i-mobility TYPE-T」
情報・電子、パワートレイン、走行安全、車体を結集したアイシングループの「i-mobility TYPE-T」
 「サブアッセンブリーでは急速に一体構造化・小型化ニーズが高まっている。こうしたニーズに応える小型化技術、カスタムIC作り込み技術、プリント基板と複数部品の接続技術、高密度プリント実装基板技術など、業界各社様と協業しながら一緒に未来の新規デバイスを創造していきたい。また、前述のガスセンサーや電波センサーなど新たなセンサー領域が生まれつつある。こうした新規ニーズに向けた新規開発で協業できる仲間も求めている。昔は民生技術の信頼性が高まった後に自動車へ、というスピード感だったが、今は違う。スタートアップ企業なども含め各社様との前向きな協業を大切にしながら、ともに未来を切り開いていきたい」(植中氏)

海外ティア1大手のボッシュもCASEでセンサー搭載数増に言及

 ちなみに、海外ティア1もCASE戦略を見据えるなかで、センサー搭載数増など電子デバイス、電子部品の重要性に言及している。

 海外ティア1大手のボッシュの日本法人を率いる代表取締役社長のクラウスメーダ―氏は、20年1月半ばに東京ビッグサイトで開催された「オートモーティブワールドセミナー2020年」の特別講演で、自動車の開発は「レベル2~レベル3の自家乗用車」と「レベル5の都市型自動タクシー」の二極化になるとし、前者では20個のセンサー、後者では80個のセンサーを要すると語った。また、自動運転において「自車位置推定が重要」として、検出精度2~10㎝で自車位置を推定し、クラウドと情報連携するイメージ図などを紹介していた。

 また、一般ユーザー的な技術開発例では利便性向上事例にも触れた。たとえば、スマートフォン上のデジタルキーにより、家族間でのキー送受信、レンタルカー時のキーシェア、宅配業者が配達先の自家用車トランクのみを開閉できるシェアキーで配達物を入れておくことなどが可能になる事例、コミュニティーベースパーキングでは駐車場の空きスペースを瞬時に把握し時間ロスのない駐車も実現する事例などだ。

センサー、電子部品など周辺技術に商機到来

 さて、こうした自動車メーカー、ティア1メーカーの思いに応えるべくCASEに向けて創出されるセンサー、電子部品を本格的に追いかけようと思った矢先、足元の新型コロナ自粛体制に突入し、コロナ後の宿題となっている。しかし、各社から飛び出すニュース、ご縁のあった取材先などから、こうした自動車業界の変革の波は、電子部品メーカー各社を取り巻く環境にも及び始めていることが伝わってくる。

 たとえば、新型コロナウイルスにおける自粛体制の真っただ中にあった20年4月23日に舞い込んだのは、大手半導体デバイスメーカーのNXP Semiconductors(オランダ)がWi-Fi6モジュール向けRFフロントエンドICを村田製作所に提供し、両社協力して最新のWi-Fi6標準対応のRFフロントエンドモジュールを提供するとのニュースだった。他にも4月24日には、アルプスアルパインがレーダーセンサー開発を手がけるAccorner社(スウェーデン)とMOU(基本合意書)を締結し、車載向け次世代センシング技術の共同開発を行うことを発表。3月には、TE Connectivity社(スイス)がセンサー技術を強みとするファーストセンサー社(ドイツ)の買収を発表するなど、まさに電子デバイスメーカーと電子部品メーカーの垣根なきコラボレーションが急ピッチで動き始めた。

 また、電子部品各社の中期戦略には「車載の電動化」に伴う高耐圧・大電流対応品、小型・低背・省スペース品、一体構造化・高密度実装、車室内を見据えたハプティクス技術、タッチパネル向け製品などのキーワードが散りばめられ、ティア1各社の思いと重なる製品開発、増強投資が目白押しなのだ。

 直近の事例だけを見ても、静電容量方式タッチパネル、積層材料や圧電技術を利用したハプティクス(触力覚)デバイス(ピエゾアクチュエーターなど)、電波式など乗員検知・生体情報センサーなど車室内へのアプローチ製品、車載インバーターIGBT向けコネクター、車載向け高耐圧・大電流対応のパワーインダクター、静電気対策を施したESD保護デバイス、3軸の加速度と3軸のジャイロの計6個を1チップで実現したコンボセンサー、大電流検出・高電圧検出・長期信頼性の抵抗器、カーエアコン用やエンジン水温用のサーミスター、タイヤセンサーなど、枚挙にいとまがない。

 実際に、新型コロナウイルスの自粛体制が本格化する直前に訪問した車載用サーミスター大手の大泉製作所では、既存のエンジンを主体とした内燃車では1台につきサーミスターが10~15個搭載されているが、電動車ではHV/PHVでは同15~30個、EV/FCVでは同20~25個搭載となり、搭載数量は倍増すると見据える。特に、エンジンも電池もあるHVはサーミスター搭載数量がもっとも増えるとしていた。

 また、車載向けでは昇圧リアクタ―・コイルを中心とする各関連事業で着実な伸長を見せるタムラ製作所では、バッテリーから駆動用モーター間のPCU内昇圧ユニット向け昇圧リアクタ―では700V以上へ昇圧するニーズに対応すべく、製品ブラッシュアップを続ける一方、将来を見据えた電流センサー開発も進める。本原稿執筆直前の4月24日に20年3月期通期決算を発表した日本航空電子工業においても、自動車向け新製品対応事例として、欧州標準対応エアバッグ用コネクター、EV向け大電流コネクター、車載タッチパネル増産対応フィルムセンサーを挙げている。

 このように、自動車業界の「100年に一度の大変革期」はデバイスメーカーと電子部品メーカーのコラボレーションを加速させ、各社に新たな商機をもたらしていることが見えてくる。

 ティア1、デバイスメーカー、電子部品メーカー、材料メーカー、基板メーカーなど垣根なく、固定観念に縛られない発想の転換、コラボレーションを通じ、独自の強みを確立していく挑戦が始まっている。自動車業界が抱く「100年に一度の大変革期」というピンチはチャンスでもある。大手、中小の企業規模を問わない新たな商機到来の好機が訪れている。新型コロナが終息した後には、CASEに向けた確実な未来が待っている。そこには各社の英知が結集した想像を超える新たな技術革新が巻き起こっているのかもしれない。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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